74品目:岩島組、継承騒動 ~空気を読まない乱入者、現る!?~
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「ツラー親分さん!! ちょっと待ってくれませんか!!」
この話はこれで終い、という雰囲気のツラー親分に私は待ったをかける。
周囲のガンデカイワがガタガタ震え、地面を揺らす。
おそらく、私がツラー親分へ勝手に話しかけたことを怒っているのだ。
『おのれ! 女子供がしゃしゃってくるんじゃねぇ!』
『誰の許しを得てしゃべってる! 潰すぞ!』
『親父ぃ、無礼な人間の小娘を潰す許可をくだせぇ!』
ほらぁ! やっぱり怒ってた!! 裏稼業の岩、怖すぎる!
でも、ここで引くわけにはいかないっ!
「ツラー親分さんは、責任を取るって言ってますけど! 一体、どうやってですか!?
この騒ぎはすでに国にバレてるんですよ!!」
ガタガタガタガタッ……カタッ。
地面の揺れが止まる。
ツラー親分が周囲のガンデカイワたちを威圧し、黙らせたのだ。
はぁ。助かった……。
ぺしゃんこ即死ルートは回避できたか。
それにしても、少し騒がしくなっただけでこの揺れか。
本格的なドンパチが始まったら、この辺りはただじゃすまないぞ。
慎重に言葉を選んで、穏便にいかないと……。
『小岩どもが邪魔したのぉ。娘、国が動いとるいうんは、どういうことだ?』
「この騒動は、マキナリウムの上層部で把握されてます」
『ワシらの馬鹿騒ぎが筒抜けっちゅうことか……』
「はい。その証拠に、こうして私たち冒険者に依頼が出されてますから」
エイジスさんは国が警戒してる、としか言わなかった。
つまり、私の依頼は国からの直接依頼ではない。
でも、物は言いようだ。あながち間違いでもない。
「そういうことだし。隣国と共同討伐って話も出てるし。
こっちはまだ可能性の段階だけど、これ以上騒ぎが大きくなったら……どうなるか分からないし」
シャルルさんの方では、そんな話になってたんだ。
これで、ツラー親分も身内で処理できる問題ではないと理解してくれただろう。
『お前ら。この娘たちと大事な話がある。しばらくワシから離れてくれるか』
ツラー親分はしばし考え込む。
そして、私たちと三人だけで話をしたいと周囲の手下たちに呼びかけた。
またガタガタ揺れが始まるのかと思いきや。
ガンデカイワたちは素直に、ツラー親分から離れていった。
「ツラー親分さん。
人払い(岩払い?)をしてくれたということは、話し合いの余地はあると考えていいんですか?」
「うちらは戦いを避けたいし……」
「慎重に考えた方がいいわよ。人間たちの力は侮れないんだから」
『……血気盛んな若い奴が多いんで、言えんかったが。
実はワシは、タイドーに岩島組を譲ろうと思っとるんじゃ』
まさかの告白だった。私たちは言葉を失う。
『そもそも、最初からタイドーと戦う気はないんじゃ。
ここを見てくれるか……』
何かやら足元の岩が盛り上がったかと思うと、紫色の宝石が出てくる。
これは、ガンデカイワのコアか!
ドクンドクンと脈打って、まるで心臓みたいに鼓動している。
「つらちん……どうして、この状態で動けるし?」
私とは対照的にコアをみたシャルルさんの顔色が悪い。
『アンタはワシの状態が分かるのか。そんなに、悪いんか……』
「……うちは呪術医だし」
『はっはっは。お医者様だったつぅわけだ!
ほんじゃ、ワシの状態で抗争なんざ、できるわけがないとわかるじゃろ』
宝石は今もキラキラと光り輝いていて、綺麗だ。
だけど。これはあまり、良い状態ではないらしい。
ツラー親分は、一体どうしたのかな。病気? あるいは怪我か。
「……そう、だったんですね」
ここはゲームの中で、相手はモンスター。
どういう状態ですかって聞けばいい。
でもなぁ。空気が重苦しい。
妙に感情移入しちゃうんだよな。こういう話題は聞きにくいや。
『なぁに。ただの寿命だ。誰にでも来るもんじゃ。
あんたたちみたいな真っ当な者も――ワシらのような日陰者もな』
私はシャルルさんの顔を見る。
彼女はこちらを見て、こくんと頷き肯定した。
『本当はな。もう少し、時間があると思っとった。
なぜなら、ワシと同等の力を持つガンデカイワがいなかったからじゃ』
「タイドーは違うんですか?」
『そこが奇妙な話でのぉ。
タイドーの奴。急に力が増したんじゃ……一体どういうカラクリ使ったかはしらねぇが……』
ツラー親分の話はこうだ。
自分はもう長い年月生きてきた。
己の寿命が近いということも、自覚があったという。
そのため、自分の死後。岩島組をまとめてボスデカイワとなる候補を選んでいた。
それがタイドーだった。
奴がボスとしての力を付けるには、もう少しかかると思っていた。ところが……。
『急にじゃ。タイドーの奴が突如、ボスデカイワとして力を付けてな。
ワシのところにカチコミに来たんじゃ。
その時はワシがその場を収めて……タイドーは去っていった』
驚きこそあったものの、元々次期ボスはタイドーと決めていた。
次にタイドーがツラー親分のところに来たとき、岩島組のボスの座を譲ると告げたそうだ。
すると、タイドーが激怒したという。
『そこからは、売り言葉に買い言葉。醜い言い争いよ。
そのうち、うちの組のタイドーを気に入らん奴が、ボスとは認めんなんて言いよって。
ほんじゃあ、抗争じゃいうてな……。
そこからじゃな。タイドーがガンデカイワを引き抜いてまわって、よそ様に迷惑かけとるっちゅう噂が流れてきたのは』
ふむ。急にタイドーがボスデカイワとして進化した、か。
システムとしては、モンスターが急に強くなることは珍しいことじゃないな。
『ワシが老いて弱ったばかりに面倒をかけて、本当にすまん』
「なんでタイドーは怒ったし? ボスになりたくなかったし?」
『わからん……。タイドーは常々、ワシを超える親分になると言っていた。
いつかお前を倒して、頂点取ったると豪語していた。むしろボスに喜んでなると思ったがな』
おっと。これって。
もしかして、ツラー親分とタイドーですれ違いが起こってるんじゃないか?
「シャルルさん、もしかして……」
「くぅちん。これは男と男の熱い戦いだし!」
シャルルさんは目をきらきらさせて、うんうんと納得していた。
アリアは男ってめんどくさい生き物ねぇとあくびをしている。
「ツラー親分。実は――」
ゴオオオオオォォォ!!!!
「な、なに!?」
「ゆれるしぃぃいい!!」
「危ない! 落ちないように捕まりなさい!!」
私が口を開きかけると、地面が一際大きく揺れた。
咄嗟にアリアがツラー親分に根を張る。
ツタを伸ばして、私とシャルルさんに巻き付く。
あ、危なかったぁぁ……。
アリアが掴んでくれなかったら、うっかり落下死してたよ。
「なんか、揺れが近づいてませんか!?」
地響きがどんどん大きくなる。
なんだあれ!? 向こうから砂埃を巻き上げて、何か転がってくる!?
『おまえ、タイドォォ!!!!』
ツラー親分と同じくらい立派なガンデカイワ!!
って、アイツは!! てっぺんに木が生えてる奴!!
あれ、見たことあるぞ!!
「アリア!! あいつだよ! マキナリウムまで私たちを追い掛け回してきた!」
「はぁ!? まさか、あのガンデカイワがタイドーだったの!?」
鋭い眼光。ガンデカイワにしては異常な転がりスピード。
頭のうえの木がトレードマークの憎い奴。
『おいおいおいおい! この老いぼれがよォ!! ええ?
人間なんざと結託して、のらりくらりと逃げようなんざ。どんだけ落ちぶれりゃ気が済むんだ!!
このタイドーッ! アンタがそこまでの男だったなんて、ガッカリだぜ!』
「誰かぁぁ。ここどこなの? 地震がすごくてぇ、動けなくてぇ」
……あれ? なんか今、ガンデカイワ以外の声が聞こえたような?
『ワシは言ったはずだ。岩島組の座はお前に譲ると!
それの何が気に食わんのじゃ!!』
『何が気に食わないって? ええ? 全部だよ、全部!!
アンタァ、俺をバカにしてんのかよォォ!!』
「困ったわぁ。この岩さんはいつも怒って、動き回ってるから、私も動けないし。
やっぱり、律子と一緒にダイブインすればよかったわ。全然分からないんだもの……」
ちょっと待って! ツラー親分とタイドー!
あのね! 盛り上がってるところ悪いけど、なんか聞いたことある声が聞こえた!
え、あれ? もしかして。
いや、でも……。そんな偶然ある?
「む、むぎー先輩?」
「あら? 誰かしら?」
私の声に反応して、タイドーの上の木が揺れる。
光のエフェクトが輝く。
光と共に、妖精の羽が生えた女性が現れた。
「誰だし? プレイヤーだし?」
シャルルさんもタイドーの上にいる人物に気が付いたようだ。
「あら。こんにちはー。貴方たちもこのゲームで遊んでるの?」
殺伐とした中で、気が抜けるようなのほほんとした女性の声。
間違いない。この声といい、さっきの発言といい。
このプレイヤー、ムギー先輩だ!




