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婚約者様は大変お素敵でございます  作者: ましろ


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9.歪められた感情(ベンジャミン)

「こんなはずじゃなかったのに……、役に立たない子ね!」


あの時の、憎悪に(まみ)れた視線と言葉が俺の記憶から消えない。





幼い頃を思い出せば、優しい父と母に囲まれた幸せなものしか思い出せない。

俺と同じ金色の髪に新緑の瞳。いつも笑顔で美しかった母のことが、俺達は大好きだった。


そんな幸せが壊れてしまったのは、俺が8歳の時。母が体調を崩しこの世を去るまで、あっという間だった。


「カーティス、ベンジャミン。愛しているわ」


苦しかっただろうに、最後まで笑顔で逝ってしまった母。あんなにも泣いている父を見たのは初めてだった。


「大丈夫、お前は私が絶対に守るから」


父はそう言いながら俺を強く抱き締めてくれた。

その言葉に偽りは無く、父はいつも俺を一番に考えてくれていたと思う。自分を後回しにしてまで。


母が亡くなって1年もすると、新しい妻を迎えるべきだと、親族達からも言われる様になった。

だが父は、自分の妻は亡くなった母だけだし、跡継ぎも俺がいるから必要ないと、全て断ってくれた。嬉しかった。




◇◇◇




「ベンジャミン様、見~つけた!」


それでも彼等の心ない言葉に傷付き、物陰で泣いてしまう時もあった。


母君にそっくり。病弱なのも似ているのでは。本当にカーティスの子なのか。アレだけでは将来が心許無いな。


陰口とは相手に聞かせる為にあるのだと、9歳にして理解した。


だが、俺の為に妻も娶らず、自分自身も最愛を失った悲しみを抱きながらも、俺のために必死に頑張る父に、これ以上負担を掛けたくなかった。

………嫌われたくなかった。



そんな俺を可愛がってくれたのは、侍女として雇われていたモニークだった。

母とは似ていないけど、明るい笑顔で時に俺を励ましてくれる彼女は、所謂初恋の人だった。

23歳でバツイチの子爵令嬢。夫とは死別したと言い、だから俺達の悲しみがよく分かると、俺を慰めてくれた。そんな彼女のことが大好きだった。




「残念ながら、彼女は退職することになった」


どうして!?俺は必死で走った。

だって、優しかったのに。俺を抱き締めてくれたのに。頭を撫で、母を亡くした悲しみに寄り添ってくれたのにっ!


「モニーク、辞めないでっ!」

「……な~んだ。貴方なの」


それは初めて見る表情で。


「貴方の味方になったら結婚して貰えると思ったのに。

こんなはずじゃなかったのに……、役に立たない子ね!」


「……え?」

「侯爵夫人になれなかったわ!職まで失って!……最っ低。あの人が貴方を大切にしてるって嘘ね。本当に大切なら、息子の初恋の女性には優しくするはずでしょう?」


……この、歪んだ笑みを浮かべているのは本当にモニークなのか?


「貴方がもっと侯爵様に似ていたらよかったわ。こんなにお子ちゃまでなければ、あと5年位は待てたかしら。

ん~、さすがに無いか。まぁ、いいわ。さようなら、ベンジャミン様」


そうして彼女は出て行った。


俺の心に悪意だけを残して。





◇◇◇





父は女性受けが良いらしい。俺とは違って。

背が高く、顔立ちも整っていて家柄も良い。年齢だってまだ30歳。駄目なところは俺という邪魔な子供がいることくらい。

そう教えてくれたのは誰だっただろうか。


親戚、父の友人、使用人、俺の学友。

そう。教師すらも父にのぼせ上がった。


「貴方は綺麗だけど、やっぱりカーティス様の方が素敵だわ。ごめんなさい、貴方が駄目な訳ではないの。ただ、もう少し男らしい方のほうが……」


どいつもこいつも、だったら最初からアイツを狙えばいいだろうっ!!


別にコイツに惚れてたわけじゃない。それでも一々父と比べられる事が死ぬ程不愉快だった。




「婚約?なんで俺が?」

「ハミルトン伯爵のご令嬢だよ。あの方ならば信頼出来る。君に、失礼なことをする様な令嬢では無いはずだ」


カッ!と屈辱に血が上る。

こいつは全てを知っていたのだ!


「……そんなにもべた褒めする女なら、父上が(めと)ればいい」


どうせその女も他の奴等と同じだ。こんなチビで女みたいな顔よりも、アンタを選ぶに決まっているんだ。


「……ベン。一度だけ会ってみないか。どうしても嫌なら断ってくれていいから」

「どうせ決定権は俺には無い。好きにしたらいいだろう」


俺を悪意から守る為に必死だな。その悪意の原因は父なのに。アンタが必死になればなる程、俺は傷付けられるんだ。


そんな諦めを抱きながらも、ほんの少しだけ期待していた。




シェリー・ハミルトンはとても綺麗な女性だった。

スラリと背が高く、ストロベリーブロンドの髪を結い上げ、母に似た新緑の瞳が驚きで見開かれた。

俺の視線の先には……豊かな胸。

だって仕方が無いだろう。目線の高さにそれがあったんだ!どうせ童貞の小僧だよっ!!


「……初めまして。シェリーと申します」


落ち着いた声。でも、少しだけ震えている。それはなぜ?やっぱり俺に失望したから?


悔しくて、傷付けてやりたくなった。


「……でかい」


どうせそのご自慢の巨乳で父上を籠絡するつもりなんだろう?


俺の言葉に少し涙目になった。それでも必死に平気だと強がる姿になんとなく胸がすく。

そうだよ、俺が傷付けた。だってお前は俺の婚約者になるんだろう?それなら、俺だけを見ろよ。




そうやって、俺は最初から間違えた。

取り返しがつかないほど、間違えてしまったんだ。






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― 新着の感想 ―
便、安定の自己中お子ちゃま気質。 パパへのコンプレックスと初恋の痛手を、何の罪もないシェリーにぶつけるんじゃない! 後悔の「こ」の字がチラッと見えてきたぞ! シェリーを傷つけた分、後悔にまみれるがよ…
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