誘い③~第九章 買い物①
さすが出版社に勤務しているだけあって言葉が出てくるが、知りすぎているため、面白みに欠けていた。
だが、これでかなめに対しての疑念は晴れた。
「分かったよ。疑って悪かった。でも、どうして俺が一緒に行かなければ駄目なの?」
「荷物持ちに決まっているでしょう。女に荷物を持たせるなんて最低ね?」
性悪女のことだから予想はしていたが、やっぱりだった。
栄二は肩を落とした。
「文句でもあるの?」
「ありません」
「じゃあ、行きましょう」
「ちょっと待った。頼みがある」
踵を返したかなめの肩に栄二が手を置いた。
9
スーパーはマンションから、歩いて十分ほどの場所に位置していた。
今日は日曜日なので、午前中から買い物客でにぎわっていた。栄二とかなめも、そんな買い物客の一部である。
「買い物かごも、俺が持つのか?」
「そうよ。何事も女に優しくするべきよ」
「いや、品を買うのはお前のはずだが……」
「そうやって口答えばっかりするから、前の彼女に振られたのじゃないの?前の彼女は、あなたのこんなわがままも、素直に聞いてくれる人だった?」
そう言ったかなめの顔に化粧は、ほどこされていなかった。栄二が出発前に、かなめに頼んだのは化粧を落としてもらうことだった。
さすがに彼女の派手な化粧では、人の多い休日のスーパーでは嫌でも目立つ。
しかも一緒に歩くとなると、かなり恥ずかしかった。
頼むのは必死だった。嫌だが頭まで下げた。初めは渋っていたかなめだったが、栄二が欲しいものがあったらなんでも買っていいと言った途端に表情が変わった。
微笑を浮かべたのである。
栄二は嫌な予感がしたが、かなめが化粧を落としてくれたので、とりあえずほっとした。




