誘い②
コーヒーは欲しいか尋ねると、かなめにいらないと返した。
台所に向かった栄二は自分のカップにコーヒーを注いだ。
「何も無い冷蔵庫ね」
いつの間にいたのか、かなめが栄二の背後におり冷蔵庫の中を点検していた。
「一人暮らしだから、何も無くて当たり前だよ」
「『一人暮らしだから』というのは、答えじゃないわ。それじゃあこの世界……いや、宇宙も含めた一人暮らしの人に対して失礼よ」
「宇宙も含めるってことは、かなめはまさか宇宙人を信じているのか?」
「はあ?宇宙ステーションに滞在している人たちに決まっているでしょう」
尋ねたのが馬鹿だったと栄二は自分を呪った。帰ってくれと言いたかったが言い出せず、ごまかすためにコーヒーをすすった。
「行くわ」
「帰るの?」
ちょっと期待したが、かなめが振り向いてにらんだのでひるんだ。
「冷蔵庫の中があんな悲惨な状況だと、ろくな食生活をしてないでしょう」
「そうだな」
確かにいつも、駅前にある弁当屋の日替わり弁当を買って過ごしているが、栄二は特に悪いと思ったことはなかった。
何しろ手作りで味がよかったし、栄養も考慮してくれている。その辺のコンビニ弁当よりはましだった。
あそこの弁当のうまさを、かなめにも分からせてあげたいと栄二は考えた。
「ほら、行くわよ」
かなめが栄二を手招きした。
「行くって、どこに?」
「近くにスーパーがあったでしょう。買い物に付き合いなさい」
「なんで買い物に?」
「ちょっと暇だから、手料理ぐらい出してやるわ。簡単なものだけどね」
女の手料理と聞くと、大抵の男は喜ぶだろうが、なぜか栄二は素直に喜ぶ気になれなかった。
むしろ、かなめが何を企んでいるのか早急に暴かないと大変なことになりそうな予感がした。
「私を疑っているでしょう」
「なんといっても、かなめだからな」
「私が新開発した毒薬でも料理に混入すると思っているの?」
「なんといっても、かなめだからな」
「生憎だけど、私には毒薬やその他の危険物の知識は無いし、人殺しで刑務所に入るのはごめんよ。刑務所なんかに入ったら、自分の好きなことができないでしょう。今の私はただ純粋にあなたに手料理をごちそうしたいだけよ」
なんて陳腐なセリフを吐くのだろうか、と栄二は心中で笑ってしまった。




