和解②
話を聞き終えた後藤は、「とりあえず卒業論文提出、おめでとう」と栄二の肩に手を置いた。
怒られたり殴られたりするのを覚悟していた栄二だが、後藤がいつも通りの態度だったのでびっくりした。
「どうした?」
「怒ってないのか?」
「言うと思ったよ、そういうお決まりのセリフ。まあ、気にしてないというのは嘘になるけど。俺だって栄二の気持が分からないこともないさ」
「俺の?」
「ああ。俺だって、中学の時に意味もなく人を憎んだよ。勉強やスポーツで表彰される奴らを見ると、嫉妬に狂った目で見ていたのを覚えているよ」
後藤がそんな過去を持っていたなんて、にわかに信じられなかった。
嘘をついているのではないのだろうかと思ったが、こんなので嘘をついてもなんの得も無かった。
後藤が言っているのは本当のことだろう。
次の瞬間、栄二は気付いた。
後藤が就職活動で忠告をしてくれたのは、昔の自分が近くにいると感じたので、同じ轍を踏ませないようにしたかったからではないだろうか。
だが、所詮は推測にすぎない。結局、真相は後藤の心中にしかない。
「どうした、栄二?」
「なんでもない」
「そうか……ところで、かなめちゃんは、お前のところには、もう来ないのか?」
「たぶんな」
「つまり、お前は失恋したのか?」
「…………」
「すまん。余計な一言だった」
「いや、当たっているからいいよ。それに思いはぶつけた。もう十分だ」
「なら、お前は一つ大人になったな」
「そうかな……いや、そうかもな」
栄二と後藤はお互い笑い合った。周囲の客や店員が二人を奇異な目で見ていたが関係なかった。
見たければ好きなだけ見ればいい。
「それじゃあ俺は帰るよ、後藤」
「気を付けて帰れよ。最後に尋ねるけど、かなめちゃんは社会人だったな。どこで働いているの?」
「俺たちの大学の近くにある三文社という出版社だけど、それがどうかしたのか?」
「いや、かなめちゃんに興味があるから調べてみようと思ってね。機会があれば、今度会社まで訪ねてみるよ」
「やめとけ。お前なんて、あいつの皮肉に耐えられないはずだ。まあ、止めはしないけど」
栄二は喫茶店から出て行った。
一人になった後藤はカバンからスマートフォンを取り出した。最近の大学生のほとんどが所持しており、後藤もアルバイトで貯めた金をだいぶ失ったが、どうにか手に入れることができた。




