公園での二人②
「ゴーストライターですか?」
「たまにいるんだよ、そういうことをする生徒が。まあ君に限ってはないだろうけど」
「教授、栄二は彼女に卒業論文の指導をしてもらっているのですよ」
後藤だった。かなめのことを「彼女」と言っているようだが、栄二には意味が理解できなかった。
かなめとは卒業論文の指導以外、なんの関わり合いもない。後藤が考えているほど、あの性悪女と甘い関係なんてない。
「びっくりしたな。田中君が彼女に卒業論文の指導を頼んでいたなんて……」
「彼女ではありません。後藤の言うことを真に受けないでください。偶然出会った社会人の女に協力してもらっているだけです」
「おまけに年齢が上なのか。君もなかなかやり手だね」
どうやらこっちの話に耳を傾ける気はないらしい。他の学生たちも興味津々に見つめていた。
弱った。何もかも後藤が余計なことを言うからだ。
栄二は後藤をにらんだが、当の後藤はまったく気付いていなかった。
彼は二日前に、就職活動を終えた。小さな運送会社から内定をもらっていた。
周囲は後藤を、戦地から生きて帰還した兵士のように称賛していた。
一方、栄二は未だに就職活動という戦地をさまよっていた。彼の戦意はすでに喪失していた。
もう何もする気がおきなかった。
ただ戦地から帰還する兵士たちの後ろ姿を見送るだけだった。
ちょうど終業のチャイム音が鳴り響いたので、ゼミの時間は終わった。
研究室を出た栄二は、『ねずみ花火』の群れをくぐり抜け、近くの公園に出た。
そこは、かなめと初めて出会った公園ではないがベンチに座ると、あの日のことが思い出される。
初めて会った時から、かなめの化粧には驚かされてしまう。今でもあの派手な化粧は変わっていないが、いい加減変えてほしかった。
栄二は深い溜息をついた。
「溜息をつくほど、あなたは疲れていることをしていたかしら」
後ろから聞き覚えのある声がしたので振り向くと、有坂かなめ本人が立っていた。
案の定、いつも通りの派手な化粧だった。よく恥じらいもなく、外を歩くことができるものである。
「人をじろじろ見るものではないわよ」
「そうかい?」
「そうよ。特にあなたはね。そこが面接に通らない理由なのかもね。面接官の顔を窺っていたとか……」
「大きなお世話だ」
しばらく気まずい沈黙が流れた。このままではいけなかったので、栄二から話を切り出すことにした。




