13 七人の勇者
深夜だと言うのに、王宮には煌々と明かりが灯っていた。
「ファーア…」
緊張が解けたのか、レタスが大きなあくびをする。無理もない、あれだけの激闘をくぐり抜けたのだ。
ふと、入口の方から数人走ってくる影が見えた。よく見ると先頭はアーサとセリーナである。近くまで来ると、二人は目に涙を貯めていた。
「…バカね!危険な事はしないって言ったのに…」
「ご、ゴメンよ…うう」
釣られておこめ父さんも思わず涙ぐむ。
「おお、みんな無事じゃったか!トーサンもよく無事に帰ってきたのう…良かった良かった」
後ろからキネウス村長達もやって来た。よく見ると、本物のターン・ハピネスもいる。
「皆さん…ご心配をおかけしました!そして…そしてありがとうございます」
「何を言うとる、お互い様じゃろうて…ワシも行っても良かったんじゃが、今回は若者達に託したわい」
キネウスの側で、カキタネが目を細めた。
「村の代表者達は顔が割れているし、何かで呼び出された時いないのも怪しまれると思ったのだよ。それに変装して忍び込むには、多すぎても上手くいかないからね…だから若手に動いてもらったよ」
「ええ、皆さんには本当に助けられました…それとカキタネさんや、ホー…」
口に出しかけておこめ父さんは、ホー君が既に闇に消えていった事を思い出した。
鳳凰は王宮の数百メートル手前で8人を降ろした後、そのまま夜の空へ飛び立ち、自分の寝床へ帰って行ったのだ。
おこめ父さんの頭にホー君の言葉が蘇る。
「僕はここで帰るよ…王宮にいる人達は大丈夫だと思うけど、まあ今まで秘密にしてるしね。謎な存在の方がかっこいいでしょ?それに本当の事言うと、すんごく眠いんだ…最近起きすぎていたから、戻ってしっかりと寝るよ」
いつもは起きて8時間ぐらいでまた眠りにつくそうだから、眠たくて仕方なかったのだろう。
ホー君に感謝を伝えながら別れ、おこめ父さん達は王宮へ戻ったのだった。
「…ええ、あの、皆さんに助けられました。お世話になりました」
「うぃー、トーサン・オコメもナイスだったぜい!最後に突破できたのはお前さんのおかげだ」
サケマロが隣で笑いながら、おこめ父さんの背中をバシバシ叩いた。その奥ではボリンがこれまた豪快に笑っている。
「ガハハハ、俺達はやっぱり伝説の7人か⁉1、2、3、4…」
伝説の7人か…7人の勇気ある者達が揃ったら、神が願いを聞いてくれるんだったっけ。ならきっと、ホー君は、本当に神の遣いなんじゃないだろうか。
だっておこめ父さんが大ピンチの時に、七人は駆けつけてくれたのだ。そしたらホー君が現れて助けてくれた。攻撃や炎は効かないと来ているし、空を飛んで皆を運んでくれる。神の遣いにはピッタリだ。
言い伝えは本当だったんだ…伝説の七人の勇者のおかげで、おこめ父さんは助かったのだ。
「…6、7、8⁉ガーハッハ、そうか8人いたぜ!ヒヒヒ、ヒィーハハ」
ボリンが人数を数えながら、笑い上戸でこっちにやってきた。
「…ボリンさん、7人で合ってますよ」
「ん⁉数え間違えたか、ハハハ…どれ1、2…」
再び数えようとするボリンを、おこめ父さんが制した。
「僕を除いて7人です。ボリンさん、サケマロさん、ノリスケ君、ビーフン君、レタス君、ロール君、そしてカキタネさんです。この7人がいなければ、僕は一生ポタトリアから戻れなかったでしょう。皆さんが伝説の七人なんですよ!」
叫ぶおこめ父さんの隣に、いつの間にかカキタネが来ていた。
「それは違うよ、米の人」
「えっ…」
「拙者は今までの知識や経験を活かしたまでだ。伝説では『七人の勇気ある者』と言っていたはずだよ…最初は米の人の勇気から始まったのだ。それが広がって、この6人の若者達に心の火を付けた。勇気とは、困難に勝てるか分からない中で、それでも立ち向かう心の事だ…だから伝説の七人の勇者とは、君達の事だよ」
6人の若者達とおこめ父さんは、しばし黙ってその言葉を聞いていた。面と向かってそう言われると、何だか照れくさい。
「まあそれに、あいつもきっと『僕は神の使いなのか分からない』って言うだろうよ」
「はは…それはそうかも知れませんね」
「ガハハハ、でもあいつ俺達より超歳上なんだもんな!変な感じだぜ」
七人とカキタネが笑う側で、キネウスだけが謎に満ちた顔をしている。
「ん?誰じゃよう分からんが、ワシより若者に信頼されとる奴がおるんか?」
「大丈夫ですよ村長、村長は信頼厚いですから!」
「ん…そうか、なら良いわい!」
ノリスケの即座の返しに、キネウスは上機嫌に戻った。土壇場に強いし、老人の扱いも上手いし、凄いなこの若者…
カキタネの掛けてくれた言葉は、おこめ父さんの気持ちをほぐしてくれた。自分のせいで皆を危険に晒した責任を感じていたからだ。
でも本当、見つけてもらえて良かった…
「あれ…そう言えば、僕の事どうやって見つけ出したんですか?」
「あれですよね、印で探したんっすよね?凄いんっすよ、カキタネさんのエレクトル!」
横からレタスが会話に加わる。
「印…ですか」
「あぁ、その通りだよ…拙者、印を付けておいた者が何処にいるのか、地図で示す事ができるんだよ。米の人に最初に会った時、危ないと思って印を付けておいたよ」
「…もしかして、あれですか?去り際に凄い力でハグされたけど…」
「ああ、気づかれぬようハグに紛れてな」
凄い感動しやすい人だから強くハグしてきたのかと思ったら、さり気なく印を付けられていたらしい。
「印って、体全体に付けられたんですか?」
「…いや、一部分だよ。拙者の手のひらを押し付けた部分に印が移るのだ。ええと、確か…」
カキタネはおこめ父さんの首筋の後ろをゴソゴソやっていたが、やがてベリベリっと何かを引っ張った。首筋に貼っていたシールを剥がされた感覚だ。
「ほら、これだよ」
「ええっ⁉これって…」
カキタネの手の上には「500円」と書かれた値札のシールが乗っていた。これが…自分の首に貼られていたと言うのか…
「こ、これ…皆さん見えてたんですか?」
「うぃー、そういやさっき見えたな、ヒック」
「私も見ました。タトゥーっていうか、地上のファッションかなと思ってたんですけど…それが印だったんですね…ふふ」
ロールがちょっと笑うと、他の皆も堪えきれず笑い出した。ボリンは笑いすぎて呼吸が苦しそうだ。
「ご、500円…トーサン、お買い得っすね」
「ふふ…でも、人間の成分はカルシウム、鉄、リンなどでできてますから。それらを全部買っても数千円とか数万円ぽっちらしいですよ」
ナットの苦し紛れのフォローに、また皆が爆笑する。40歳過ぎの中古品にしても、500円なら大特価だろう。くっ、もうちょっと普通の印は無かったんだろうか…
まあ贅沢は言ってられない。これのお陰で助かったのだから。きっとライスボール王子がいなくなった時は、こんな事できなかったのだろう…
「あぁぁっっ!」
おこめ父さんは大声で叫んだ。しまった、帰って来れた余韻でまた忘れてしまっていた。
「アーサ!セリーナ!」
奥でハピネスと話していた二人を見つけ、おこめ父さんは駆け寄って行った。
「…ハァ…ハァ…大変なんだ、落ち着いて聞いてくれるかい」
「…え、えぇ。まずトーサンも落ち着いた方が良いわよ」
「あ、はい…」
アーサのくれた水を一口飲んで、おこめ父さんはポタトリアで起きた出来事を話した。
「えぇっ⁉そんな…」
「本当なの、トーサン?」
「そうなんです。あの、本当に王子かどうか確信は持てないんですが…僕に似てたし、それに日本語も話してて。2年半前に凄いエレクトロを捕まえたって、ポタトリアの兵士の間で噂も広まってたんです…ただその人、記憶が混乱してて…」
「そんな…そんな!本当だとしたら…お母さん」
「えぇ、あの人…生きているかもしれない」
アーサとセリーナの目に光が灯り出す。
「ごめんなさい、実際会ったの僕だけなんですよね…でもその後また捕まって、独房に入れられてしまって。どうやって辿り着けば良いか分からないんですけど、クレムリン内にある地下4階の牢獄でした」
アーサが怒りに震えだした。
「それじゃあ…私達が協議してた場所の地下で、お父さんは牢屋に入れられてたって言うわけ?…ひどい、そんなの!あの皇帝、心の中で笑ってたんだわ」
「…悔しいわね。ただ難しいのは、どうやったらそれを暴いて、ポタトリアを追求できるかしら…」
セリーナも怒りに燃えているものの、冷静な発言だ。確かに、どうやって王子を奪い返せるかが問題なのだ。
「セリーナ殿の言う通りだよ…今回の事で、ポタトリアは警戒を強めるだろう。ライスからポタトリアに通じるエレクゲートには、例のエレクの網が張り巡らされると思って間違い無いだろうよ。つまり今ポタトリアに乗り込むのは危険だ。一時的に貿易もストップするかもしれん…それだけじゃない、他国とのゲートも危ないかもしれんよ。なんせ今回我々は、他国を経由してライスへ帰ってきた訳だからね」
おこめ父さん達がグレートブレッド経由で帰った情報は、当然皇帝の耳に届いているだろう。ライス王国はおろか、他国とポタトリアとのゲートも含め厳重な警備体制が敷かれるのは必至だ。
カキタネが周りの皆を見回した。
「それに…今回は敵の守りが薄かったが、ポタトリアにはまだまだ強大な力が潜んでいるよ」
「それって…噂に聞いたことがあります。三人の将軍達の事ですか」
ノリスケの問いに、カキタネは軽く頷いた。
「それもある…広大な土地のポタトリアでは、地方にも力が分散されている。中でも三将軍と呼ばれる彼らは、地方では皇帝並みに振る舞っていると聞くよ。しかも相当なエレクトロだという噂だ」
「そんな…じゃあ今回の事を受けて、エレクの凄いやつがクレムリンに戻って来ちゃうって事っすか」
「まだ分からんが、可能性はあるよ…それにだ」
カキタネが一呼吸置いた。
「ポタトリアで一番恐ろしいのは、上皇だよ」
「じょ、上皇?」
ビックリする若者とは対照的に、村の代表達は薄々分かっている様子だ。
「そうじゃな…現皇帝ショカライの父親、イモヴァン・ジャガノフ。最近は全然表に出てこんがのう…奴が息子に皇帝の座を譲った時は、まさかと思うたが…今でも裏でポタトリアを支配しているのは、そやつなんじゃろう」
コハダ・エドマエも上皇の事はよく知っているらしい。
「うぃー、じゃあ息子の不手際の後始末に、今度は親父が出てくるってか?」
「その可能性は高いよ。ショカライ皇帝が逮捕したスパイの容疑者を、侵入者に奪い返された。まして、宮殿を火の海にしても逃げられてしまった…これは皇帝一族にとって汚点だろうからね」
何やら、また争いが起きそうな雰囲気だ。しかも今度は、もっと大きく、激しい戦いの予感がする。
「…僕、きっとまた来ます」
おこめ父さんの決意に、セリーナが慌てた。
「それは危ないわよ…あなたスパイの容疑者なのよ⁉」
「ライス王国では違う…そうでしょう?ライス側として、協議に参加させてください。見たことを正しく話します」
アーサやセリーナは心配そうだが、カキタネは意外に賛同した。
「確かに、王子かもしれん男をその目で目撃したのは米の人だけだ。真実を語る時、人の言葉には力が宿る…助けになると思うよ」
「そうかも知れないけど…」
「大丈夫です、今度はポタトリアの中を勝手に歩き回るとかしませんから!ただ、一旦地上に戻らせてください…家族には遅くなるかもって伝えてたんですけど、泊まりとは言ってなかったんで。数日したら、また来ますから!一緒に戦いましょう‼」
「ガハハハ、待ってるぜトーサン!でも無理すんなよ!」
ボリンが豪快に笑い、応えるように若者達がガッツポーズをした。
これから先、また苦難が待ち受けているだろう。おこめ父さんにも、ライス王国にも。
しかし伝説に書かれた七人のように、勇気を出してぶつかって行く事はできる。
一人ではない、仲間がいる。皆の熱いエネルギーをひとかたまりにすれば力は何倍にもなり、強大な力にも立ち向かっていけるだろう。
まるで茶わんの中で湯気を立てている、大盛りのご飯のように。




