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ep.2-40 残り2日

 

「オリビア様〜!この戦いが終わっ――」


「断る」


「まだ何も言ってないのに‼︎」


 オリビア達は元魔王(ナスタチウム)と戦ったあの場所に立っていた。

 そこは同時に、神が姿を消し――2日後に再び現れる場所でもある。


 決戦は目前。


 明日には魔族達を配置し、戦闘準備をすべて整えなければならない。

 オリビアは作戦の資料を片手に、仲間達と共に最終確認を進めていたのだが――


「ムッツリスケベに飽きたらいつでも呼んでくださいね♡」


「その心配はないからさっさと消えろ」


「黙れムッツリスケベ‼︎」


「はぁ……」


 わざわざオリビアを挟んで言い争うチューとカクタスに、彼女は額を押さえて重たい溜息をついた。


「……私はナチと向こうを見て来るから、2人は()()にあっちを見て来て」


「えっ⁉︎嫌ですよ‼︎」

「なんでこいつと‼︎」


「戦いの時が迫ってるのよ、仲間なんだからちゃんとして」


 煽るようにナスタチウムがニヤニヤとしながら手をひらつかせると、2人が言い争う声が大きくなった。

 オリビアは再び溜息を吐き出して、さっさとその場を離れた。


「まったく……少しは緊張感を持ってほしいわ」


「負ける気がしねぇんだろーよ」


 ナスタチウムは煙草の煙を上に向かって吐き出しながらオリビアを見下ろし、にっと口端を持ち上げた。


「ちなみに、俺もだ」


「……油断はしないでよ」


「油断なんてしねーよ。……俺は、これが終わったらまた肉体をもらうんだ」


「そうなの?」


 ナスタチウムは上機嫌な様子で煙草を軽く揺らしながら頷いた。


「お前のその異常な自己犠牲の精神は俺に畏敬の念を抱かせた。そんな稀有な主を俺はこれからも近くで見ていたいんだ」


「……あんたは私に死んで欲しいのかと思ってた」


「そんなわけないだろ。ただ“バケモノ”でいて欲しいだけで、死んで欲しいわけじゃない」


「バケモノってなによ」


 オリビアはフンッと鼻を鳴らして空を見上げた。

 嫌な予感は常にオリビアの背後にいたが、もう彼女がそれに対して不安を抱く事はなかった。




 ――――


 復活は2日後。しかし、正確な時刻までは分からない。

 明日にはいつ復活してもいいように各自が配置につく。ゆっくり眠れるのは今夜が最後だ。


「エッチな事はしちゃダメよ?分かった?」


「はい……」


 オリーは最後まで2人っきりになる事を許さなかった。

 少しだけでもと食い下がるカクタスに向かって怒号がいくつ飛んだかは覚えていない。

 しょんぼりとするカクタスを睨み付けるオリーに、デイジーは苦笑を浮かべながら空気を変えるように話題を振った。


「必ず勝って今度こそ皆でケーキを食べるわよ〜!」


「お〜!」


「俺タルトってやつがいい」


「仕方ないですね!なんでも買ってあげます!」


「なら俺様はミルフィーユ!」


「いいですよ!……って、えぇ⁉︎」


「お邪魔しまーす!」


 突如部屋の扉が開かれ、パキラや四葉達がマットを手に雪崩れ込んできた。

 その中にはシオンとキャットの姿もある。


「赤髪の勇者‼︎どけ‼︎」


「おじいちゃん落ち着いて……」


「何しに来たのよ……」


「皆で寝よーよ!」


「狭くないか?」


「家具どかせばいけるだろ」


 返事も待たずに家具を退けて各々がマットを敷き始める。

 オリビア達が唖然としながらその光景を眺めていると、パキラはおかしそうに笑った。


「最後なんだしいいだろ!」


「無茶苦茶だわ……」


「いいんじゃない?人がいっぱいいるからあったかいし」


 カランコエはそう言って暖炉の前に寝そべった。


「……少しは遠慮というものを知って欲しいわ」


「無理無理」


 オリビアを囲うように寝転がる彼らに、カクタスは意図を察すると、笑みを浮かべてオリビアの肩を叩いた。


「なに?」


「皆いるよ」


「どういう――」


 彼らはどこか困ったように笑みを浮かべてオリビアを見つめていた。


「あっ……」


 ――仲間だけでなく、彼らにもしっかりと心の内を見透かされていたらしい。


「…………まったく、皆して心配性なんだから」


「フンッ、思い上がんなよな‼︎」


 うまく笑えずにいるオリビアに、ビンカはビシッと指を立てて鼻を鳴らす。

 そんなビンカの頭をパキラが叩き、部屋が騒がしくなると、カクタスはオリビアを手招きした。


 周りの目を気にしながら隣に寝転ぶと、カクタスは毛布をかけて笑みを溢した。


「陛下が……セコイアの王様がすごく心配してた。パルマエの人達も、エボニーの人達も……たくさんの人が今でもオリビアを心配してる」


「……」


「終わったら必ず、ヴァイスの人達に事情を説明するから……皆に会いに行って」


「……うん、たくさん謝らなくちゃね」


 オリビアは笑みを浮かべて頷いた。

 その顔に、以前まで感じていた影は見えない。


「(……よかった)」


 未来の話をすると、どこか他人事のように遠くを見ていた彼女の視線は、やっと自分たちと同じ方向に向けられたように感じた。


 ――だが、直接彼女の口から聞きたい。


「あれ……?」


 最後の不安を拭い去る為に口を開こうとした時、カクタスはある違和感に気付いた。


「オリビア……」

「どこ見てるのよ、エッチ」

「違っ…!」

「カクタス‼︎エッチな事は終わってからって言ったでしょ‼︎」

「はぁ⁉︎赤髪なんの話だ⁉︎」

「っ‼︎」


 ――彼女のインナーは、袖がなかったはずだ。

 肩が布で隠れている事に気付いて思わず凝視してしまった。

 オリーとパキラが騒ぎ始めると、カクタスは慌てて説明しようとしたが、シオン達まで騒ぎ始めると、それ以上口を開く事は許されなかった。


「(寒いからかな……)」


 やっと解放された事にホッと息を吐くと、横でうとうととするオリビアに視線を向けた。


「……そろそろ寝ようか」


 この状態の彼女に問いかけても、答えをもらえるか怪しい。


 カクタスは不安を誤魔化すようにオリビアを抱き締め、耳に届くオリビアの小さな寝息と、ぬくもりを感じながら、静かに目を閉じた。



 ――――


 翌朝、

 オリビアは準備を整え、創造神の復活地点へ向かった。

 シュバルツにいる多くの魔族、そして勇者とその仲間達と共に。


「オリビア、明日まで暇だぜ」


「ダメよ。終わったら相手してあげるから我慢して」


「チッ!退屈すぎて死んじまう!」


 ウイキョウはそんな軽口を叩きながらもどこかソワソワと落ち着きがない。

 他の魔族達も同じだ。


「罠ヨシッ!合図の確認ヨシッ!……ってもスライム相手じゃ罠も大した効果はなさそうですが……」


「あたいも手伝ってやったんだ!もっと自信を持て!」


「あーはいはい、そうっすねー……」


「なんだその態度は‼︎」


 もう明日だというのにチューやアジは相変わらずだ。

 そのおかげで多少助かっているところもあるが――


「大変です‼︎」


 魔族達に指示を出していると、ヘリーが慌てた様子で飛んで来た。


「転移実験を再開するようです‼︎今回はヘリーだけでなく、兵士達も一緒に転移させるみたいで……」


「兵士達も……?」


「兵士の数は?」


()()()()()は3人だけです‼︎ですが、全員が精鋭で……

 その3人が無事にシュバルツへ転移した事が確認でき次第、すぐに本隊を転移させる予定のようです‼︎」


「分かったわ。とりあえず探知できる人達に連絡して」


 ヘリーとアジを見送りながら、オリビアはぐっと拳を握り締めた。

 転移自体は成功している。

 必ず前日には再開するだろう事は分かっていた。


「フンッ!んな顔すんなよ!ちゃんと命令通り動いてやるよ!」


 転移して来た兵士達の相手をするのはウイキョウ達魔族。

 彼らに殺さないで欲しいというのは我儘だ。


「もしもの時は――」


「殺さねぇよ」


 オリビアの言葉を察したウイキョウはそれを遮るように言葉を放った。


「殺さず圧倒する方が強者っぽいしな!」

「殺すのは簡単!」

「半殺しにしてやる!」


 魔族達はゲラゲラと笑いながら背中をバシバシと叩き合った。

 ぽかんとするオリビアに、ナスタチウムは笑って煙草の煙を吐き出した。


「うまく調教できたようだな」

「調教なんかされてねぇよ‼︎」

「黙ってろ元魔王‼︎」


「……頼んだわよ」


 オリビアは眉を下げて彼らに笑いかけた。

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