表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/155

ep.86 一つ話をしてあげる

 


「っはぁ……!はぁ……!」



 2人は黒の森へ落下した。

 周りを包んでいた黒いマナをオリビアが風属性魔法で吹き飛ばすと最悪の状況に顔を歪ませた。


 “「オリビアちゃん大丈夫ですか⁉︎」”


 “「ええ、大丈夫よ……」”


 “「今シオン様にも連絡しました。時を戻して……」”


 “「魔王との戦いが迫ってるのにこんな事で力を使うなって言って‼︎なんとかするから‼︎」”


 “「……分かりました。スキルは繋げたままにしておきますので何かありましたら声をかけて――赤髪の勇者様や黒髪の勇者様のお仲間達が連絡を取りたいようなのですが……」”


 “「忙しいから、無事な事だけ伝えて」”



 オリビアの前には、渦を巻く複数の黒いマナがあった。

 黒いマナはその姿を巨大な蟻のようにすると、目を赤く光らせてオリビアを見た。


「黒髪の勇者、戦える?」

「三葉が……弟が……」

「いい加減にして‼︎」


 黒いマナの影響か苛立ちを抑えられず声を荒げると、オリビアは四葉を睨み付けた。


「いるわけないでしょ‼︎しっかりしてよ‼︎」

「っ……」


 マナの蟻がオリビアに飛びかかって来ると、オリビアは地属性魔法で棘を作り出して突き刺すが、蟻はすぐに再生した。


 マナの蟻は気味が悪い事に再度攻撃を仕掛けてくる事はなく、その場でウロウロとしながら大顎を震わせてオリビアと四葉の様子を観察するように見ていた。


「なんとかタイミングを見て、もう一度飛ぶわよ…………」

「…………」

「黒髪の勇者……聞いてるの……⁉︎」

「…………」

「っ……魔王を倒さないといけないのよ⁉︎勇者なんだからしっかりしてよ‼︎」


 彼はまだ子供なんだと話していたのに、こういう時だけ都合よく目を背け、勇者という言葉を使って責め立てた。

 オリビアはハッとするとバツの悪さを感じて視線を逸らした。


 ――早く抜け出さないとまずい。


「…………あんたを困らせるような事を話したのは……悪かったわ…………でも今は――」


「……そうですよ‼︎」


 四葉は突然声を荒げると、ぐっと顔を歪ませてオリビアを見つめた。

 握られた拳は小刻みに震えていた。


「藪をつついたのは俺です‼︎でも、こうなったのは全部あなた達のせいだ‼︎あなた達があんな話を俺にしなきゃ、俺は魔王の所に行くのにこんな気持ちになる事はなかったんだ‼︎黒いマナに影響を受ける事なんてなかったんだ‼︎」


 オリビアが反論しようと口を開きかけた時、マナの蟻が再び飛びかかってきた。

 地属性魔法で防ぎつつ、集まって来た黒いマナを風属性魔法で消し飛ばすとオリビアは四葉の方を向いた。


「あんた……」


「ッ…………俺には守らなきゃいけない人達がいて…………なのに…………こんな…………」


 四葉の声は次第に弱々しく、その表情は怒りから苦しみへと変わっていった。


 マナの蟻達はまるで彼の話を聞いているかのように、攻撃せずじっと動きを止めている。


 何が目的なのか――

 オリビアが眉を寄せると、四葉は言葉を続けた。


「オリビアさんには分からないかもしれないけど……シオンって人の話を聞いた時、前の世界を知る人が他にもいた事が嬉しかった……

 シオンって人は意地悪で、神様とは思えないような人だったけど……話しててすぐ分かった……意地悪だけど悪い人じゃないって……だから、信じたい気持ちもあった……だけど……ッだけど…………」


 四葉は言葉を絞り出すたびに顔をくしゃりと歪ませ、堪えていた涙が溢れ出した。


「急に現れた男を簡単に信じられるほど、俺は身軽な立場じゃない…………俺にはリリー達がいる……

 …………だから……ッ魔王を倒した後、女神様から話を聞こうと…………ちゃんと確信を持たせて欲しかったんだ……!なのにシオンって人は……言い訳もさせてくれず……っ……」


 ――創造神はよく漫画やアニメで見るような女神と同じだった。

 優しい笑顔に、柔らかい口調。

 勇者に選ばれた事、異世界ファンタジーに憧れていた事もあり、シオンに出会うまで女神を疑った事は一度もなかった。


 それに引き換えシオンという男は、一方的に話をして決断を迫り――


『勇者様はイカサマしないと僕に勝てないのか〜?ん〜?』


 意地の悪い嫌な――


『……もぉ行っちゃうのぉ〜?』

『お前ももう少し安静にしてなきゃだろ!また後でな!』

『ちぇーっ』

『ふっ……』


『…………』


 四葉は自分と熊の魔族を見て優しい笑みを浮かべるシオンの顔が頭から離れなかった。


 しかし、信用するにはどちらも関わった時間が少なかった。


 シオンの話が嘘であれば、神から敵と見做され自分だけでなくリリー達が危険な目にあうかもしれない。


 そう思うと、四葉は自分の気持ちだけで決める事ができなかった。



「はぁ……」


 オリビアは大きく息を吐き出すとローブを脱いで四葉の頭に被せた。

 そして手をパキパキと鳴らしてマナの蟻を睨み付けながら静かに構えた。


「女神と話をしたのは転移前と、パロサントの時だけね?」


「えっ……あ、はい……」


「話した回数だけ見てもシオンとそう変わらないじゃない」


「それは……そう……だけど……」


「…………まぁ、シオンには意地の悪い印象しかないわよね」


 トランプで四葉達を負かして大人気なく笑うシオンを思い出すとオリビアは苦笑を浮かべた。

 そして少し考えると、オリビアは静かに口を開いた。


「……あんたに一つ話をしてあげる」


「……?」


「私も、異世界人よ」


 オリビアの言葉に四葉が驚いて目を見開くと、オリビアは風属性魔法で再び黒いマナを吹き飛ばして地属性魔法でマナの蟻を貫き始めた。


「私は、前にパロサントへ行った時……この世界に降りて来ていた女神と話をした。私は本来あなたと同じ、この世界に転移されるはずの人間だった。

 でも、黒の神の妨害で、転移が叶わず憑依って形でこの世界に連れて来られたの」


「憑依……」


「この体の本当の持ち主であるオリビアは死んだ。……でも私が憑依した事で魂がこの体に縛り付けられた。だから、彼女を解放する為に、魔王を倒したら前の世界に帰れって言われたの。私は魔王を倒した後の未来が来ない事を、突き付けられたわ」


オリビアはその時の事を思い出し、ぐっと拳を握った。


「前の世界に未練がないわけじゃない。でも私は、この世界に大切なモノがたくさんできた。かけがえのない、たくさんのモノが」


 まるで話を聞くかのようにじっとこちらを見つめて触角をぴくぴくと動かすマナの蟻達を気味悪く思いながら、オリビアは四葉の手を掴むと引っ張り上げて抱き抱えた。


「女神の勝手な都合でそれを手放すなんて私にはどうしてもできなかった。

 でもどうする事もできずに、心が壊れそうになった時――シオンがなんとかしてやるって……希望を与えてくれた。

 ……シオンは、すぐキャットとケンカするし口は悪いし偏屈だけど……」


「…………」



「誰よりもこの世界の人達の未来を考えてる」


 シオンの視線の先にはいつも誰かがいた。


 楽しげに話す兵士達、そして勇者や仲間が戯れるのを見る目はいつもあたたかく、

 戦いに傷付く者達には、いつも悲しそうに、そしてどこか罪悪感の滲んだ表情をして――


 それは魔族に対してもそうだった。


 共にいる時間は少なかった。

 しかし、それでもよく分かった。


 彼は“この世界に生きる人々”を愛している。



「それを知ったから、私はシオンを信頼してる。

 でも、あんたが信用できないのも分かる。

 だから別に私達に協力しなくたっていい。そんな風に変に負い目を感じる必要はないわ」


「えっ……」


「私は、自分の未来の為だけじゃない……大切な人達が自由に生きられる未来の為に戦う。

 その大切な人達の中には、あんたやリリー達も含まれてる。

 あんたが協力してもしなくても、関係ない。

 私が全員の未来を守る」


「……っ!」


 四葉はかけられたローブを握りしめた。


「だから、とにかく今はここを脱出するわよ!魔王もまだ倒してないのにこんな所で脱落なんて笑えないわ!」



 “「オリビア‼︎四葉‼︎」”


 “「シオン?」”



 突然頭の中にシオンの声が響くと驚いて2人は顔を見合わせた。

 切羽詰まった声、顔を見なくても焦りが伝わる。


 “「…………もう話してもらえないんだと思ってました」”


 “「なんの話じゃ⁉︎今の状況は⁉︎ふたりとも無事なのか⁉︎」”


 四葉はシオンの声を聞き、心のざわめきがスッと引いていくのが分かると、深く息を吐いた。


 “「前に、俺に言いましたよね。……救いたいのは手の届く範囲だけなのか、それともそれも含めた世界なのかって……」”


 “「……ああ」”


 “「俺が救いたいのは……世界です。俺はまだあなたをよく知らない……でも、オリビアさんなら…………カクタスさんが誰よりも信用しているあなたの言葉なら……俺は、確信を持てます」”


 “「な、なんじゃ?どういう状況じゃ?」”


 “「サラッとカッコいいこと言うんだもん……ずるいですよ……」”


 “「おい!僕を置いて話を進めるな!」“


 オリビアはニッと笑って四葉を見ると勢いよく空へ飛び上がった。

 マナの蟻達は再び実体化を解いて黒いマナへ変化するとオリビア達を追って伸びた。


 黒いマナがオリビア達を捕えようと渦を巻くようにうねると四葉は黒いマナを消し飛ばすように火属性魔法を放った。


 “「とりあえず、シオンさんは俺と約束してください」”


 “「何をじゃ?」”


 “「素晴らしい未来(ハッピーエンド)を」”


 四葉の瞳に光が戻るとオリビアは黒の森の先へと視線を向けて加速した。

 黒いマナは行手を阻むように何度もオリビア達を襲ったが、四葉の火属性魔法がそれを許さなかった。


「さっさと黒の森を越えて皆に追いつくわよ!」


「はい!」


 黒いマナはまたオリビア達の前に壁を作り上げるように勢いよく湧き上がる。

 オリビアが風属性魔法を、そして四葉が火属性魔法を放ち消し飛ばすと黒いマナは森へと引き込まれた。

 そして蜘蛛の糸のように細い無数の黒いマナがオリビア達を捕えようと四方に飛び出した。


 しかし、オリビアの風属性魔法と四葉の火属性魔法が合わさり炎の渦が黒いマナを飲み込むと一気に燃やし尽くす。


 うまく連携が取れている。

 リリーにバレたら怒られそうだとオリビアと四葉は少しだけ口元を緩ませると、再び黒いマナが集まる前に脱出しようと顔を見合わせて頷き合い、風属性魔法を後方に放った。



「ちょっと待ってくれよ」



 ――突然聞こえた耳に響く低音の声。

 次の瞬間、細く伸びた黒いマナが後方から飛び出してきた。


 四葉が消し飛ばそうと火属性魔法を放ったが、それは消える事なくオリビアの足に巻き付いた。

 慌ててそれを四葉が剣で切り落とすと、それは霧状になって下に落ちていった。


「実体化……⁉︎どうして……」

「攫い人が黒の森は学習するって……実体化できる領域が広がったのかも……!」

「もっと高度を上げるわ‼︎しっかり掴まって‼︎」


 さっき聞こえた声は一体なんだったのか。


 先程黒の森に落ちた時、黒いマナでできた蟻達の様子もおかしかった。


 オリビアは不安を感じながら更に上へと飛ぶと、再び黒いマナがいくつも彼らに向かって伸びてきた。


 オリビアと四葉は先程のこともあり魔法の攻撃方法を斬撃へと切り替えて飛ばすと、やはりそれは実体を持っていた。


 まるで体液のように切り口から黒いマナが飛び散ると、霧状になって落ちていく――

 これ以上高度を上げるのは厳しいと判断すると、オリビアは速度を上げた。



「おいおい……ちょっと待ってくれって……」


 ――またあの声だ。

 ズンっとのしかかるような低い声。


 それは黒いマナから聞こえてくるような気がした。


 オリビアは黒いマナの幻聴だと眉を寄せて頭を振った。


 ――飛ぶことに集中しろ、次また黒の森に落ちたらどうなるかわからない。


 四葉に黒いマナを任せながらオリビアがマナを一気に解き放とうとした時、

 真横に気配を感じた。


「あぐっ……‼︎」

「オリビアさん‼︎」


 オリビアの脇腹に何かが叩き付けられた。

 痛みと衝撃に息ができずマナが乱れると、オリビアは黒の森へと落下した。


 意識を手放しかけるがなんとか地面にぶつかる前に持ち直し、風属性魔法を放って落下の衝撃を和らげた。


 地面に転がると、脇腹の痛みに耐えながらすぐに身構える。

 先程よりも多くの蟻がオリビア達の周りを取り囲み、触覚を揺らして大顎を震わせている。


「オリビアさん大丈夫ですか⁉︎」

「ええ……でも、状況は最悪ね…………」


 マナの蟻はじわじわと2人に近付いて来る。

 赤い目が奥の方まで続いている。

 この数を2人で――


 手足の先が冷たくなっていく感覚に2人は喉を鳴らして唾を飲み込んだ。


「お前ら耳が悪いのか?」


 またあの声だ。

 オリビアがちらりと横目で四葉を見ると、四葉もこちらを見ていた。


「…………オリビアさんも、聞こえました?」

「幻聴、じゃない……?」


 2人とも聞こえている。

 幻聴ではない事が分かると2人は蟻の大群へと視線を戻した。

 四葉が剣を構え、オリビアがスリングに種をセットすると蟻の大群の奥から何かがゆっくりと向かって来るのが見えた。


「なんだよ、聞こえてんじゃねぇか」


 蟻達が左右に分かれて道を作ると、その声の主はオリビア達の前まで来て静かに煙を吐き出した。


 オリビア達を包む煙からは煙草の独特な匂いがした。


 白髪の少し長い髪を後ろに流し、気怠そうな目でオリビア達を見下ろしながら煙草を吸う男。


 黒いマナの実体化なのか、それとも魔族なのか。

 オリビアは神の目を発動して男のステータスを確認すると、血の気が引いた。


 そんなオリビアの様子を見ながら男は軽く指先をくいくいと動かした。

 それに反応して蟻達が実体化を解いて黒いマナに戻ると、差し出された男の手に吸い込まれていった。


「空を飛んでいくとはな…………予想外だった」


「あんた一体何者だ……!」


「そっちのエルフは察しているようだが?」


 男はそういうと額に生えた角を指先でポリポリと掻いた。

 四葉がオリビアの方へ視線を向け、その表情から察しをつけると、顔を強張らせながら強く剣を握り締める。オリビアは唇を噛み締めながらマナを種に流し込んだ。


「わざわざここで待っててやったのに…………でもまぁ……面白い話が聞けてよかったぜ」


 男は煙草の火を消すと、もう1本を懐から取り出して口に咥えた。

 口端を上げて笑うその表情は、どこか楽しそうだった。


「…………あんた、魔王ね」


 オリビアの言葉に男は煙草に火を付けて煙を吸い込むと、ゆっくりと吐き出した。


「そうだ、この俺が……誰にも気付かれずこの森で途方に暮れるとこだった哀れな魔王だよ」





 ナスタチウム

 魔王の称号を持つ者


 剣術神級、魔法神級、格闘特級……


 狡猾な神の祝福(リスタート)

 負けを認める、または体力が一定以下となると強制的に卵へと変化し、100年の眠りにつく。


 狡猾な神の愛オーバープロテクティブ

 狡猾な神の祝福(リスタート)によって卵になった対象を空間隔離で守る。


 魔王の風格(ブラックロード)

 勇者やヴァイスに向けられた殺意を集めマナに変換し、使用する事ができる。


 喫煙所(オアシス)

 自分の半径二メートルを区切り、音、匂い、スキル等、様々なものを遮断する。


 魔王の象徴(ブラックドラゴン)

 ドラゴンの姿に変身することができる。部分変化可能。

少し改稿しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ