ep.48 ツギハギと黒
隊長の言葉に構えると、衝撃音と共にぶつかり合う2つの影が飛び出してきた。
右腕だけが異常に大きく、ツギハギだらけの姿をした魔族――そして、背中にカラスのような翼と蝙蝠のような翼を生やした銀髪の魔族――
今まで見て来た魔族とは違う――圧倒的なオーラを放つ2人の魔族に、兵士達は恐怖を抑えきれず顔を強張らせた。
――そして、カランコエは目を見開き、驚いている様子を見せた。
「隊長……!」
「怯むな‼︎作戦を――」
ツギハギの魔族が勇者達の存在に気付き、大きな腕を使って勢いよく飛んでくると、大楯部隊が迎え打つように構えるが、殆どが受け止めきれず陣形が崩れた。
魔法使い、そして兵士達が応戦しようとすると、ツギハギの魔族は腕を振り回してまるで嵐のように彼らを襲った。
このままではまずいと判断し、勇者達が前に出て応戦しようとした所――黒い方の魔族が勇者達を蹴り飛ばした。
黒い魔族は挑発するように手を軽くくいくいと動かすと、ツギハギの魔族は再び黒い魔族へとターゲットを移した。
「なんなのあいつら……」
オリビアは神の目を使って2体の魔族のステータスを見ようとしたが――鋭い痛みが走り、思わず右目を押さえる。
「ぐっ……アンチスキル持ち……⁉︎肝心な時に使えないんじゃ意味ないじゃない……‼︎」
オリビアは痛みに堪えながら神の目で魔族を見続けるとぼんやりと文字が浮かび上がってきた。
しかし、それと同時に視界は徐々に赤く染まっていく――
「ッ⁉︎」
「チッチッチッ」
構わず続けていると、黒い魔族が大きな溜息を吐き出しながら飛び上がってオリビアの目の前に降りて来た。そして、指を左右に振って口を吊り上げて笑った次の瞬間――オリビアを勢い良くカクタスの方へと蹴り飛ばした。
カクタスが慌てて受け止めると、オリビアから血が滴り落ち、地面を赤く染めた。
視界が赤くなったのは神の目を無理矢理使った事で流れた血のせいだった。
カクタスが慌てて白魔法士の元にオリビアを連れて行くと、黒い魔族は肩を竦めてツギハギの魔族との戦闘を再開した。
「ちょっと!あの魔族何者なの⁉︎」
「カランコエは何か知らないんですか⁉︎」
「…………あっちのツギハギの方はアンデット、黒いのは知らない。アンデットの方は俺と同じ、改造された魔族……いや、あれは魔物か……元は人間だし」
「元は人間……?アンデットってなんだ……?」
カランコエは魔族を見つめたまま、静かに彼らに説明した。
「動く死体の事。……あの人の実験で、ある人間の死体に黒いマナを流し込んだ。そしたら確実に死んでたはずなのに、目を開けて動いたんだって。
思考能力はかなり落ちたみたいだけど、生前の記憶があるのか剣を取って振り回してたって。
黒いマナの影響か、あいつはヴァイスの人間が魔族や魔物に見えるみたい。あの人のお気に入りの一つ」
「なんて非道な……!」
「…………俺がシュバルツから離れてそこまで経ってないのに、あんなに容姿が変わるなんてね」
「カランコエ……?」
カランコエは小さく呟くと、カクタスの方へ視線を移した。
「…………あいつはただのアンデットじゃない」
「え……?」
「勇者の死体。魔王様との戦いで戦死した勇者の死体をシュバルツで保管してたんだ。あの人がそれを見つけて修繕し、アンデットにした」
「戦死した勇者……まさか……」
「そう」
「ゆ、許せん……‼︎」
ラークが額に青筋を立て斧を握る手に力を込めると、カランコエは更に言葉を続けた。
「あれは俺よりずっと強い。
黒い方は戦闘能力を見るに、俺の知らない上級魔族だと思う。なんでその2体が戦ってるか知らないけど、どうするの?」
カクタスはカランコエからの問いかけに、眉を寄せて険しい表情を浮かべた。
そして話を聞いていた兵士達は、顔を強張らせたまま困惑の声を漏らした。
「元……勇者……?」
「上級魔族がなんで……」
「隊長……!」
「…………っ」
圧倒的力の差に兵士達の士気が落ちている事に気付くと、隊長は顔を歪ませ考えを巡らせた。
「おいおい、んな顔すんなって」
そんな隊長の肩をパキラは軽く叩くと、にっと笑みを浮かべた。
「楽しくなって来たじゃねぇか!」
パキラが前に出ると、彼の仲間達がその後ろに続いた。
「はぁ……もっと言い方があるだろ……」
「やっとまともに戦えるぜ!」
「腕がなりますな!」
「新しい暗器を試すいい機会だ」
「アニキ〜独り占めはなしっすよ〜!」
四葉はそれを見て苦笑を浮かべ前に出ると、彼の仲間達は隊長の背中を叩いて横を通り過ぎた。
「元々上級魔族は四葉とうちらの担当でしょー?」
「そうですわ!ここは任せてお下がりになって!」
「あんた達はこの後のロンジコーンで頑張ってくれればいいからー」
「ふっ……やっと四葉にいい所を見せる事ができる」
「四葉のため、民のため――やってやりましょう!」
それを見るとデイジーは「やだぁっ!」と悔しそうに声を上げてカクタスの背中を叩いた。
「勇者様!アタシ達出遅れちゃってるわ〜!」
「いや、そんなことはない!俺達は最後を飾るのに相応しい!」
「そうです!最後が一番かっこいいです!」
「最後ってかっこいいの?」
「……行きましょう、カクタス」
オリビアは右目の血を拭ってカクタスに声をかけた。
カクタスは苦笑を浮かべながら立ち上がって彼らに続くと、隊長の方を振り返った。
「後ろは頼みます」
それぞれ武器を構えると兵士達は悔しそうな表情を浮かべ後退した。
争いを続ける2体を見ると、黒い魔族は大袈裟に肩を落とし、手から鋭い爪を生やして勇者達の前に立った。
「なんだ?邪魔するなってか」
「悪いけど英雄であるその人を、そのままにしておけない」
「…………」
カクタスの言葉に黒い魔族は頭を掻くと肩を竦ませ、攻撃を仕掛けて来たツギハギの魔物を蹴り飛ばした。
そして胸に手を当て勇者達にお辞儀をすると、飛び上がって木の枝に腰を下ろした。
「…………いけ好かねぇ野郎だ……ツギハギとも俺様達とも共闘するつもりはねぇみたいだな」
「どこかに行くつもりもなさそうだし……アンデットを倒したら、次はあいつと戦う事になりそうですね」
木の上でこちらを観察するように見下ろす黒い魔族に眉を寄せると、ツギハギの魔物が勇者達の前に飛び出して来た。
黒い魔族との戦いで負ったであろう傷がいくつか見えるが、そこから血は出ていない。
虚ろな目で小さく口を動かしボソボソと何か言っているようだが彼らには聞き取れなかった。
「行くわよ!」
オリビアが地面にマナを流し込み木の枝を伸ばしてツギハギの魔物を拘束すると、
近距離組が一斉にツギハギの魔物に飛びかかり、魔法使いと遠距離組は彼らを援護した。
ツギハギの魔物は大きな腕を振り上げ拘束を一部引き剥がしそのまま振り下ろすと、パキラがそれを大剣で払い除ける。
すると、肉を割く音と共に金属がぶつかるような音が大きく響いた。
「いっ……てー!なんだそりゃ……!」
パキラが距離を取り、痺れた手を軽く振ってツギハギの魔物を見ると、裂かれてバラバラになった右腕の下から、剣が露出しているのに気付いた。
ツギハギの魔物はそれを使って拘束を解くと、後ろに飛び退き、周りに四芒星の形をした水晶を浮き上がらせた。
「アンデットって魔法使えるの⁉︎」
「…………やはりあの方なんだな……」
ラークが歯を食いしばりながらツギハギの魔物を睨み付ける。
魔物は剣についた肉を振るい落とすと、パキラに向かって勢いよく剣を振った。
パキラがそれを受け止め、カクタスと四葉が魔物に飛びかかり、仲間達も援護するが――周りに浮いていた水晶が盾のようになって全てを弾いた。
「厄介だなあれー……」
「諦めてはなりません‼︎足元を狙いましょう‼︎」
「了解です‼︎」
「もう一度拘束してみる!」
「俺も協力する」
「ジェンシャン!あたしらも魔法でやっちゃお!」
「物理には強くても魔法なら……」
近距離組が魔物の周りを飛ぶ水晶の攻撃を防ぎ、
パキラが斬りかかると、魔物はそれを片腕の剣で防ぐ。そして、四葉とカクタスが懐に飛び込み剣と槍を振るうと魔物は後ろに飛び退いた。
遠距離組が着地点を見極め、そこに攻撃を仕掛けると魔物の足に突き刺さる。
一瞬そちらに意識が向いた隙をつき、オリビアとジニアが魔物を拘束すると、ジェンシャンとリリーの強力な魔法が放たれた。
――うまくいったと思ったが、砂埃が消えた後に現れたのは大きな球体状の水晶。
水晶が分裂して四芒星の形に戻ると、拘束に使用した木や鎖が音を立てて地面に落ちた。
「ホントに知能低いのかよ⁉︎しっかり全部見極められてんじゃねぇか‼︎」
「手を休めんじゃねぇ‼︎」
勇者達が覚醒の力を発動し再び斬りかかると、魔物は彼らに浮き上がる模様を見てぴくりと眉を動かた。――そして、剣を構えまたぼそぼそと何かを呟くと、体に結晶のような模様が浮き上がり、浮遊していた四芒星の水晶が3つに分かれた。
それぞれレイピア、日本刀、そして手甲剣を装備した人間の姿に変化すると、ゆっくりと地面に降り立つ。
「嘘でしょ……覚醒の力が使えるの……⁉︎」
「デルフィ……タイム……キャット……来てくれたのか…」
「今……しゃべ……ッ⁉︎」
水晶が魔物から離れてオリビア達に向かってくると、近距離組が彼女達の加勢に向かった。
「赤髪!黒髪!覚醒の力が切れる前にやるぞ‼︎」
カクタスと四葉は頷くと、ツギハギの魔物に猛攻を仕掛けた。
――それに対して、水晶を相手する仲間達は苦戦を強いられていた。
「よそ見すんな‼︎こいつらただのおもちゃじゃねぇぞ‼︎」
「なんの素材かは分かりませんけど硬い上に素早いですわ‼︎」
「鑑定眼でも分からないわね……とにかく勇者様が集中できるように気張るわよ‼︎」
「タンクの私が前に出る‼︎」
「俺とデイジーも前に出る‼︎遠距離組は距離を取れ‼︎」
「りょーかいです‼︎」
「オリビア、リリー‼︎水属性魔法を‼︎」
「任せて!」
「オッケー!痺れさせちゃって!」
オリビアとリリーが水属性魔法を水晶に向かって飛ばすと、ジェンシャンが雷属性魔法を放った。
それが効いたのか動きが鈍くなった水晶に、近距離組は一斉に攻撃を仕掛ける――しかし、水晶の内の1体が一歩踏み出し、複数の針のような物を飛ばして来ると、何人かが負傷した。
それによって水晶が攻撃に転じると、オリビア達は負傷者を庇うように立ち回る事になった。
「クソッ……投げ物使うとか聞いてねぇぞ……!」
「わざわざ手の内を教えてくれるバカがいるか!」
「バカって言うな‼︎」
「カランコエ頭に針が……!」
「核は無事だから平気」
「今引き抜いて――」
「フォティニア‼︎」
カクタスがフォティニアに向かって声を上げる。
その声にフォティニアが驚いて振り向くと、ツギハギの魔物が向かって来るのが視界に入った。
「なんで急にターゲット変えやがったんだよコイツ‼︎」
「(速い……!)カランコエ‼︎フォティニアを‼︎」
「……フォティニア、下がって」
「カランコエ……!」
「俺じゃあ勝てないけど、多少の時間稼ぎぐらいは……まぁ、頑張ってみるよ」
「きゃあっ‼︎」
「姫ちゃん‼︎」
「!」
フォティニアの方へ向かおうとするオリビアの視界に、転んだイベリスに対して手甲剣を構える水晶の姿が映った。
慌ててオリビアとリリーが間に入って風と火属性魔法を放つと、水晶は跳び上がって避け、彼女達の上を乗り越えながら針を飛ばしてきた。
風属性魔法を使って弾こうとするも、砂のような物を顔にかけられ狙いが少し外れ、威力を殺しきれずに針がオリビアやリリーに刺さると、水晶が目の前に着地し手甲剣を構えた。
リリーがイベリスを庇うように抱き締め、それを守るようにオリビアが前に立ち再び風属性魔法を使おうとすると――黒い魔族が水晶を蹴り飛ばした。
予想外の出来事に、オリビアは大きく目を見開く。
魔族はオリビアの方を振り向き、人差し指を立ててニッと笑った。
訳がわからず困惑していると、リリーがオリビアの服を掴んだ。
「オリビア……スライムくんが……」
少し改稿しました。




