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抱擁④~第十二章 和解①

 しかし、隣人は今日も遅い。大きな声を出しても大丈夫だ。


「とうとう狂ったようね」


「いや、違う」


 やっぱりこれだ。この女とはこういう関係でなくては駄目だ。


 自分は有坂かなめという性悪女に会えて幸せだ。


 笑いすぎて腹が痛かったが、どうにかこらえて、かなめを見つめた。


「かなめ、頼みがある」


「化粧の次は何かしら?」


「お前を抱きたい」


 その場に沈黙がはしったが、栄二は後悔していなかった。自分は正直な気持をかなめにぶつけたにすぎない。


 拒絶されても押し倒せそうな自信が今の自分には、みなぎっていた。


 かなめが、微かに動いた。表情はいつも通りあまり変化はないが目が違った。


「言った以上、後悔しないことね」


 かなめが、栄二に覆いかぶさった。


 二人の唇と唇が重なった。


 後は熱い空気におぼれていくだけだった。


 朝になって目覚めると、ベッドにかなめの姿はなかった。栄二の手にはまだ、かなめの左右の乳房も、手入れがしっかりとしてあった陰毛の感触も生々しく残っていた。


 せめて陰毛の一本でも残ってないだろうか。


 改めて手中を確認したが、何も残っていなかった。


 舌打ちすると、シャワーを浴びるために浴室に入った。


 次に彼女に会うのは、いつのことだろうか。シャワーを浴びながら、ずっと彼女のことばかり考えていた。




     12



 卒業論文は期日までに提出することができた。これも全て有坂かなめのおかげだった。


 かなめは、あの夜以来、自分のもとを訪れていない。買い物に行く前の添削で自分の用が無くなったと言っていたところから、行く気が失せたのだろう。


「俺もかなめちゃんのハヤシライスを食べたかったな」


 コーヒーにミルクを注ぎながら、後藤は栄二の話を聞いていた。実際に後藤が真剣に聞いているのはハヤシライスの箇所だけである。


 食いしん坊め、と栄二はあきれた。


 二人は大学の近くの喫茶店にいた。


 卒業論文を提出した後、栄二は後藤に謝罪した。後藤はわけが分からず首をかしげていたので、栄二はかなめと最後に会った日のことを話した。

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