買い物②
「お前の素顔を見るのは初めてだな」
「私は別に見せるつもりはなかったけどね。あなたは私の素顔を見たかったの?」
「あんな派手で下手くそな化粧をしていたからな。見たくなるよ」
「悪かったわね。手先が不器用なのよ。それとも何かしら?これから私の化粧はあなたが担当してくれるの?」
「丁重にお断りさせていただきます」
自慢ではないが栄二も手先が器用ではない。自分の手で、かなめを化粧するなんて、後でどのような報復という名の指摘が来るか考えただけでも身震いしてしまう。
ふと、周囲を見渡すと何人かの客がじろじろと見ていた。
「見られているな」
「いくら人ごみでも、これだけ話しているのだから、注目を集めるに決まっているわ」
これはさっさと買い物をすまして帰った方がよそさそうだろう。下手をすると、この買い物客たちの声まで、『ねずみ花火』に聞こえてしまいかねない。
栄二は一呼吸して気持を落ち着かせた。
これで準備は整った。さっさと先を急ごう。邪魔な人ごみはかき分けていけばいい。
「待った」
後ろから、かなめが呼び止めた。
「あなた、買う物を知っているの?」
「あっ!」
「せっかちね。私はまだ作る料理さえ言ってなかったのに」
「すまない」
自然と口から出ていた。栄二が、かなめに謝ったのは初めてだった。
というより、人に謝るなんてずっとしていなかった。子供でもできる簡単なことなのに、なぜか今はできない。
なぜだろうか。
大きなクエスチョンマークが、スーパーの天井を突き破って栄二の頭上に落下してきそうだった。
「どうかしたの?」
かなめが尋ねたが、栄二は首を横に振ってなんでもないという意思を示した。
「そう。今日はハヤシライスだから、まずは野菜売り場に行きましょう」
「ハヤシライス?かなめはそんなものを、あっという間に作れるのか?あれは時間をかけて作るはずなんだが?」
「私が本格的に作るわけないでしょう。ハヤシライスのルーを買って、味付けをするのよ」
確かにかなめが手間のかかる作業を好んでするとは思えない。もしやっていることが分かったら、帰り道はきっとみぞれまじりの雨か、漂にたたられる災難に遭うに違いない。




