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きみと、まるはだかの恋  作者: 葉方萌生
第二章 星をかたるひと

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2-8

「なんでさっきからずっと笑ってるの」


「いや、波奈とこうして面と向かって話すの久しぶりなのに、昔みたいだなと思って」


「この前会ったじゃない」


「あれはほら、お互い“よそ行き”だっただろ。でも今はふたりだけで砕けて話せてる」


「店員さんがいるじゃん」


「三上さんは別。あのひとは村のお母さんみたいなもんだから」


「はあ」


 店のカウンターの奥でコーヒーを入れている三上さんのほうを見ると、彼女はまた意味深な笑みを浮かべた。まるで「頑張って」と言われているようだ。完全に娘の恋バナを聴く母親の顔だった。


「で、波奈はどうしたの? なんでまた星見里に?」


「それは……」

 

 彼に、この場所に再びやって来た経緯を話すかどうか迷う。一言で言えば、「仕事やプライベートで疲れてしまって」ということになるのだが、そんなありふれた理由を伝えてもいいのだろうかと迷う。つっこまれたら面倒臭い。仕事の話とか、男と会っているところを激写された話とか。SNSで拡散されてしまったこととか。SNSの件はもう確認してもいないが、アプリを開けば鬼のような通知が届いているに違いない。煩わしいのでポップアップ通知はオフにしている。たぶん、この様子だと彼は知らないだろう。そもそも昴は昔からSNSというものに疎かったし、今もやっているような感じはしない。時代の波に取り残されても全然平気そうな顔をするのだろう。

……と、頭の中でぐるぐると経緯について考えていると、「まあ理由なんてどうでもいいか」と彼は笑った。


「波奈が戻ってきてくれただけで、なんか嬉しいし」


 なんで? と聞き返したかった。だけど、喉元まで出かかった言葉を必死に飲み込む。

 あれ、私……どうしちゃったんだろう。

 心臓がかつてないほど激しく鳴っている。手先から足先までたっぷりと血液が巡っていて、身体の熱がどんどん高まっていく。

 照れた笑みを浮かべる昴に、そんなふうに言われて、嬉しくないはずがない。

 だって彼は私の——初恋のひとなんだから。

 今がどうとか、関係がなかった。

 私はこのひとのことが間違いなく好きだった。

 そして、うまく昇華されなかった想いを抱えたまま生きてきた。見えないふりをしていたけれど、彼への気持ちはたぶんずっと胸の中に眠っていた。このまま見て見ぬふりをして誰かと幸せになることだってできたはずなのに、いざ再会するとまた動き出してしまったのだ。

 彼のたったひとことに、こんなにも心が乱される。もう、やめてほしい。昴、あなたは私にとって過去のひとだったのに。

 もう過去に押しやれない。

 だってまた、出会ってしまったのだ。

 この小さな村で、約束もなく、再会してしまった。

 これを運命と呼ぶなら、きっとこれから先、私の人生の中でこれ以上の“運命”は訪れないだろう。


 自分の中で、波が荒ぶるようにどんどん変わっていく気持ちを感じながら昴の顔をじっと見つめる。彼のほうは不意に本音がこぼれ落ちてしまったというふうに、彼が「いや、今のは」と再び鼻の頭を掻く。今度はしっかりと掻く。おかげで鼻がほんのり赤くなっていて、ちょっと痛そうだった。


「シンプルにその、友達に再会できたのは嬉しい、だろ?」


「……うん」


 友達という二文字がこんなにも重たいなんて。まるで女子高生みたいなことを思う。とっくに過ぎ去ってしまった青春時代の自分と、今の自分を重ね合わせる。あの頃の私と今の私では何かが違うのだろう。あの頃だって、そんなに素直じゃなかった。好きなひとに好きと伝えることもできずに、昇華しきれない恋心を抱えて、何もなしえないままに、大人になってしまった。私の中身なんてなーんにも変わってないのにね。

 それでも、彼と自分の間にできた隔たりは、あの頃よりうんと大きくて分厚いものに感じられた。

 都会で暮らす私と、電波も届かない田舎で暮らす彼。

 同じ場所で生まれ育ったはずなのに、いつの間に二人の道はこうもすれ違ってしまったんだろう。


「波奈、大丈夫? なんか顔色悪いけど」


「大丈夫……」


 私が思い詰めていたからか、昴は私の顔を覗き込むようにして眉根を寄せた。その時、三上さんが「お待たせしましたぁ」と空気を読んでいるのかいないのか分からない明るい声で昴の前にコーヒーを差し出してきた。


「ごゆっくりどうぞ」


 語尾に「♡」でもつきそうな勢いで、彼女は再び微笑む。

 昴の手元からコーヒーの香りが漂ってきて、なんだか苦い気持ちにさせられた。


「波奈、今日は日帰りなの?」


 私の鞄を見ながら昴が尋ねる。


「その予定だったんだけど、帰りのバスを予約しようとしたらネットが繋がらなくて……」


「ああ、なるほどね。ネットが繋がる場所、限られてるからなー。あのさ、帰りのバスなら俺がなんとかするから、その前に星空ツアーに参加しない?」


「は?」


 私は帰りのバスのことを心配していたのに、昴の口から出てきたのは、バスとはまったく関係のないワードだった。

 星空ツアーって、確か以前来た時に北村さんたちと参加する予定だったイベントだよね。なんで昴が私を星空ツアーに誘うの? 

 気づかないうちに眉間に皺が寄っていたからだろうか。昴が、「ああ、ごめんごめん」と両手を軽くひらひらと振った。


「言ってなかったけ。俺、星空ツアーのツアーコンダクターをしてるんだ」


「つあーこんだくたー?」


 知っている。あれでしょ、ツアーガイドさんのことでしょ。うん、それぐらいは分かる。でも、なぜ昴がそんなことをしているのかが分からないのだ。


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