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きみと、まるはだかの恋  作者: 葉方萌生
第二章 星をかたるひと

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2-1

『ベストツーリズム』さんと星見里に向かったのは翌週の月曜日、九月八日のことだった。


「あいにくの雨ですねえ」


「本当に。九月って雨多いですよね」


 北村プロデューサーの鈍いため息が、マイクロバスの中に充満する。北村さんのほかに、アシスタントの女性、中井(なかい)さんも一緒だ。ロケの日程は他の仕事との兼ね合いで決められているから、雨予報だと知っていても簡単に変更することはできない。私にも都合があるし。一縷の望みをかけて天気予報が外れることを祈りつつ今日を迎えたが、悲しいかな朝から雨が降っている。しかも局地的なものではなく、全国的に雨模様だった。


「とりあえず、自然の風景は今日撮影しよう。星空に関しては星空ツアーを体験しようと思っていたんだけど、延期になりそうだ」


「分かりました。また日程を組んでくだされば合わせます」


「そう言ってくれてありがたいよ。ハナさんとは今後も長く付き合っていきたいからね」


「ありがとうございます」


 どの会社のひとからも、「ハナさんとはこれからもお付き合いしたい」と言ってもらえている。今のところ自分の市場価値はまだ健在だということだ。

 高速道路を走っていると、東京の街中の風景から山々に囲まれた風景に次第に移り変わっていく。そこからは変わり映えのしない自然の風景がずっと続いた。

 一時間半ほどして、星見里に到着した。意外と近いな、というのが正直な感想だった。


「うわー雨でも大自然を感じられますね。晴れていたらきっと空気が美味しいんだろうなあ」


 入社して二年目だというアシスタントの中井さんがきゃぴきゃぴとした声を上げる。私もつられてすうっと大きく息を吸った。

 あ、確かに美味しいかも。

 気温は二十九度、暑すぎるわけではないが雨のせいで蒸し暑い。それでも、肺に流れ込んでくる湿気だらけの空気にさえ、都会では感じられない自然の味がついているような心地がした。


「とりあえず今日は事前にアポとってある村長に挨拶をして、案内をしてもらう予定です。雨でも回れそうなところだけ見て解散にしよう。農作物の紹介と、美味しいごはんぐらいなら撮れそうだな。よし、じゃあ早速役場に行こう」


 北村さんは、雨で重くなりがちな私たち三人の空気をどうにか盛り上げようと、努めて明るい声で今日の計画を話してくれた。よし、私も明るくいかなきゃ。インフルエンサーとして私を抜擢したことに、このひとたちが正解だと思ってくれるように。


「今日一日すごく楽しみです!」


 にっこりと笑顔を浮かべると、北村さんがほっと安堵した様子でカメラを掲げる。今日は北村さんと中井さんが二人で別々のカメラを手にしている。少数精鋭の『ベストツーリズム』さんでは、みんながカメラを扱えるようにしているらしい。


 村の入り口から役場にたどり着くと、村長の木川(きがわ)さんが笑顔で出迎えてくれた。年齢は六十代半ばといったところだろうか。前歯が欠けているのが印象的だった。笑うと目元がくしゃりとつぶれて、アニメのキャラクターみたいにかわいらしい顔になる。


「ようこそお越しくださいました。あいにくの雨で少し残念ですが、できる限り星見里の魅力が伝わるように、ご案内します」


「初めまして。『ベストツーリズム』の北村です。こっちは部下の中井、そしてこちらは美容・コスメなどのインフルエンサーをしているハナさです。よろしくお願いします」


「中井美里(みさと)です。よろしくお願いします」


「ハナです。星見里の魅力が伝わるように精一杯頑張ります」


「よろしくお願いします。そんなにかしこまらなくてもいいですよ。それにしても、都会のお嬢さんたちは美人でおしゃれですねぇ」


「えへへ」


 中井さんが謙遜することなく照れた笑みを浮かべる。すごいな。皮肉でもなんでもなく。他人から褒められて、素直に喜べるのはいい。私は、「ありがとうございます」と笑顔をつくるだけで精一杯だった。


「まずは農作物のご紹介から行きましょうか。星見里はお米はもちろんのこと、他にも果物や野菜なんかが育てやすい気候で、豊富に採れるんですよー」


 木川さんが私たちの隣に立って、星見里の案内を始めてくれた。推定六十代だけれど、全然老いを感じさせず、背筋もぴんと伸びてはきはきとしゃべってくれる。都会で生きていると、自分の両親ぐらいの年齢の方とあまりかかわることがないから、新鮮な気分だった。


 木川さんに連れられて、いくつもの農家を回った。その間も、雨がしとしとと降り続いていて、足元を濡らしていく。木川さんの話す声もちょっとだけ聴きとりづらかった。


「すごいですねー。村一面に田んぼや畑が敷き詰められているみたいで」


 素直な感想が口からこぼれ落ちる。想像はしていたけれど、辺り一面田畑がずらりと並んでいて、まさに芸術だった。晴れていたらきっと、黄金色の稲穂が風にさわさわと揺れて、ここでしか見られない風景が広がるのだろうな。


「そうでしょう。私たちはもう見慣れてしまいましたけれどね。都会のひとたちからすれば、珍しい光景だと思います。こういう自然の風景を、若いひとたちにも伝えていきたいんですよ」


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