ep.39 魔法使いと勇者
「四葉こっちこっち!」
「お待たせ!」
その後、黒髪の勇者と合流して、修練場に向かうと、そこは昨日見たトレーニングルームとは違って、特に何か器具があるわけでもない、ただの広い空間だった。
そこにあ魔法使い達に声をかけてここでの修練法を聞くと、4人は隅に移動して話し合いを始めた。
「とりあえず朝食まで2時間ぐらいっしょ?瞑想はどう?んで後でまた集まって、さっき聞いた魔法獣の訓練とか」
「そうね……でも誘っておいて申し訳ないんだけど、今日は昼から甲板の投擲訓練に行く予定があるから、私は午前中だけになるけど……」
「私もやる事がある。付き合えるのは午前中までだ」
「りょーかい!
じゃあ一旦瞑想始めよっか!相性的にジェンシャン、四葉、あたし、オリビアの順番で座ろっ!ちゃーんとある程度離れるんだよ!」
魔法使いのいう“瞑想”とは単なる精神統一ではなく、魔法の完成度を高める手段でもある。
姿勢、呼吸、そして心を整え、
魔法を一つの形、または動きを維持させながら行う――魔法の精度、そして精神力を高める訓練の一つだ。
「(前に師匠と瞑想した時は魔法が乱れる度に謎の木の棒で叩かれたっけ…………)」
「それじゃあヘリーを起こしてっと」
「おやおや黒髪の勇者がこんな時間に私の思考を繋げるなんてどういう…………珍しいメンバーですね……」
「ヘリー2時間経ったら教えてくんない?」
「私はアラームじゃないんですよ⁉︎まったく……」
ヘリーはぶつぶつと文句を言いつつ了承すると、リリーの合図で瞑想が始まった。
ジェンシャンは雷で自分の周りに円を作り、
黒髪の勇者は両手に同じ大きさの炎を作り、
リリーは風を圧縮し掌サイズの球体を作り、
オリビアは自身の周りに同じ大きさの水の玉を四つ浮かばせ、彼らは目を伏せ瞑想を始めた。
――――
「時間ですよ皆さん!」
「ふぅ……」
ヘリーの声が聞こえると、それぞれが作り出した魔法を見る。
「ありゃ、最後の方集中切れちゃったかー……最初より大きくなっちゃってる」
「俺は左右で大きさ変わっちゃったな……」
「二人は細かい操作やマナの供給維持がまだ未熟だな」
ジェンシャンがリリーと黒髪の勇者の魔法を観察して述べた言葉に、2人は肩を落とした。
「オリビアとジェンシャンはそこら辺うまいよねー……」
「マナ操作と変換はしっかり鍛えた方がいい。いくらマナ量が多くても燃費が悪いと意味がない」
「そうだね……俺は特に集中力を鍛えなきゃ……」
「黒髪の勇者は剣術も魔法も鍛えなきゃいけないから大変ね」
オリビアが少し焦る様子を見せた黒髪の勇者にそう言葉をかけると、彼は苦笑を浮かべて頬を掻いた。
「まあ、ね……手合わせして分かったけど剣術だけじゃ2人には敵わない……でも俺には魔法がある……よし!がんばるぞ!」
リリーが黒髪の勇者の言葉に目をキラキラさせ「あたしも四葉を守るよ!」と抱き着くと黒髪の勇者は嬉しそうに笑っていた。
「(……私もこれぐらい素直になれたら…………)」
「オリビアってばどうしたの?」
リリーに顔を覗き込まれ、オリビアはハッとして頭を振り適当に誤魔化すと、3人を見て提案した。
「よかったらこれからも時間を作って一緒に修練しない?」
「さんせー!」
「俺も是非お願いしたいです!」
「よっしー!魔法使い同盟結成ー!」
「子供か……」
「いいじゃん皆で強くなろー!」
リリーが子供のように飛び跳ねると、ジェンシャンは呆れていたが、得るものがあると思ったのか断りはしなかった。
魔法談議に花を咲かせていると、ヘリーがぴょんぴょんと飛び跳ねながら4人に声をかけた。
「皆さん‼︎もうこんな時間ですよ‼︎ご飯はいいんですか⁉︎」
「やば!朝ご飯!」
「忘れてた!皆待たせちゃってる!」
「オリビアさんも勇者様達が待っていますよ‼︎因みに青髪の勇者様はまだお眠り中です……」
「はぁ…………起こさなくては……」
オリビア達はヘリーに急かされ修練場を飛び出した。
「ごめんお待たせ!」
オリビアは部屋の前でカクタス達が集まって談笑している姿を見つけて慌てて駆け寄って謝ると、彼らは特に気にしていない様子で彼女にお疲れ様と声をかけた。
「オリビアって意外と努力家よねぇ」
「意外って何よ」
「褒めてるのよ〜!今皆でその話してたの」
「うっ……」
「何照れてんのよ!おっかしいわね〜!さて、朝ご飯食べに行きましょ!」
オリビアは若干頬を赤くして顔を背けた。
その様子に彼らはおかしそうに笑うと、彼女は更に顔に熱が集まるのを感じた。
食堂で朝食を取り、オリビアが再び修練場に向かおうとするとカクタスが慌てて駆け寄って来た。
「どうしたの?」
「修練場行くんだよね……?」
「そうだけど……あっ、昼は先に食堂行ってて」
「あ、うん…………いや、えーっと、……魔法の修練……四葉くんも一緒なんだよね……?」
「うん」
オリビアがそわそわとするカクタスに首を傾げると、ラークが後ろからやって来て「そう言えば……」と、オリビアに声をかけた。
「オリビア殿は黒髪の勇者に興味がないのか?」
「興味?」
「女性はみんな種族関係なく黒髪の勇者に惚れるという話を聞いたんだ。フォティニア殿も黒髪の勇者を褒めていたし……」
「ああ……彼、魅了ってスキル持ちなのよ。それが分かってるから私には効果がないの」
最初オリビアは、自分が他の世界から来たから彼のスキルが効かないのかと思っていたが、神の目で詳しく見てみた所、魅了スキルはそれに気付くと効果がなくなる事が分かった。
「(だから師匠も黒髪の勇者相手に平然としていたわけだ……)」
「そうなんだ……」
「で、カクタスどうしたの?」
「問題は解決したようですよ」
「ラークさん!」
カクタスがラークを肘でつつくと、ラークはおかしそうに笑いながらカクタスの肩を叩き去っていった。
「さっきのは特に深い意味はないから!」
「分かってるわよ。また後でね」
必死になるカクタスにオリビアは苦笑を浮かべると、彼を見送り修練場へと向かった。
「勇者様、お話はもう良いので?」
後を追って来たカクタスにラークが問いかけると、カクタスは顔を赤くしてじとりと見た。
「ラークさん……オリビアの前で変なこと言わないでください……」
「そう怒らないでください…………ふむ、オリビア殿も満更ではないようですし、気持ちを伝えては?」
「それはできない」
「……どうしてですか?」
カクタスは窓の外へ視線を投げると、静かに口を開いた。
「魔王を倒すまでは、そっちに集中しないと…………オリビアも、たぶん望んでないと思う」
ラークからは彼の表情を窺うことはできなかった。
ただ、その言葉からは少しだけ悲しさが滲んでいるように感じた。
「勇気がでないだけじゃないの〜?」
「で、デイジーさん!いつの間に!」
「もたもたしてるから迎えに来たのよ〜!さっさと行きましょ!」
――――
オリビアが修練場へ向かうと、そこには黒髪の勇者とリリーの姿があった。
朝食は部屋に用意してもらったらしく、食堂で会わなかった事に納得すると、遅れてジェンシャンがやって来た。
「遅かったねー?」
「そういえば、そっちも食堂で見かけなかったけど……」
「……ああ、部屋に食事を運んでもらった。……奴らは二日酔いらしい」
「あれ?お酒取り上げられてなかった?」
「甘やかす馬鹿が多い」
「ああ……」
ジェンシャンが額に青筋を立てるのを見て三人はすぐに察すると、リリーが慌てて話題を変えた。
「じゃあさっそく教えてもらった魔法獣の修練やってこっか!」
「うまくできるかな……」
“魔法獣の修練”とは、魔法で獣の形を作り、動かすというサクラの国でよく行われるという修練法だ。
実戦では使えないが、集中力とマナ操作の更なる向上が望めるらしく、マナ操作力を上げたいリリーと黒髪の勇者に合わせて行う事を決めた。
「ジェンシャンの雷属性は特に難しそうだから大きめの狼とかどう?」
「話を聞く限りかなり相性が悪いからな……そうさせてもらう」
「あたしと四葉は炎で……そうだなぁ……兎と猫かな!オリビアはどの属性でやる?」
「私は水にするわ。動物はそうね……鳥にしようかしら」
オリビア達は他の魔法使い達に声をかけて、コツを教えてもらいながら訓練を始めた。
「ある程度形にはなるが動物のように動かすとなるとやはり難しいな」
「そうね……翼を動かそうとすると形が崩れそうになる」
「リリーの……耳短くない?」
「むむっ!……あー……耳だけ大きくしたいのに体が大きくなっちゃう……」
ある程度修練の内容を理解すると集中する為にそれぞれ離れ、訓練を行なった。
形を保ったままどうマナを流し動かすか、少しでも流す力や量を間違えると望んだように動かない。そちらばかり考えてマナを動かすと形が崩れる――彼らは顔に苦悩を滲ませた。
「(選んだ動物が悪かったかな……いや、これができたら魔法のクオリティも上がる。がんばろ……)」
しばらくすると、リリーと黒髪の勇者は形を崩さず少しずつ動かせるようになり、オリビアとジェンシャンも修練場を1周回れるほど動かせるようにはなったが、その動きはぎこちなく、見れたものではなかった。
初めてでここまで動かせるのはすごいと周りの魔法使い達は言ってくれたが4人はまだ納得いかない様子だった。
「もうこんな時間かぁ……四葉も昼からは他の勇者達と特訓するんだよね?」
「うん。もう少しやりたかったけど、そっちも頑張らなきゃだから」
「残念……よーしっ、昼から1人で頑張っちゃおうかなー!」
「(……私ももう少しやりたいな…………確実にマナ操作うまくなってるし……
いや……まだ日はあるし、焦らなくてもいいか……)」
4人で食堂に向かうと、既に皆揃っていた。それぞれの仲間の所に移動して席につくと「お疲れ様と」互いに声をかけて食事を始めた。
「オリビア!」
「フォティニア?どうしたの?」
デイジーの影から頬にパンくずをつけたフォティニアが顔を出すと、オリビアはそれを指で差して指摘しながらどうしたのかと首を傾げる。すると、慌ててパンくずを取り除くフォティニアよりも先にカランコエが口を開いた。
「フォティニアが来なくていいって」
「ちょっとカランコエ!誤解させるじゃないですか!」
「どういう事?」
「午後からの事なんですが……私1人で投擲場に行きます!オリビア魔法の練習したいだろうに付き合わせるのはやっぱり申し訳なくて……他の弓使いの人や投擲士の人に相談したら付き合ってくれるって言ってくれたんです!だから私の事は気にせず魔法の特訓してきてください!」
「フォティニア…………1人で大丈夫なの?」
「大丈夫です!緊張するけど、みんな頑張ってるから私も頑張ります!それにカランコエも連れて行きますし!」
「俺部屋で本読みたいんだけど……」
「外でも読めるでしょ!」
「……分かった。ありがとね」
フォティニアは天井を見上げながらやる気に目をキラキラと輝かせていると、その隙にカランコエがフォティニアの皿にあった肉をこっそり食べるのが目に入った。
……幼稚な嫌がらせだ。
カランコエに呆れながらオリビアはカクタスの方へ視線を向けた。
「カクタス達も昼からトレーニング?」
「うん、そうだよ」
「また手合わせ?」
「俺達だけじゃなく他の人も使う場所だから手合わせできるかはまだ分からないかな……人が多そうなら自重トレーニングとか、器具とか使ってトレーニングするつもり」
「そういえば色んなのが置いてあったわね」
カトレアから筋力や体力も必要だとしごかれていた時を思い出すと、
自分も魔法ばかりでなく、時間を見つけて筋トレや体力トレーニングしなくてはと、オリビアは頭を掻いた。
「オリビアも来たんだ!予定大丈夫なん?」
「ええ。ジェンシャンも予定があるって言ってたけど……」
「夜に回した」
昼食を食べ終えて修練場に向かうと、そこにはリリーとジェンシャンがいた。
リリーは話を聞いて、2人が予定を変更してまで来てくれた事に機嫌良さそうにへへへっと笑みを溢した。
「2人よりうまくなってやるぞーって思ってたのになぁ〜!……でも来てくれて嬉しいかも?」
「……あんなにケンカ売ってたやつの言葉とは思えんな」
「ジェンシャンうるさい!あの時はオリビアはコネで推薦してもらったと思ってたから……」
リリーがチラッとオリビアを見るともじもじとしながら「今さらだけど、ごめんね」と謝って来た。
彼女の言葉に苦笑を浮かべると、オリビアは静かに首を振った。
「別に気にしてないわよ」
「よかった〜!オリビアの魔法はすごいし、仲良くなりたいって思ってたんだよね〜!……四葉に興味ないみたいだし……」
「調子のいい女だな」
「もー!さっきからめっちゃ突っかかってくんじゃん!ヤキモチやいてんの〜?」
「やめろ気色悪い。さっさと始めるぞ」
「はいはーい」
ーーーー
魔法獣の修練はあまり進歩がなかったものの、その後に行った瞑想は3人とも集中力を切らさず終えることができた。
マナの使用量も普段より少なく済み、訓練の成果が目に見えて分かると、3人は驚いた。
「自分ではマナの量は適正だと思っていたけど……」
「まだまだ改善できそうだ」
「努力の成果が見えるって大事だねー!あたしが一番成長してね?」
「確かにな。やっと足元まで来たといった所か」
「それどういう意味よー!てかもうこんな時間だねー……ヘリー連れて来るんだった…………さすがに皆ご飯食べ終わっちゃっただろうし3人で一緒にご飯食べよーよ!」
「一緒に食べる必要あるか?」
「はいはい!いいから行くよ!」
「おい引っ張るな」
文句を言いつつリリーを振り払わないジェンシャンにオリビアが笑うと、リリーに腕を引かれながら3人で食堂へと向かった。
「おー終わったかー?」
「お疲れ様!」
「おかえりオリビア」
食堂に行くとそこには勇者達がいた。
もう誰もいないと思っていたオリビア達は、彼らがいたことに驚くと、勇者達はそれを見ておかしそうに笑った。
「……えっ!えっ!待っててくれたの⁉︎」
「ちげーちげー、話し込んでたらこんな時間になっちまってよー!」
「あれれ?おっかしーなー……あいつら待っててやろうぜって最初に言い出したのパキラさんじゃなかったでしたっけ?」
「バカ!黙ってろ!」
「あはは、3人で話しながら待ってたんだ」
青髪の勇者が力強く黒髪の勇者の背中を叩くと、黒髪の勇者は軽くよろけながら笑ってリリーに向かって両手を広げた。
「四葉〜っ!」
「お疲れ、部屋で待ってようかと思ったんだけど寂しいかな〜って思ってさ」
「嬉しい〜っ!大好き!」
青髪の勇者は椅子を指差してジェンシャンに「さっさと座れ」と言うと、照れ臭そうに頬を掻いた。
「……………………」
「いやなんか言えよ‼︎気まずいわ‼︎」
カクタスはそんな様子を見て笑った後、オリビアの方を向くと隣の椅子を引いて手招きした。
「お疲れ様。少し前に様子を見に行ったんだけど、3人とも集中してたから邪魔しちゃ悪いなと思って」
「……ありがと」
「な、なんか怒ってる?」
「違う……う、嬉しかったの」
オリビアは照れ臭そうにそう言うと、カクタスは笑みを浮かべて椅子に凭れかかった。
騒ぐ4人に対して、2人の間に言葉はそれ以上なかったが、オリビアはその雰囲気を心地よく思いながら食事を待った。
少し改稿しました。




