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ep.40 前職

 

 オリビアは食事を終えると酔っ払いに絡まれるジェンシャンといちゃいちゃと音が聞こえてきそうなリリー達を置いて、カクタスと部屋に戻る事にした。



「そういえば、カクタスは今日どうだった?」

「ビンカとデイジーさんと手合わせしたんだけど、勉強になったよ。鍛えなきゃいけない部分も分かってよかった。もっと頑張る」

「お互いまだまだ成長できそうね。……あとどのぐらいで着くのかしら……」

「うーん…………」

「……何か見える?」


 オリビアはカクタスが立ち止まり船の小窓を見つめているのを見て、同じように小窓を覗き込んだが外は真っ暗で何も見えなかった。

 カクタスの方を向くと、彼は黙ったままぼんやりと外を見つめ続けていた。


「カクタス?」

「……あ、ごめん。何も見えないね」

「疲れてるんじゃない?早く部屋に戻って休みましょ」

「わっ、大丈夫だよ!」


 オリビアはカクタスの背中を押しながら廊下を駆けると、彼を急いで部屋へと押し込んだ。


「今日はありがとね、ゆっくり休んで」

「うん……おやすみ」


 オリビアはカクタスに微笑みかけ、手を振って扉を閉めると自室へ向かった。


 ――彼女の足音が遠ざかると、カクタスは頭を掻いてベッドへ横になった。


「…………困ったな……」


 ラークに胸の内を話した事で、魔王を必ず倒さなくてはという焦りが彼の心に現れた。

 それによって少し訓練に力が入りすぎていた事を、体の疲労具合から察して苦笑を浮かべる。


「魔王を倒したら……」


 カクタスはゆっくりと目を閉じ、少し先の未来を想像して深く息を吐き出した。



 ――――


 そこから3日間、

 オリビア達魔法使い組は様々な方法で修練を続けた。

 近距離組のカクタス達や、投擲組のフォティニアも修練に明け暮れ、オリビアが神の目で確認すると、それぞれが出航前よりも大きく成長しているのが分かった。


 白魔法のお陰で多少無茶な事をしてもすぐに回復する為、近距離組の伸びが特に大きかった。


 そして、誰もがシュバルツへの上陸に気持ちを引き締めていた頃――


「申し訳ないです……」

「こればっかりはしょうがねぇよ」

「他の船は大丈夫なんですか?」

「大丈夫です。この船より小さいですが、あれらも荒れた海を渡る為に作られているので」


 ジャイアントケルプの王からカンパニュラを通して、危険を知らされ航路が変わった。

 理由は天候によるものだった。


「こっちも雨が降って来たわね……船も結構揺れてるし中に移動しましょうか」

「オリビア……あれ雷雲ですか……?」


 進むはずだった航路上空には分厚く黒い雲が渦巻いており、オリビア達のいる場所も雨雲が空を広く覆っていた。

 顔を青くして空を見上げるフォティニアを見てデイジーは頬に手を添えて首を傾げた。


「あら!フォティニアったら雷が怖いの?」

「大丈夫だぜメイドの嬢ちゃん。雷ならうちのジェンシャンがなんとかしてくれるからな!それに怖かったら俺様がついててやるし!」

「遂に誰彼構わず手を出すようになったのかあなたは……」

「ちげぇよ⁉︎」

「まったく……落雷対策されてるはずだから余程運が悪くない限りは大丈夫だろう」

「そうなんですね!」


 ジェンシャンが窓の外を見ながら頷くと、フォティニアは胸を撫で下ろして安堵した。


「本来の航路はこっちで、今はこう移動してるんですよね?」

「そうだね。……到着は3日ぐらい伸びるかな……」

「ま、焦る事はねぇよ。これぐらいは想定内だろ。揺れが大きくなって来たから船酔いした奴らいたら言えよー」


 天候による船の揺れは大きく、訓練が中止となってしまったオリビア達はカクタスの部屋に集まり、久しぶりにゆっくりと過ごす時間を得た。


「ここ数日は特訓してたからなんだか暇に感じちゃいますねー」

「そう?アタシは皆と久しぶりにゆっくり話せそうで嬉しいけど?」

「あ!私も嬉しいですよ⁉︎」

「そういえばフォティニアはここ数日どんな修練してたの?」


 オリビアから尋ねられると、フォティニアは嬉しそうに手を振り回しながら話し始めた。


「甲板の所に的があってそれに向かって矢やナイフを投げられるんですけど、色んな仕掛けがあって中々難しいんです!後は……筋トレです……」

「筋トレしてたの?」

「私の場合は投げるのがナイフだけじゃないから筋トレした方がいいって、黒髪の勇者様のお仲間の小さいお姉さんが…………あの人意外にスパルタだったです……」

「ふにゃふにゃになったフォティニア面白かったよ」

「うるさいですよカランコエ!」

「うるさいのはフォティニアでしょ」

「まったく2人ともやめなさい……子供じゃないんだから……」


 どこへ行ってもこの役回りだなとオリビアが大きく溜息を吐くと、カランコエは寝転がりながらフォティニアをじとりと見て口を開いた。


「俺は生まれてまだ2年だから、人間にしたら子供でしょ。怒るならフォティニアだけにして」

「に、2歳なんですか⁉︎」

「そうだけど?」

「私は17歳で、カランコエは2歳……な、ならお姉さんとして扱ってくれます⁉︎」

「顔が引き攣ってる」

「うるさい!」


「どっちもうるさいわよ……」


 2人は止めてもすぐにまたケンカを始めた。

 それを見たオリビアはシオンと攫い人の男を思い出して苦笑を浮かべると、ラークがカランコエの方を見て声をかけた。


「そういえば……お前は魔王に会ったことあるのか?」

「あるよ」

「どんな人なんです?魔王はツノが生えてるドラゴンの姿で描かれる事が多いですけど……」


 カランコエは触手で頭を掻き少し考えて、ゆっくりと話し始めた。


「黒いマナを放出してるからか姿がハッキリ見えなかったんだよね……魔王様の姿をちゃんと見た事あるのは上級魔族ぐらいじゃない?でも、人型だった気がするけど……」


「人型?……うーん……おかしいですね……」


「カランコエの元主は見た目どんな感じなの?」

「あの人は……上半身は人間、下半身は蛇」

「弱いイメージがあったのに想像するとなんだか強そうです……」

「あの人自身の力はそこそこだよ、他の上級魔族の足元にも及ばない。けどシュバルツであの人と戦う時は気をつけた方がいい」


 カランコエは目を細めると、触手を伸ばしてフォティニアのつむじを押した。


「あの人の手が加えられてる厄介な群れを相手する事になる。それは上級魔族一人を相手するより大変だと思う。俺の知らないお気に入りが結構できたみたいだしね」


「……その中には、カランコエの兄弟もいますか……?」


「いるんじゃない?」


 なんともない顔で答えるカランコエに、フォティニアは少し表情を曇らせた。

 カランコエがそれに気付いて顔を覗き込むと、フォティニアはハッとして首を振り、ぎこちなく笑って頭を掻いた。


「なんでもないです!」

「そ?……まぁ、とにかく頑張ってよね」

「それを聞いたら体動かしたくなって来たわね〜」

「波が落ち着くまでは大人しくしていろよ」

「分かってるわよ〜!」

「そういえばフォティニア体調は大丈夫なの?」

「大丈夫です!気持ち悪くなってきたらカランコエを枕代わりに……」

「フォティニアが俺に頭を乗せて来たタイミングで飲み込む」

「食べないでください‼︎」



 ――――


 部屋で談笑していると、あっという間に時間は過ぎ――気付けば時計の針は夜を指していた。


「……あと、どのぐらいで着くのかしら」


 食堂で夕飯を済ませて部屋に戻る途中――オリビアは船の小窓を見つめ、小さな声でぽつりと呟いた。

 それに気付いたカクタスが足を止めて振り向くと、彼女の瞳はどこか不安そうに揺れていた。

 

「……追い風みたいだから、予想より早いんじゃないかな」


 カクタスは無意識に伸ばした手を慌てて引っ込めて、誤魔化すように頭を掻きながら答えると、オリビアはゆっくりと視線をカクタスに向けた。

 

「カクタスは……」

「ん?」

「怖くないの?」


 その問いかけは無意識に出たものだった。


「あっ……」

「怖いよ」


 オリビアがハッとして撤回しようとすると、それよりも前にカクタスが口を開いた。

 意外な答えに驚くと、カクタスは眉を下げて笑った。


「勇者に選ばれる前の俺の事って話したっけ?」

「孤児院にいた話……?……」

「孤児院から出た後の話」

「えっ……」

「ずっと孤児院いた訳じゃないんだ。……実は俺、勇者になる前は――」


 カクタスはオリビアの耳元に顔を近付け、小さな声で“農夫”であった事を伝えた。


「えっ⁉︎」

「孤児院で他の子の面倒を見ながらね。冒険者や傭兵もやってたんだけど、剣の実力があれだったから……」


「カクタスが孤児院の子達を養ってたの?」


「養うっていうか……育ててもらった恩を少しでも返したくて……」

「そうだったのね……意外だわ……」


「うん。…………だから、怖いよ」


 カクタスは二の腕にある勇者の刻印に触れると、軽く目を伏せる。 ――そして、再びオリビアの方を見ると、穏やかな笑みを浮かべた。


「けど、オリビアや皆がいるから戦える」

「……カクタス……」


「アンタ達〜!そんなとこで何してんの〜?早く部屋に戻りましょうよ!」

「あっ、すみません!……行こうか」


 彼は照れ臭そうにすると、慌ててデイジー達の方へと駆けて行った。

 オリビアはそんなカクタスの背中を見つめながら、ゆっくりと後に続いた。




 ーーーー


 カンパニュラ達水兵隊の誘導で落ち着いた海域に出ると、シュバルツへ向けて再出発した。


 部屋での待機も解除されると、彼らは修練を再開した。

 予定よりも少しだけ時間ができた彼らは、更に修練に力を入れつつその日を待った。



 投擲場――


「使える的がなくなってしまったな……変えて終了に致すか」

「これで四葉のお役に立てます!四葉に褒めてもらわなくては!」

「姫様とメイド殿はかなり成長しましたな!」

「私だって弓の腕上がったんだけどー」

「すごかったですね!ナイフでも難しいのに矢を同時に違う的全てに射るなんて!」

「まあねー」

「どんな魔族でもかかってらっしゃい!ですね!」

「姫様はまだ脇が甘いけどねー」

「ううっ……精進いたします……」


 青髪の勇者の仲間のゼラニウム、

 黒髪の勇者の仲間のイベリスと、クフェア、

 そして、赤髪の勇者の仲間、フォティニア。

 それぞれ違う武器を扱う者達だが、互いに欠点を指摘し合い命中率を上げる事に成功した。

 フォティニアがナイフを投げると、それは海面に跳ねた魚を貫き、彼女は自信の成長に笑みを浮かべた。


「お見事!」

「おーやるじゃん」

「えっへん!」

「……しかし……ナイフが海に……」

「あーっ‼︎か、カランコエお願いです回収してください‼︎」

「なにやってんの……」




 トレーニングルーム――


「そこまで!残念だったなビンカ!」

「くっそー……今度は勝てると思ったのによ……」

「でもビンカ、結構スタミナついたんじゃないかな?」

「確かに……最初の頃は赤髪の勇者にコテンパンにやられていたのが、今じゃ割と食らいついていけるようになった」

「ジニア!コテンパンとか言うな!」

「ちょっと……アンタの籠手……まさかサクラの国の…⁉︎」

「そうだぜ!なかなかの代物だろ?手合わせじゃ使わせてもらえなかったけどよ……」

「………………」

「おい……な、なんだよ……えっ⁉︎何頬擦りしてんだ⁉︎やめろ⁉︎」


「汗をかいて気持ち悪いですわー……早く汗を流しに戻りましょう四葉」

「コラ!まったく油断も隙もないな!」

「あら、あなた片腕で私を持ち上げられるようになりましたの?」

「ここ数日でかなり筋力がついたからな」

「…………」

「黒髪……俺様を持ち上げるようとするのはやめろ……」


 青髪の勇者パキラと、彼の仲間であるビンカとシネラリア、そしてジニア、

 黒髪の勇者四葉と、彼の側に寄り添うアマリリスとイキシア、

 そしてカクタスとラークとデイジーは、修練中常に競い合い、手合わせでは容赦なく相手の弱点を突いた。

 そのおかげで反射速度が上がり、気付かされた弱点を改善することができた。



「かーっ!手合わせしてぇ!」

「また始まった……」

「この戦いが終わったら、是非」

「おっ、言うようになったじゃねぇか赤髪!楽しみだ」




 魔法の修練場――


「マナ操作がかなりよくなったわね」

「あたしめっちゃ成長したー!」

「私とオリビアは魔法獣を3匹同時に動かせた、お前は2匹だけだろ」

「うぐっ……でも威力なら負けないし!」

「それはどうかしらね」

「もー!意地悪はなし!」


 オリビア、ジェンシャン、リリーの3人は、共に魔法の操作性と正確さが上がり、それに加えてマナの変換改善によって魔法の威力を高め、魔法使いとして大きく成長する事ができた。


「いよいよだね……明日からはアクアボートで移動なんだよね?この船のご飯食べられなくなるの残念だなぁ〜」

「肉食魚人に気付かれないといいけど……」

「頼むぞヘリー」

「任せてください‼︎ジャイアントケルプの王も協力してくれているので心配いりません‼︎」

「頼りにしてるよー!……さてさて〜最後に魔法使いの手合わせしとく〜?本気で!」


 リリーが炎を纏い、挑発するように手をくいくいと曲げると、2人は顔を見合わせた後――ジェンシャンは雷を纏い、オリビアは周囲に水を浮かび上がらせた。


「「この船が転覆してもいいなら」」


「おーいお前ら、何やってんだ?そろそろ戻れよー!」


 青髪の勇者が声をかけに来ると、3人は顔を見合わせ笑みを浮かべた。



「がんばろーね!」

「ああ」

「やってやるわ」


 ――いよいよだ。


少し改稿しました。

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