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ep.30 気付き

 


 陽の光が窓から差し込む。

 オリビアはその眩しさに目を覚ますと、カクタスがその場で足をトントンと鳴らして具合を確かめている姿を見つけゆっくりと体を起こした。


「あ、オリビアおはよう」

「おはよ……大丈夫?」

「うん。とりあえずは大丈夫だと思う、昨日より痛みもないし、違和感も少ない」

「でもデイジーさんかラークさんに運んでもらいなさいよ」

「大丈夫なのに」


 カクタスは少し不服そうにしていたが、オリビアにじとりと睨み付けられると、彼は諦めて小さく頷いた。


 白魔法での治療は白魔法士と、治療を受ける本人のマナが必要だ。

 カクタスはマナの量がそこまで多くなく、白魔法士も消耗していた為、全ての傷を治すことができなかったらしい。

 骨折と筋肉の治療は済んだが、足の裏にできた傷はまだ跡が残っていた。


「(そういえば……)」


 オリビアは昨日は浮かれていてカクタスのステータスをきちんと見れていなかった事を思い出し、改めて神の目で彼のステータスを確認した。


 すると、槍術が神級に進化し、

 勇者の覚醒(フューリー)というスキルが増えていることに気付いた。


「(これがあの強さの正体?……フューリー……フューリーってなんだっけ?)」


「オリビア……俺の顔になんかついてる?」


 カクタスは彼女に凝視しされている事に気付くと、困った顔をして頬を掻いた。


「あっ、ごめん……スキルが増えてたから……勇者の覚醒っていうスキルで、全ての能力が一時的にだけど大幅に上がるみたい。フューリーって読むみたいなんだけど……」


「……フューリー…………だからか」


 オリビアの言葉にカクタスは少し考えた後、静かにそう呟くと目を伏せた。

 どういう意味なのかと問いかけようとした所で他の仲間達が目を覚ますと、聞くタイミングを失ってしまった。


 メイドは勤務中に一緒になって眠ってしまった事にひどく落ち込んでいた。

 カクタスが王に話しておくからと言うと何度も頭を下げて謝り、彼女は帰って行った。


 それぞれ顔を洗いストレッチを終えると、フォティニアが時計を見て口を開いた。


「そろそろ準備して王様に会いに行かないといけませんね!」

「そうね。デイジーさんかラークさん、カクタスをおぶっていってくれない?」

「承知した‼︎勇者様任せてください‼︎」

「すみません……」


 ラークがカクタスを横に抱くと、カクタスは恥ずかしそうに俯いた。


 宿屋から外に出ると、まだ熱の冷めやらぬ街の人々がカクタス達に気付いて手を振りながら何度も感謝の言葉をかけた。

 カクタスはそれに対して照れくさそうに笑って手を振り返し、カランコエはこの状況に不機嫌そうに眉を寄せた。


「王城までこれが続くの?うるさいんだけど」

「カランコエ‼︎ちょっと黙ってください‼︎」

「なんで俺が黙れって怒られるの」

「カランコエは感情のお勉強だけじゃなくて空気を読むお勉強もした方がいいです……ほら!手を振って!」

「なんで?」

「勇者様の仲間なのにこれじゃあ印象が悪いでしょ!」

「仲間じゃないんだけど」


 フォティニアがカランコエの手を掴み無理矢理振ると、女性達から黄色い声が上げった。

 思わぬ反応にフォティニアとカランコエがギョッとすると、女性達の熱い視線にカランコエは顔を引き攣らせ、急かすようにラーク達の背中を押して王城へと向かった。




 ーーーー


「よくぞやってくれた勇者殿‼︎」

「うぐっ……ありがとうございます……」


 王城に向かうと、カクタスは王の熱い抱擁で出迎えられた。

 上機嫌な様子でカクタスの背中をバシバシと叩いて笑う王からは酒の臭いがした。


「まさか殆ど被害もなく戦いを終えられるとは思わなかったぞ‼︎さすが勇者殿だ‼︎がははははっ‼︎」

「皆さんの協力があったからです」

「どこまでもいい男だな勇者殿は‼︎貴殿の活躍は各国に伝えられ、不安に包まれていた世界に希望の光が差し込んだ‼︎どこもお祭り騒ぎだ‼︎本当によくやってくれた‼︎」


 王はまた豪快に笑うと、執事に酒瓶とグラスを持って来るよう頼んだ。


「一杯付き合ってくれるだろ?」

「陛下、カクタスは……」

「大丈夫。いただきます」



 王はカクタスの前に胡座をかいて座り、カクタスもその場に腰を下ろすと、用意されたグラスを手に取った。

 そして互いのグラスに酒が注がれると、王は白い歯を見せてにっと笑った。


「共に戦えて嬉しかったぞ」

「俺もです」

「エボニーはこれからも勇者殿と共に。本当に感謝する」


 2人はグラスを軽く合わせると一気にそれを飲み干した。

 度数の高い酒にオリビアは心配そうにカクタスを見たが、彼は王を見つめ穏やかな表情を浮かべていた。


 王が手を差し出しカクタスがそれを握ると、王は力強く握り返した。


「戦友よ、共に勝利を掴み、世に笑顔と平和を取り戻そう」

「必ず」


 2人は共に笑みを浮かべると、更にもう一杯酒を酌み交わした。




 ――――


「カクタス大丈夫?」

「だい、じょぶ……」


 部屋から出るとカクタスはアルコールに目を回して倒れた。

 ラークが慌てて抱き上げると、カクタスはその腕の中で必死に意識を保ちながらオリビアに返事をした。


「さっきまで何ともなさそうだったのにしっかり酔っ払ったわね……」

「帰る前に少し休む?」

「セコイアで王様……ヒック……待たせてるから……」

「そうですよ‼︎さあさあ帰りますよ‼︎」

「忙しないわね……」


「お待ちください勇者様!」


 ヘリーに急かされ、魔法陣へ向かう途中――息を切らしながらメイドが走って来た。

 カクタスは頬を叩き意識をしっかりさせてメイドに視線を向けると、メイドは目に涙を溜めていた。


「もう帰られるのですか……?」

「はい。エボニーでは色々良くしてくれてありがとうございました」

「いえ!…………あの……お話ししたい事が……」

「?」


 メイドは俯きながら手をぎゅっと握り締めて深呼吸すると、顔を上げてカクタスを見つめた。


「勇者様、お慕い申しております‼︎」

「…………へっ⁉︎」


 カランコエ以外が突然の事に思わず吹き出すと、酔っ払ってふらつくカクタスを置いて大慌てで移動した。


「あのセリフ、フォティニアの小説にもあった。あの2人交尾するのか?」

「カランコエ黙りなさい‼︎」

「つい逃げて来ちゃったけど大丈夫かしら……勇者様ふらふらしてるし……」

「さすがにあの場に留まるメンタルは持ち合わせてないわ……」

「勇者様はどうするおつもりだろうか……」

「オリビア……」

「ちょっと……そんな目で見ないでくれる?」


 デイジーの心配そうな視線が突き刺さると、オリビアはさも気にしていないような顔をしながら、こっそりとカクタス達を覗き見た。


「えーっと……」

「初めて見た時から勇者様に惹かれておりました‼︎帰られる前に……気持ちを伝えたかったんです‼︎どうかお側に置いてください‼︎」

「気持ちは嬉しいけど、すみません……」

「……いえ……私のような者が勇者様と恋仲になりたいだなんて……烏滸がましいですよね……すみません……」

「違います‼︎そういうんじゃなくて‼︎俺好きな人が――」

「……勇者様?」

「…………」


 自分の口から無意識のうちに出た言葉に、カクタスは思わず言葉を失った。

 そして、すぐにそれが誰のことを言っているのか気付くと、彼は手で顔を覆った。


 メイドはカクタスの様子に困惑すると、彼はゆっくりと手を下ろしてメイドを見た。

 彼は優しく、そして穏やかな笑みを浮かべていた。まるで花を思い起こさせるような美しいその笑顔に、メイドは目が離せなかった。


 そして、その瞳の奥――

 彼の心、そしてその笑顔は自分ではない“誰か”に向いている事に気付くと、強く握り締めていた手を緩めた。


「……そうです、好きな人がいるんです」


「……その方が羨ましいです…………どうか、ご無事で……」


 メイドは涙を流しながらも笑みを浮かべ、静かに頭を下げた。





 メイドが去って行くのを見送った後、オリビアたちはカクタスの元へと駆け寄った。

 カクタスはオリビアが視界に入ると、気まずそうに視線を泳がせた。


「ま、待たせてごめん……魔法陣に向かおうか!」


 カクタスに話を聞いても良いものか――デイジーとフォティニアが顔を見合わせると、カランコエが空気を読まず彼に問いかけた。


「勇者、交尾するのか?」

「は⁉︎何言ってるの⁉︎」


「ニコニコしちゃって……」


 オリビアがぽつりと呟くと、カクタスは慌てた様子でオリビアの方を向いた。


「違っ……断ったよ‼︎」

「交尾は?」

「しない‼︎」


 カランコエに大声を上げるカクタスをオリビアが横目でちらりと見ると、彼と目が合った。

 カクタスは慌てて顔を背けると、足を引き摺りながら逃げるように歩き始めた。

 ラークが慌てて彼を抱き上げると、カクタスの顔は真っ赤に染まっていた。

 それは酒のせいなのか、それともメイドに告白されたからなのか――

 オリビアはカクタスに想いを伝えた彼女を羨ましく思いながら、窓の外に視線を投げやった。




 ーーーー


「よくぞ戻った。……大丈夫か?」


 セコイアに移動すると、報告の為にカトレアとロータスの元を訪れた。

 ふらついているカクタスを見て原因を察すると、カトレアは大きな溜め息を吐いた。


「…………エボニーの王だな……」

「すみません……」

「いや、気にしなくていい。とにかく、本当によくやってくれた。感謝する」

「いえ!俺一人の力ではないので!…………それと、この間は申し訳ありませんでした」


 カクタスはオリビアとの会話を邪魔した事を謝ると、カトレアは優しく微笑んだ後、その笑みを意地の悪いものに変えた。


「ならば、一杯付き合ってもらおうか。それで不問としよう」


 カクタスは先程まで赤かった顔を青くしながら引き攣った笑顔でもちろんですと答えた。


「冗談だ」

「う……」

「そして今日そなた達を呼んだ理由はまだ他にもある」

「なんでしょう?」

「パロサント国へ向かって欲しい」

「パロサント?いったいどうして……」

「今日の朝知らせがあった。神の鐘が鳴り、神託が下った。パロサントに勇者とその仲間を集めよと、それから……」



 話の途中、

 オリビアはデイジーに小さな声で話しかけた。



「デイジーさん」

「なぁにオリビア」

「神の鐘って?……それと、神託って?」

「やだ、あんた知らないの?神様からのお言葉よ!」

「それはわかるけど……」


 ローレルを思い出してオリビアが眉間に皺を寄せると、デイジーはその様子を不思議そうに見つめながら説明した。


「神の鐘が鳴った時、神託が下ると言われてるの。神の鐘っていうのはパロサントの大聖堂にある神様専用の呼び鈴みたいな物よ。それが鳴ったらパロサントの聖下とか、位の高い方が神託を受け取るのよ」

「…………位が高い人にしか神託は下らないの?」

「うーん……そういうわけじゃないけど……神託を受けられるのはパロサント大聖堂の、神の間って呼ばれる場所だけなのよ。そこは限られた人しか立ち入れない場所だから……」


『神託に従えばまたマナエルフは栄える!今がその時なんだ!』


 ローレルは確かに“神託”――そう言っていた。

 神の言葉が聞けるのがそこだけならば、ローレルの聞いた声はいったい誰のものなのか――

 神の愛子と呼ばれるマナエルフだから特殊なのか――

 オリビアはただ静かに眉を寄せて思考を巡らせた。

 しかし、そんなオリビアの様子に気付かずデイジーは手を組み目を輝かせて天を仰ぎ見た。


「でも今回はもしかしたらアタシ達も神様の声が聞けるかもしれないわよ♡」

「?」

「勇者と仲間を集めよ……つまり、神様は直接アタシ達に何か伝えたい事があるんじゃないかしら?」

「どうかしらね……」


 オリビアは顎に手を添えて考える仕草を見せると、デイジーはすぐにカトレアの話に耳を傾けた。


「大戦を終えた勇者達をもてなそうと思っていたが……すまないな」

「いえ、お気持ちだけでも嬉しいです。ありがとうございます」

「……うむ。では明日、他の勇者たちと共にパロサントへ向かってくれ、以上だ。今日はゆっくり休め」


 話が終わり、オリビアがカクタス達と共に部屋を出て行こうとした所――カトレアに手招きされた。

 オリビアが首を傾げながら駆け寄ると、ロータスは涙を浮かべながら彼女を抱き締め、カトレアは頭をぐしゃぐしゃと撫で回した。


「な、なんですか⁉︎」

「よくやった」

「ホントに無事でよかった……」

「ちょ、ちょっと!皆がいるのにやめてくださいよ!恥ずかしい!」

「こ、これが反抗期か……」

「甘やかしすぎたか?」

「ヒッ……その顔やめてください!」


 カクタスはその様子を見て、静かに笑みを浮かべた。

 カトレアは親の代わりにはなれないと言っていたが、彼の目から見た彼女達は一つの家族のように見えた。



 ――――


「黒髪、赤髪!お疲れさん!」

「パキラさんそれ大丈夫なんですか……?」

「もう傷塞がってっから平気だ!いやー流石にやばかったな!」

「治療受けなかったんですか?」

「受けてこれだ。白魔法士も限界そうだったし、血だけ止めてもらって傷は記念に残しといた!」

「あはは……」


 次の日、

 勇者と仲間達は王城に集まっていた。

 青髪の勇者は未だ至る所に包帯を巻いている事から、かなりの深傷を負ったのが伺える。


「待たせたな、これを使ってくれ」

「馬車ー!」


 勇者たちの元にカトレアがやってくると、その後ろには3台の大きな馬車が並んでいた。

 馬車はそれぞれ装飾の趣が違い、勇者たちの個性に合わせたようにも見えた。


「有り難く使わせてもらうぜ王様。さて……」


 青髪の勇者はオリビアの元へ駆け寄って来ると、馬車を親指で指して眉をキリッとさせながら彼女へ声をかけた。


「嬢ちゃん、こっちの馬車に乗ってかないか?」

「アニキやめなさい」

「うるせぇ!」


 カクタスの元仲間であるビンカが呆れた様子で青髪の勇者を止めると、青髪の勇者はまるで犬のように威嚇しながら彼を睨みつけた。

 そして、オリビアの髪が短くなっていることに気付くと首を傾げて彼女の顔を覗き込んだ。


「……あれ、嬢ちゃん髪の毛短くしたのか?短いのもいいじゃねぇか!可愛さに磨きがかかってるぜ!」

「ホントだ!結構ばっさりいったね……似合ってますよ!」

「ちょっとアンタ達‼︎」

「え⁉︎」

「うわぁっ!なんだよ⁉︎」


 そこに黒髪の勇者も加わりオリビアの髪を褒めると、デイジーが鬼のような剣幕で彼らに怒声をあげる。

 2人が困惑の表情を浮かべると、黒髪の勇者の仲間が彼を守るように前に集まってきた。



「四葉をいじめるなー!青髪の勇者だけ怒れー!」

「そうですわ!」

「なんでだよ‼︎」


 騒がしい彼らにカクタスが苦笑を浮かべながらオリビアの近くに寄ると、彼女は何か考えている様子で青髪の勇者を見つめていた。


「オリビア?」


「ん?どうした嬢ちゃん…………ま、まさか怒ってんのか⁉︎なんか事情があって髪を…………」


 青髪の勇者がやっちまったと顔を青くすると、オリビアは彼を見上げ、馬車を指差した。


「少しだけそっちの馬車にお邪魔してもいいかしら」

「は⁉︎」

「へ⁉︎いいのか⁉︎」

「オリビアなんで⁉︎」


「青髪の勇者に用があるのよ……」


 デイジーとフォティニアがどういうつもりかと血走った目でオリビアに迫ると、彼女は顔を引き攣らせた。

 青髪の勇者はそんなオリビアの気が変わらないうちにとスキップしながら手を引いて用意された馬車へと乗り込んだ。

 仲間たちは呆気に取られるカクタスを横目で見ると、気まずそうにしながら用意された馬車へと乗り込んだ。


「……あの告白見せられて拗ねちゃったんじゃないの?」

「あの時のオリビア殿は機嫌が悪そうだったからな……」

「えっ⁉︎ちゃ、ちゃんと断って……!」

「でもニヤニヤしてましたよね⁉︎」

「ニヤニヤ⁉︎……あれは違う事で……」


 カクタスが困ったように眉を下げると、彼らはカクタスの肩や背中を慰めるように軽く叩いた。


少し改稿しました。

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