ep.29 宴
オリビア達はその場で少し休んだ後、残された魔族の死体を兵士達と共に埋葬した。
疲労も大きくその作業にはかなりの時間がかかったが放置はできず、埋葬し終えると静かに手を合わせた。
兵士に怪我人の確認をすると、カクタスやフォティニア、そして白魔法士のお陰で重傷者はいなかった。
気が付くと日はまた高い所まで昇っていた。
「なんとか、終わったわね……」
「汗と血でべたべたねー……さっさと水を浴びて眠りたいわ……」
「皆様‼︎」
「どうしました?」
白魔法士とエボニーの兵士がオリビアたちの元に走ってくると、深く頭を下げてから口を開いた。
「勇者様の怪我の治療が終わりました。先ほど目を覚ましましたが、またお眠りになられたようです」
「よかった……!」
「しかし、折れた足の骨はまだ安定しておりませんので、安静が必要です。2日ほど歩かないようお伝え願います」
オリビア達はホッと胸を撫で下ろして白魔法士に頭を下げると、今度はエボニーの兵士が口を開いた。
「ヘリー殿からの報告で青髪の勇者様と黒髪の勇者様も勝利を収めたそうです‼︎本当に……感謝致します……‼︎」
兵士が頭を下げると、オリビア達は顔を見合わせて笑みを溢した。
――皆でヴァイスを守り切ったのだ。
「皆さんもお疲れでしょう、後は我々に任せてお休みください‼︎」
「お言葉に甘えさせてもらおう」
「続編早く買って」
「起きてからじゃダメですか……」
「ダメ」
オリビア達はカクタスに会いに行こうとも思ったが、疲労に負けて宿に戻り休む事にした。
オリビアは水浴びを済ませてベッドに倒れ込むと、カクタスの代わりに部屋に来てくれたデイジーに目を向ける。
デイジーはすやすやと気持ちよさそうに寝息を立てていた。
「カクタスすごかったな……」
それに比べて自分は――
オリビアは怪我してしまった自分に情けないと溜め息を吐いた。
ずっと神の目を使って皆を見て来たが、カクタスは見る度大きく成長していた。
それに対して喜びもあったが、焦りも大きかった。
「……しっかりしなきゃ」
オリビアは頭を振ってもっと頑張るぞと拳を握り意気込むとそのまま静かに眠りに落ちた。
――――
外の騒がしさに目が覚めた。
瞼を擦りながら窓の側に寄って外を見ると、すっかり日は暮れて空は暗かったが、街の灯りが辺りを眩しく照らしていた。
勝利の宴だろうか――兵士や国民がエールを片手に踊ったり歌ったりしている姿に、オリビアは頬を緩ませた。
「んん〜……なんの騒ぎ?……まぁ!楽しそうね!」
デイジーが目を覚まして窓の外を見ると、その光景に目をキラキラと輝かせた。
オリビアはそんなデイジーの様子に笑みを溢して「行って来てもいいわよ」と声をかけたが、デイジーは緩く首を振った。
「お祝いなら、勇者様が一緒じゃないとね!」
「……そうね」
窓を開けると、オリビアとデイジーは王城の方に目を向けた。
早くカクタスに会いたい――オリビアは心の中で小さく呟いた。
「明日、勇者様に会いに行きましょ」
「安静にしててくれればいいけど……」
「オリビアはどこ⁉︎って騒いでたりして」
「もう……やめてよ」
「オリビア!デイジーさん!」
揶揄うデイジーにオリビアが照れて口を尖らせると、人々の声に混じってカクタスの声が聞こえた気がした。
2人は顔を見合わせると、お互いに幻聴ではない事に気付く。
「カクタス?」
2人が下を見ると、そこにはメイドに支えられながらこちらに手を振るカクタスがいた。
「ちょっと!動いて大丈夫なの⁉︎」
「平気だよ」
「平気じゃないです‼︎筋肉はボロボロで骨だって…………白魔法士様から安静にと言われたのに、治療してもらったから大丈夫だと……どうしても皆さんの所に行きたいと……」
メイドが表情を曇らせながら言うと、カクタスは苦笑を浮かべて謝っていた。
オリビアは下へ降りてメイドに「代わるわ」と声を掛けると、彼女は首を振ってカクタスを見つめた。
積極的な彼女にオリビアが驚くと、デイジーが窓から降りて来てメイドからカクタスを取り上げオリビアにウィンクした。
「勇者様は怪我人で……!あの……!」
「女の子が支えるには勇者様は大きすぎよ♡アタシに任せて♡」
デイジーがカクタスを担いで宿屋の扉を開けると、「勇者様のご帰還よー‼︎」と大きな声を上げる。
すると、ラーク達が転がるように駆け降りて来た。
「勇者様‼︎ああ、よかった‼︎」
「お帰りなさいです‼︎」
「なんで担がれてるの?」
「怪我人だからよ!さっ、勇者様はここに座って!」
デイジーがカクタスを椅子に座らせると、彼の足には包帯が巻かれていた。
神の目で怪我の具合を確認してみると、治療済みとあるが、完治まで約5日とも表示されていた。
「まったく無茶するわね……」
「もうほとんど治ってるし……皆と今回のこと、一緒に祝いたくて……」
「治ってからでも遅くないでしょうに」
「まあまあ!そうね〜……じゃあ乾杯でもする?」
「いいな」
「俺も?」
「もちろんよ!」
「カクタスは怪我人だからジュースよ」
「そんな……」
肩を落としてしょんぼりするカクタスに皆が笑うと、デイジーがグラスに入った果実酒を持ってきて皆に手渡した。
せっかくだからとメイドにもジュースの入ったグラスを渡すと、彼女は困惑の表情を浮かべた。
「わ、私は……」
「遠慮しないの、あなただって今回の戦いでたくさん働いてくれたんでしょ?カクタスのワガママまで聞いてくれたんだもん。一杯付き合って」
「で、でも……」
「祝いの一杯よ、ジュースだし問題ないでしょ」
困惑するメイドにオリビアは笑いかけた。
その様子にデイジーは、肩を竦めて笑うとカクタスの方を向いた。
「じゃあ勇者様、乾杯の音頭よろしく」
「へ?……えーっと、……か、乾杯?」
「……まぁいいわ、乾杯〜!」
皆でグラスを軽く合わせると一気にそれを飲み干し笑った。
カランコエの顔が果実酒の色になるとフォティニアが吹き出し慌てて水を飲ませ、ラークとデイジーは肩を組んで自分の活躍を自慢し合い、カクタスとメイドはジュースを飲みながら談笑していた。
「おやおや皆さん楽しそうデェッ⁉︎」
ヘリーが窓から入って来るのが見えると、オリビアはヘリーを鷲掴むようにして捕まえ、にっと笑って「あんたもお疲れ様」と嘴を突いた。
「相変わらず野蛮‼︎‼︎」
「ぬいぐるみだから平気でしょ」
「感覚共有してるって言ったでしょ‼︎完全にではないですけど衝撃は多少あるんですからね‼︎」
「聞きたいことがあるの」
「なんですか?」
「モドキの姿はあった?」
「モドキ……?ああ、オークの事ですか?」
オリビアは静かに問いかけた。
村を襲ったモドキの裏に魔王側の存在があるのなら、この戦いに参加している可能性が高いと考えたからだ。
ヘリーは記憶を辿ると、そういえばと声を上げた。
「サロウの方で目撃されていましたね。通常のオークと違って魔法を扱い、青髪の勇者が少し手こずっていたと聞きました……プライドの高い魔族に珍しく逃げ出したようですが……」
「逃げ出した?…………そいつらは言葉を話した?」
「そこまでは……しかしあいつらは知能が低いはずです、話す事はないのでは?」
「…………ありがとう」
対峙した青髪の勇者に話を聞けば何か分かるかもしれない。
オリビアはぐっと顔を引き締め静かにグラスを傾けると、突然酔っ払ったラークとデイジーがオリビアの元に駆けて来た。
そして、「オリビアもすごかった」と繰り返しながら彼女を持ち上げて部屋の中をぐるぐると回り始めると、オリビアは驚きに数秒程硬直した後、すぐにこの状況のおかしさに笑い声を上げた。
――彼らと一緒にいられる未来を守りたい。
オリビアはそう考えると、ラークとデイジーの上から降りて2人に抱きついた。
2人は笑って彼女の背中を叩き、フォティニアも駆け寄って来てその輪に加わった。
カランコエはどうでも良さそうにしていたが、カクタスは羨ましそうにそれを見ていた。
――必ず魔王を倒す。
そう決めると、オリビアは果実酒を一気に飲み干した。
「あはは、オリビアったら飲み過ぎよ〜!」
「あんな大軍に勝ったのよ!今日ぐらいいいじゃない!」
「ヘリーどう思う?」
「明日は王への謁見があるんですよ?…………まぁ、ちゃんと起きられるなら私は何も言いませんけど!」
「さすがヘリー!」
珍しくオリビアに褒められると、ヘリーは満足げに胸を張って鼻を鳴らした。
「ふふん、せっかくですし私もいただきましょうかね!ごくごく……ッハー!セコイアの果実ジュースはたまりませんね!」
「………………え?」
「なんですかその目は…………あっ!違いますよ!セコイアにいる本体が飲んでるんです!」
「ここにいるヘリーは何も飲んでないから何言ってんのかと思ったわ……」
「変人扱いしないでください‼︎貴方達も頑張っていましたがヘリーも頑張ったんですよ‼︎いいから褒めてください‼︎」
ヘリーが翼をばたつかせると、カクタスが椅子を引き摺りながらオリビアの方へ寄ってきた。
「何話してるの?」
「ヘリーが褒めて欲しいんだって」
「そうだね、ヘリーは向こうの偵察だけじゃなく俺達や他の国にも連絡したりで大変だったよね……ありがとう」
「……赤髪の勇者様…………ふふん!悪くないですね!もっとないですか?」
「オリビア、外に行ってもいいですか?」
ヘリーが更に褒めてくれることを期待して問いかけると、それに被せるようにフォティニアが外から聞こえてくる音楽に目を輝かせながら声をかけた。
「ああ、そういえば皆集まって騒いでたわね……いいわよ」
「俺も行きたいな」
「カクタスも?」
「楽しそうだったから……」
「じゃあ皆で行きましょ!勇者様はアタシが運んであげるわ!」
「平気ですよ……」
「ダ・メ・よ!」
「ヘリーを褒めるタイムはもう終了ですか⁉︎」
デイジーがカクタスを担ぎ上げると、皆で広場の方へと向かった。
すると、そこに集まっていた人々から熱い歓迎を受けた。
涙を流しながらカクタスに感謝する国民や、彼女にプロポーズしましたと報告しに来る兵士、
人々はカクタスの周りに集まって、笑顔でお礼を告げていた。
カクタスは今まで見せた中でも一番の笑顔でそれに応えた。
カクタス達が現れた事で、広場は夜にも関わらず賑やかさが増した。
人々が音楽に合わせて踊り始めると、フォティニアがオリビアの手を引き、音楽に合わせて他の人達と同じように踊り始めると、オリビアは思わず笑みを溢した。
フォティニアが離れるとエプロンをつけた女性、そして子供、兵士と、踊る相手を変えながら音楽に合わせてオリビアは楽しく踊り続けた。
「俺エルフ様と一緒に踊ったぜ!」
「いいな〜……俺も参加してくる!」
「…………」
兵士が楽しそうに話す声がカクタスの耳に入ってくると、彼は羨ましそうに広場で踊る人たちを見つめた。
その様子に近くにいたデイジーは思わず笑うと、立ち上がろうとするカクタスの肩を軽く叩いた。
「ふふっ……勇者様はまだ安静にしてないとダメよ!」
「うぐ…………」
カクタスは恨めしそうに自身の足を見ながら唸り声を上げ、再び広場へ視線を戻すと楽しそうにする人々に目を細めて笑みを浮かばせた。
「ここの人達の笑顔は貴方のお陰よ、勇者様」
「ありがとう、デイジーさん」
カクタスはデイジーの言葉に照れくさそうにして、笑顔で踊るオリビアを見つめた。
オリビアはそんなカクタスの視線に気付き、輪から離れようとすると、帽子を被った男性が彼女の手を取った。
その男性に目を向けると、オリビアは驚いて動きを止めた。
「あらら、ダメダメ!ちゃーんと音楽に乗らなきゃ」
「!」
オリビアの手を引いて抱き寄せると、その男性――攫い人の男はにっこりと笑った。
男は音楽に合わせてステップを踏むとオリビアをくるりと回して子供達の方へと向けた。
「ちゃんと踊ってねーあそこの子供達とお話ししてるおばちゃん、俺達のお仲間なのよ」
「…………攫い人……何の用?」
「いやー素晴らしい戦いっぷりだったねー!俺もう勇者様にメロメロよ!」
次にオリビアと踊ろうと人が近付いて来ると、攫い人の男は「ごめんねーもうちょっと独占させて」とオリビアの手を引いた。
「でもまだまだスイッチ押さないといけないのはダメだよねー……エルフちゃんはハッピーエンドとバッドエンドどっちが好きかな?」
「なんの話……」
「やっぱり人間って楽しみがあると景色が変わるね」
曲が終わると男は帽子を取ってカクタスの視線を遮り、オリビアに顔を近付けた。
「ちょっと勇者様⁉︎」
それを見たカクタスは勢いよく立ち上がるとオリビア達の元へよろめきながらも駆け出した。
オリビアはそれに気付くと慌ててカクタスの腕を掴んで支えた。
「カクタス⁉︎足大丈夫なの⁉︎」
「そ、そんなことより!今、き、キスしてた⁉︎」
「は⁉︎そんなわけないでしょ‼︎」
「ホントに……?」
「ホントよ‼︎」
「よかった……あれ、今一緒にいた男の人は?」
「…………さあ?」
また別の曲が流れ始めると周りの人達が踊り出す。
ラークがカクタスを担ぎ上げると、オリビアは後ろを付いていき無茶をするなと彼の頭を軽く小突いた。
そして彼らと一緒にフォティニアが楽しそうに踊る様子をしばらく眺めた。
夜通し行う勢いだったのでカクタスの怪我の心配もあり、少ししたら中に戻って皆で語り合った。そして、気付けばオリビア以外は宿の食堂で眠りに落ちてしまった。
『素敵なエンディングを期待してるよ』
攫い人にかけられた言葉を思い出しながら、オリビアは静かに眠るカクタスの顔を眺めた。
少し改稿しました。




