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ep.77 熊の魔族

 

「勇者がいたぞ‼︎」

「邪魔‼︎」


 途中飛び出して来た魔族は勇者達に雑に払い飛ばされた。

 魔工妖精の分離した球体は先頭を走るカクタスの側にピッタリとくっ付いて時間を表示し、分離したもう一方は最後尾の人間についているようだった。


「ダメだ……!このままじゃ間に合わない!」

「ぐぅぅ……!俺様これ以上スピード出ねぇぞ!」


 四葉とパキラの顔に焦りが滲む。

 道があればまだ間に合う可能性もあったが、木々に囲まれ足場も悪い場所を通らなければならない。

 そして何より魔族や魔物の邪魔が入る。


 オリビアは魔工妖精のタイマーの数字を見て眉を寄せると空を見上げた。


「カクタス上!今から私がカクタスを風属性魔法を使って前方に飛ばす!その後は昨日見せてくれた魔法を使って屋敷まで行って!それなら間に合うはず!」

「……分かった!パキラさん、四葉くん、先に行きます!」


 カクタスが宙へ飛び上がると、オリビアは風属性魔法を使って足場を作り、それに足をつけたカクタスを前方に向かって吹き飛ばした。


 魔工妖精がそれについて行ったのを見てオリビアは四葉を抱き上げた。


「へ⁉︎」

「あんたは私が運ぶ!走って行くよりこっちの方が速い!」

「な、なんで⁉︎」

「黒髪の勇者は話し合いに必要なアイテム……それに魔法陣を持ってる!」

「俺様は⁉︎」

「時間を稼ぐから青髪の勇者達はなんとか走って来て!行くわよ!」


 オリビアは四葉を抱き抱えたまま空に浮かぶと、風属性魔法を使って一気に屋敷まで飛んだ。





 ――――


 オリビアと四葉が屋敷へ到着すると、開かれた扉の先には息を切らし膝をついて座り込んでいるカクタスの姿があった。

 横に立つ魔工妖精のタイマーは残り9分の所で止まっていた。


「間に合ってよかったぁ」


 2人がカクタスに駆け寄ると、のんびりとした声が広間に響いた。

 声のした方へ視線を向けると、そこには白い熊の剥製を被った少年が眠そうな目を擦りながら彼らを見ていた。


 通り名:スロウス

 怠惰の称号を持つ者

 魔法属性:地

 魔法神級、錬金術特級、鑑定特級……


 固有スキル

 障壁(バリア)

 物理攻撃、魔法攻撃、全てを弾く。

 時間による展開制限有り。


 彼が熊の魔族のようだ。

 ツノやステータスの異常な高さを除けば、彼はただの小さな子供だった。


 近くにいるスライムのステータスも確認したが、クロッカスの話通り戦闘能力はないようで怯えているのかぷるぷると震えていた。


「……君が、熊の魔族?」

「そうだよぉ。君が赤髪の勇者で、そっちが黒髪の勇者……あれぇ?青髪の勇者はいないんだぁ……

 でも、黒髪の勇者がいるからいいやぁ」


「俺?」


「異世界から来たんでしょぉ?」」


 スライムがベッドの近くに移動すると、熊の魔族はその上に乗って魔工妖精に近付き、指を軽く動かし分裂させ周囲に浮かばせるとふにゃりと笑った。


「異世界の話が聞きたいんだぁ。異世界では魔法の代わりに色んなアイテムがあるんでしょぉ?どんな物があるのぉ?」

「…………」


 四葉を連れて来て正解だった。


 熊の魔族の言葉にオリビアとカクタスは顔を見合わせると小さく頷いて、四葉に目配せした。

 四葉は喉を鳴らして唾を飲み込むと、ゆっくりとポケットからスマートフォンを取り出した。


「た、例えば……こんなのとか……興味あったり?」


「それなぁにぃ?」


「俺のいた世界で広く使われていた多機能連絡アイテムで……遠くにいる人に声や文字を届けて連絡を取れたり、分からないことを検索したり……目の前の風景を一枚の絵としてこのアイテムに保存したり…………電源が入らないんであれだけど……」

「見せてぇ」


 四葉が恐る恐る熊の魔族にスマホを手渡すと、熊の魔族はそれを興味深そうに見た後、スライムの上に乗ったまま魔工妖精を使って分解し始めた。


 部品一つ一つを火の灯りに当ててじっくりと観察するように見つめ、構造を理解したのか再びスマートフォンを組み上げると、熊の魔族は電源を入れた。

 四葉はそれに驚いて思わず声を上げて画面を覗き込むと、熊の魔族は好奇心に目を光らせた。


 オリビアとカクタスも少し後ろでスマートフォンの画面を覗き込むと、そこにはアニメのキャラクターが映し出されていた。


「電源……どうして……」


「エネルギーを補充してみたんだぁ……どれどれぇ……」


 熊の魔族は楽しそうに画面を指で撫でてしばらくスマホを操作した後――どこかがっかりしたように息を吐いて四葉にそれを返した。


「これ、そんなに面白くないねぇ」

「へ……?」

「これは話だけ聞けば興味深い品ではあったけどぉ……肝心の“色々”はできないねぇ……風景を残すっていうのはできそうだけどぉ……興味ないなぁ……」


 熊の魔族がウェブサイトや連絡用アプリを指差すと、四葉は顔を青くしながら「インターネット」と呟いた。


「…………そのいんたーねっとってたぶんキミの世界独自のものだよねぇ?色んな知識や情報、人々、世界を繋ぐ糸みたいなもの……そうだよねぇ?


 だとしたらこのカラクリ単体じゃぁ価値はあまりないねぇ……」


「……でも、あんたもカラクリを作るんでしょ?見た感じかなりの技術力が詰め込まれてると思うんだけど……興味はないの?」


「…………うーん……いんたーねっとっていうのは興味あるけどぉ…………それに接続されてないこれは、見たところ魔工妖精と構造も大差ないからねぇ……」


 熊の魔族は魔工妖精を指先でくるくると回して見せると、静かに四葉へと視線を移した。


「いんたーねっとって仕組みも作ろうと思えば作れるけどぉ…………異世界と繋がれるわけじゃないしぃ……」


 熊の魔族はベッドに寝転がると、つまらなさそうに溜息を吐いて天井を見上げ、気の抜けた声で語り始めた。


「…………ボクはさぁ……ずっと寝てる、怠惰の魔族なんて言われてるけどぉ……やる事がないから寝てるだけなんだよねぇ……


 娯楽がなくて暇なんだぁ……毎日……


 魔法も最初は楽しかったけどぉ、なんでもすぐに習得できるようになっちゃったしぃ……皆すぐ死んじゃうから使っても面白くないしぃ……

 最近はカラクリ作りにハマってたけど飽きてきちゃってぇ…………異世界の物なら構造が違って楽しめると思ったのにぃ……基本は一緒なんだって思ったら興味なくなっちゃったぁ…………」


「…………すみません……」


 四葉がカクタスとオリビアに小さな声で謝ると、2人は慌てて首を振り彼を慰めた。

 この後、熊の魔族がどう行動するか――オリビアは不安を胸に抱えながら静かに熊の魔族に視線を向けた。


「……ねぇ、他に何かないのぉ?」


「他に…………」


 四葉は考えるように視線を泳がせると、モップや箒を使って棚や床を掃除をする魔工妖精が目に入った。

 そして扉の向こうから何かを調理する音と匂いが漂ってくると、他の魔工妖精が料理を作っている事が分かる。


 自分の世界にも似たようなロボットがあった。

 これでは気を引く事はできない。


 異世界にのみ存在する何か、熊の魔族の興味を刺激できるもの――



「まだまだあると思うんだけどぉ、思いつかなぁい?…………あっ、そうだぁ」


 熊の魔族から突然異様な殺気が放たれると3人は反射的に後ろに飛び退いて構えた。


「黒髪の勇者の脳みそに直接聞く事にするよぉ……その方が早いよねぇ?」


 熊の魔族が指を鳴らすと浮遊していた5つの魔工妖精が横一列に並び、そこから伸びた2本の管が熊の魔族に突き刺さる。――もう一方が背後へ伸びていくと、魔工妖精は強い光を放った。


 部屋が一気に明るくなると、

 魔工妖精の管の先が熊の魔族の背後にある大きなタンクのようなカラクリに繋がっているのが見えた。


「お前ら大丈夫か‼︎」


 そのタイミングで息を切らしたパキラ達が到着すると、彼らの様子に交渉が決裂した事を察して武器を構えた。


「ダメだったか……!」

「インターネットに接続できればワンチャンあったかもしれないのに……!すみません……!」

「いんたー……わんちゃ……犬がなんだって⁉︎」


「わー……いっぱい集まって来たぁ……黒髪の勇者の脳みそだけ傷付けないようにしないとぉ……」


 熊の魔族は困ったように眉を顰め、手を前に翳した。

 一瞬水滴のような物が見えるとそれはレーザーのようにカクタスに向かって放たれた。

 カクタスはそれを体を逸らして避けたが熊の魔族が拳を握ると棘のような物を生やしながら一瞬で凍り付き、オリビアはカクタスの前に地属性魔法の壁を作ってそれを防いだ。


 熊の魔族はもう一方の手を軽く振り上げるとパキラや他の仲間達の足元に地属性魔法の棘を生やした。

 彼らがそれを跳んで避けると、すぐにまた水属性魔法のレーザーが彼らに放たれる。


 リリーが風属性魔法でパキラ達を吹き飛ばしてその攻撃を避けさせ、ジェンシャンが雷属性魔法を放ったが、金属性魔法で作られた避雷針のような物で防がれた。


 四葉が地面を蹴って飛びかかり、火属性魔法を放つと熊の魔族は同じように火属性魔法を放ったが、火力は四葉の方が上だと察してか、すぐに水属性魔法で鎮火し植物属性魔法で四葉を払い飛ばした。


「…………皆面白い動きするなぁ…………魔族とは大違いだぁ…………だから、飽きるまでは付き合ってあげるよぉ」


 熊の魔族は地属性魔法の槍を大量に作り出すとふにゃりと笑ってそれを一斉に放った。


 オリビアと、後から到着した魔法使い達が慌てて地属性魔法の壁を作り出したが、槍が風属性魔法によって高速回転を始めると、壁を貫き彼らを襲う。


 カクタスやパキラ、近接組がそれを武器で捌き切ると熊の魔族は拍手して喜び、遠距離組の攻撃が飛んでくるとバリアを張ってそれを防いだ。


「なんだあの壁は‼︎何属性の魔法だよ‼︎」

「彼のスキルかと……しかし長時間使える物ではなかったはずです……!」

「正解ぃ〜……1日に使える展開時間が決まってるよぉ〜……これでやる気出たぁ?」

「ナメやがって……!」


 四葉が熊の魔族に指を向けるとそこから小さな火の玉を大量に放つ。


 熊の魔族は殺傷能力の低そうなそれに不思議そうに首を傾げて土属性魔法の壁で防いだが、壁の中で爆発したのを見て気の抜けた笑みを浮かべた。


「わぁ……ただの火属性魔法かと思ったらぁ…………面白い魔法の使い方をするねぇ……」


 四葉がリリーに目配せして炎の刃を飛ばすとリリーは自身の火属性魔法と風属性魔法を使ってそれの威力を上げた。

 熊の魔族は再び水の壁を作り出したが、ジェンシャンとオリビアが雷属性魔法と地属性魔法でそれを消し飛ばすと、炎の刃は熊の魔族へと襲いかかった。


「それよりさっきの魔法の方が面白かったなぁ」


 それをバリアで防ぐと熊の魔族は四葉に指を向けて火の玉を放った。

 四葉が慌てて避けると、それは屋敷の壁に当たって爆発した。


「キミのは火属性魔法が進化したモノだねぇ……新しい属性だぁ……爆発属性魔法?なんか……名称のセンスが悪いかなぁ……」


「(新しい属性……っでも速攻でモノにされた……!)」


「次は何を見せてくれるのかなぁ?」


 必死で近付こうとするカクタス達を魔法であしらいながら熊の魔族は少しだけ楽しそうに四葉を見た。


 勇者達、そして仲間達が何度も接近を試みるが、放たれる魔法はあまりにも強力で、多属性――

 対処しきれず熊の魔族に近付くことができない。


 2メートル――

 その距離はひどく遠く感じた。


「(考えが甘かった……何やってんだ俺……!)」

「ボーッとすんな黒髪‼︎」

「っ!」


 地属性魔法で作られた突起が四葉に襲いかかる。

 四葉は慌てて避けるが、そのうちの1つが脇腹を掠めると四葉は地面に転がった。


「四葉‼︎」

「ぐっ……あっ‼︎」


 痛みに顔を歪ませてなんとか立ち上がると、ポケットからスマートフォンが落ちた。

 その衝撃で画面が割れると四葉は慌ててそれを拾い上げて眉を寄せた。


「バカ何やってんだ‼︎んなの置いとけ‼︎」

「だって……‼︎」


 オリビアは思わず声を震わせる四葉に視線を向けて眉を下げた。


 彼にとっては大事なモノだ。


 ネットは繋がってはいないが、

 家族や友人の連絡先、前の世界の思い出が詰まった大切な――



「バイト代とお年玉を注ぎ込んだアプリゲームがまだできるか確認できてないのに……!」

「…………ん?」

「ガチャ引く為に貯めた数万コインが無事かも……新規ストーリーだってまだ手をつけられてないし……!」

「がちゃ……?」

「…………今そんな事気にしてる場合かぁ‼︎」


 オリビアが怒声を上げて熊の魔族を捕獲しようと植物の加護を使うと、熊の魔族は炎でそれを焼き尽くした瞬間――


 風属性魔法で四葉の目の前に飛んだ。


「あぷりげーむってなぁにぃ?」

「!」

「黒髪‼︎」


 熊の魔族と四葉の間には1メートルもない。


 パキラの声にカクタスは近くにいた仲間達を抱えて離れ、四葉はポケットから魔法陣を取り出すと熊の魔族へと押し付けた。


「うわっぷ」

「アプリゲームは……異世界人が考えた最高の“娯楽”だよ‼︎」

「!」


 熊の魔族が口を開こうとした時、四葉は魔法陣にマナを流し込む。

 ――すると、魔法陣は強い光を放ち、熊の魔族を転移させた。


 魔法陣の描かれた紙が燃えながらゆっくりと地面に落ちると、広間は沈黙に包まれた。


「や、やったか……?」

「ちょっとパキラさん!それフラグですからやめてください!」

「お前さっきから何言ってんのかわかんねぇよ!」


 四葉が攻撃をくらった脇腹を押さえながらしゃがみ込むと、イキシアが白魔法士を呼んだ。


 思っていたよりも被害なく熊の魔族を片付けられた――

 その事に安堵すると、カクタスは床を見て眉を寄せた。


「気は抜かない方がいい。バリアがあるならまだ生存はしているはずだし……もしかしたら地上に戻ってくるかも……」

「問題ありません勇者様!」


 ヘリーはカクタスの肩に乗ると得意げな顔をして翼を広げた。


「皆さんはご存知ないかもしれませんが、地底の硬さや圧力を舐めてはいけません!バリアとかいうのがあっても数千キロも掘り進んで地上に向かうには無理がありますよ!」


「そう、かな……」

「蠍や蛇に比べたらこのぐらいで済んで良かったな……」

「俺肋骨折れてるんですけど……」

「お前が油断したのが悪いんだろうが‼︎」

「四葉をいじめるなー」

「なんで俺様が悪者扱いされんだよ‼︎」


「…………まさかゲームに救われるとはな……」


 四葉は痛みに顔を引き攣らせながら笑い、割れたスマートフォンの画面を見つめ、アプリゲームのアイコンをタッチする。

 するとゲームが起動して際どい衣装を着た女の子が「久しぶりだね」と四葉に向かって笑いかけた。


「ちょっと四葉誰この女‼︎」

「へっ⁉︎……あっ、違う違う絵だよ絵‼︎本物じゃないって‼︎」

「よ、四葉はこのような服が好きなのか……?」

「これですと……胸の先端がはみ出てないのはおかしいのではなくて?」

「絵だから‼︎現実はそうでも絵だからいいの‼︎」

「不思議ですね……どういった物なのですか?」

「これはトランプを使ったミニゲームで色んな人と勝負してレベルを上げるゲームで……ブラックジャックとかポーカーとか……」


「なぁんだぁ……カードゲームのことかぁ……」


 気の抜けた声に広場の騒がしさは一瞬で消えた。


少し改稿しました。

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