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ep.14 兄弟

 


 核を破壊した事でスライムは海に溶けるようにして消えていき、寄生されていた魚人が解放された。

 カクタスは魚人を抱き抱えるとゆっくりと下へ降りた。

 オリビアは彼女に巻き付けた海藻を取ると、神の目で状態を確認した。


「よかった、気を失ってるだけだわ」

「勇者様!エルフ様!」


 そしてカンパニュラが兵士を呼んだ後、二人の元へ急いで泳いでくると深く頭を下げた。



「助かりました……役に立てず申し訳ない……」

「いえ、そんなことは……!……彼女を救えてよかった」

「本当にありがとうございます」



「スライム……低級魔族がこんな力を……」



 駆け付けた兵士達は気を失っている魚人を見て肩を震わせた。

 スライムとは、誰もが弱い魔族だと認識していた。決して、自分達を脅かすようなモノではないと――

 カンパニュラはカクタスから魚人を受け取り、そんな彼等を見て声を荒げた。


「パルマエの戦士が何を震えているのです!しっかりなさい!」

「も、申し訳ありません……」


「よせ、カンパニュラ」

「王……!」



 知らせを聞いた王がオリビア達の元へやってくると、震える兵士達を横目に小さく首を振った。


「魔王が復活した時――勇者4四人現れると言われているが、今回は3人……そして力を増した魔族達を目の当たりにして、不安になるのは仕方のない事なのじゃ……」

「ちょっと……!カクタスの前でわざわざそんな事言わなくても……!」

「オリビア、いいんだ」


 カクタスは腹を立てるオリビアを制止すると、首を振って苦笑を浮かべた。

 王は失言だったと慌てて頭を下げて、兵士に被害の状況確認と負傷者の保護を命じた。


 オリビアは不服そうに顔をムッとさせカクタスの方を向くと、あんな事をいいつつ気にしているようで、彼は少し俯いていた。


「カクタス」

「ん?……ぅ⁉︎」


 オリビアがそんなカクタスの背中をバシッと叩くと、彼は間の抜けた声を漏らした。

 困惑するカクタスにオリビアは笑顔を向けた。


「カクタスのおかげでジャイアントケルプは守られたの!」

「オリビア……」

「かっこよかったわよ!」


 そう、

 寄生された魚人も、狙われていた人魚の歌も、ジャイアントケルプも、カクタスのおかげで救われたのだ。


 オリビアは彼を思い腹を立てるのではなく、彼を思い称賛の言葉をかけた。

 そんな彼女に、カクタスは表情を穏やかにしてありがとうと笑みを溢した。



「……ちょっと待ってください」


 突然、カンパニュラがぽつりと呟いた。

 その呟きにカクタス達がどうしたのかと首を傾げると、カンパニュラが険しい顔で二人を見た。


「そう言えば……勇者様の話ではチモシーにも――」


 言葉の途中で大きく城が揺れると、カンパニュラは何かを察し、城から飛び出した。

 カクタスやオリビアも続いて城を出ると、


「あれは……」


 太陽の日差しを背に、沢山の影が海底へ向かいゆっくりと落下してきた。

 影の正体――それはチモシーで見た家の一部だった。


「いかん!チモシーも襲撃されておる!」


 王が状況を察し、焦りの感情を顔に滲ませる。

 カクタスとオリビアは、先ほど戦ったスライムの言葉を思い出していた。


『俺の方がーーーーうまくやれるはずだったのにーーーー!』


『油断するなって言われてたけどーーーー』


「カクタス……」

「うん……チモシーにもスライムが……恐らくここで戦ったスライムよりも強い個体が……」


 カクタスは槍を握り締めながら顔を険しくさせると、上を見上げた。


「オリビア、陸へ戻ろう‼︎」

「わかったわ!」


 ここにいても状況は分からない。

 二人はチモシーの応援に向かう為、陸へ戻る事を決めた。


「なんだなんだ⁉︎」

「ゲンペイ丁度いいところに‼︎勇者様を連れてチモシーへ急いでください‼︎」

「よろしくお願いします!」

「へぁ⁉︎」


 騒動を聞きつけやってきたゲンペイはこの状況に混乱しながらも、カンパニュラに急かされカクタスたちを背中に乗せて地上へと向かった。


「我々も戦闘の準備を整えて海上へ向かいます‼︎動ける者を集めなさい‼︎」

「妾も行くぞ‼︎」

「なっ……危険です‼︎」

「妾は行かねばならん‼︎」





 ――――

 海上に上がり陸地を見ると、チモシーの居住区からは煙が上がっていた。

 そして、それよりも目を引いたのは、大きな角を生やした羊のような形をした巨大なスライム。

 そのスライムはゆっくりと海に向かってきている――カクタスとオリビアは静かに息を呑んだ。


 ゲンペイが浜に上がると、戦っていたチモシーの兵士たちがそれに気付いて声を荒げた。


「なっ……!ゲンペイてめぇ……何しに来やがった‼︎」

「あのスライムはお前らの仕業か⁉︎」

「ちげーよ‼︎」

「勇者様‼︎」


 兵士を掻き分けラークが駆け寄ってくると、ゲンペイは気まずそうに貝についた苔をハサミの先でがりがりと削り、カクタスとオリビアは戦闘態勢に入った。


「やっぱりこっちにもスライムが……」

「突然同胞からスライムが飛び出しこのように街を破壊し始めて……こっちにも、とは……?」

「カクタス、ジャイアントケルプに出たスライムと同じ魔造スライムよ!」

「どういうことです⁉︎」


「お前が勇者?」


 スライムが足で浜の砂を払うと、カクタスをゆっくりと見下ろした。


「よくも弟をやってくれたな」


 ジャイアントケルプにいたスライムとは違い、癖のない口調でスライムは言葉を発した。

 そしていくつもの魔法陣が空中に浮かび、そこから大量のスライムが落ちて来ると巨大なスライムと融合しその体を更に大きくさせた。


「今のセリフ一度でいいから言ってみたかったんだよね、嬉しいなー」

「す、スライムがしゃべっ……」

「え?ああ、驚くのも無理ないよね……俺達スライムは――」


 スライムが話している後ろで、チモシーの兵士がその体に向け斧を振り下ろす。

 するとスライムは大袈裟に溜息を吐いた。


「まだ話している途中だよ。……おかしいな……もしかして俺、うまく話せていないのか?」


 スライムが地面に向かって腕を振り下ろすと、衝撃で兵士達が軽く体勢を崩し、スライムはそのまま彼らを払い除けた。


 オリビアは慌ててゲンペイの貝に付いていた海藻を使って飛ばされた兵士達をキャッチするが、陸地では海藻がうまく育たず千切れてしまった。

 衝撃でオリビアが後ろによろけると、ゲンペイがそれを受け止めた。


「オリビア‼︎」

「大丈夫‼︎カクタス集中して‼︎」


 オリビアを心配するカクタスにスライムの攻撃が飛んでくるとカクタスはそれを槍で弾き、彼女の言葉に頷いて戦闘を始めた。


「(核を探さないと……)あれ……?スライムが寄生してた人は?」

「寄生……?ああ……あいつなら……」


 チモシーの兵士が指差した先には皮だけになった羊の獣人の死体があった。


「(寄生じゃなくてあの皮を被ってなりすましてたってこと?……ならなんで核が見当たらないの……!)」


「勇者様に続けー‼︎スライムを海に近付けるなー‼︎」


 ラークと兵士達がスライムに向かっていくとオリビアはその隙に神の目を使ってスライムの情報を見た。


 魔造スライム(2)

 水属性魔族

 捕食者(プレデター)

 対象を体内に取り込み消化する。肉や内臓を好み皮は消化せず残す事がある。

 変身(トランスフォーム)

 捕食した者の姿を真似ることができる。

 召喚(サモン):スライム

 自分よりレベルの低い同族を召喚できる。


 もっと、詳しく――


「気持ち悪い視線を感じると思ったら、お前一体何してるの?」

「‼︎」


 オリビアの視線に気付いたスライムが彼女に向かって腕を振り下ろすと、オリビアは慌てて水属性魔法の防御壁を作り出したが――ラークが斧で受け止めた。


「何をやっている‼︎スライムに水属性魔法は厳禁だ‼︎スライムにとっては水は回復薬も同じだぞ‼︎」

「す、すみません……!」


 咄嗟のことに最悪の選択肢を選んでしまった――オリビアは心を落ち着かせ、スライムの攻撃に注意しながら再び神の目を使うと、スライムは困ったように唸り声を上げた。


「やっぱりこの体じゃイマイチだな……」


 スライムは体をぐねぐねと動かし、トカゲの獣人、蜘蛛の虫人、蟹の魚人――次々と姿を変えていく。

 オリビアは思わず顔を引き攣らせた。


「あんた……一体何人食べたのよ……!」

「えっと……たくさん?」


 表情のない顔で首を傾げると、スライムは蛸の魚人へと姿を変えた。足を四方に広げ鞭のように砂浜を叩き砂煙を上げると、ぬらりとその足を動かした。


「これでいっか」

「っ!」


 速い……!


 スライムは蛸の魚人の姿に変わった事で先程より力は落ちたようだが攻撃のスピードが上がり、手数が増えた。

 逆にカクタスは砂で足が取られ動き難いせいで、避けるのに手一杯の状況に置かれてしまった。

 砂場での戦闘に慣れているチモシーの兵士達もスライムのスピードに悪戦苦闘しており、オリビアも地の魔法を使い砂を巻き上げスライムの攻撃を制限しようとしたが、すぐに別の足が伸びてきて阻止されてしまった。


「よっこいしょ」

「ぐっ‼︎」

「かはっ……!」

「ぬぅっ‼︎」


 スライムは下半身をぐるりと回してオリビアたちを払い飛ばし、大きく飛躍して海へと落ちた。

 口の中が鉄の味で満たされる――

 海を見るとスライムはその体を更に大きく膨らましていた。


「さて、第二ラウンドといこうか」


 この世界のスライムは、核以外はほとんどが水でできている。

 魔法でその水を操り体の形を保っているのだ。

 彼らは水さえ与えればいくらでも体を再生することができる。


 しかし個体の差はあるが、核の操れる水の量には限界がある。操る水の量が多ければ多いほど、動きは鈍くなり、形状の維持も難しい。

 頭の悪いスライムはその事を忘れ、水を吸いすぎて自滅することも少なくない。


 ――だが目の前のスライムはどうだ。

 多くの水を取り込んだにも関わらず動きは変わらず、形状も保ったまま。

 そして弱点である核はどこにも見当たらず、常に回復できる状態(うみのなか)


 チモシーの兵士たちは斧を落とし、膝をついた。

 自分たちが対峙しているのは、本当にあの最弱の魔族(スライム)なのか――


「同胞達よ‼︎なにをしている‼︎」


 戦意を喪失した兵士たちにラークが怒号を飛ばすが、立ち上がる者はいなかった。

 海に出て戦うことができれば――しかし、カクタスが身につけている水中用の装備は全てジャイアントケルプに回収されてしまっている。

 ただの泳ぎで対抗できる相手ではない。

 ラークは表情を曇らせた。


「俺がなんとかします」

「勇者様……!」


 カクタスはラークの横を通り過ぎ海へ潜ると、ラークは再び斧を握る手に力を込めた。

 そして、兵士たちに遠距離武器を持ってくるよう指示を出すと、それを見たスライムは顎に手を添えて、こてんと頭を横に倒した。


「そうか、お得意の戦法は使えないのか。つまらないな……魚人達は来ないのか?」


 スライムは余裕そうにそう口にすると、飛んできたカクタスの攻撃を軽くいなした。

 そして浜辺にも足を伸ばして攻撃をしてくるが、オリビア達は本体に近付く事すらできない。


「ラーク‼︎」


 すると岩陰に隠れていたゲンペイが、ラークに声をかけた。

 スライムの攻撃を防ぎながらラークがそちらに視線を向けると、ゲンペイは恐怖に身を震わせていた。


「なんだゲンペイ!今は忙しい!」

「俺達は……パルマエの戦士だ‼︎」

「!」

「俺も戦う‼︎」

「ゲンペイお前……」

「待っててくれ!」


 ゲンペイが海に飛び込むと、ラークはそれを追うスライムの足を斧で切り付ける。

 ゲンペイが何を考えていたのかは分からなかったが、彼の目には覚悟が見えた。


 オリビアが砂浜に手を着き神の石のマナを流し込むと、浅瀬に見える海藻を操りスライムの体を拘束する。

 力が強く完全に動きを止める事はできなかったが、スライムの動きが少し鈍くなった。

 しかし、陸地の植物とは違うからかマナの消費が激しい。右手の神の石を確認すると、左手のカモフラージュ用に付けた装飾のトパーズと比べ若干濁りを帯びていた。


「(早くこいつをなんとかしなきゃ……!)」


 水中にいるカクタスの様子が分からない、

 オリビアが焦りを感じているとスライムの足が飛んできた。


「やっぱり放っておいてはくれないのね……!」

「させんぞ‼︎」

 オリビアが防御のために海藻へのマナを打ち切ろうとすると、ラークがオリビアを守るようにスライムの足を受け止めた。


「ありがとうございますラークさん!」

「いえ、これぐら……なんだ⁉︎」


 オリビアがラークへ感謝を伝えると、突然海の方から何かが飛んでくるのが見えた。

 ラークは慌ててスライムの足を弾き、斧を構え直すと、それは少し手前に落ちてバタバタと暴れ叫び始めた。


「熱い‼︎‼︎」

「カンパニュラさん⁉︎」

「お前いったい何をしてるんだ‼︎」

「うるさい‼︎お前達の助太刀に来たのだ‼︎ジャイアントケルプとチモシーの対立には魔王が関わっていた‼︎あれをなんとかするぞ、このままでは人魚の歌が奪われてしまう‼︎」

「狙いはそれか……‼︎」


 様子に気づいたスライムが再び足を伸ばしてくるとラークがそれを受け止め、海面から飛び上がったカクタスが槍を振り下ろし切断した。


「ラーク、力を貸してくれ……‼︎」

「……スライムは共通の敵って事でいいんだな」

「そうだ」

「チモシーの兵士は戦意喪失している。俺しか戦えんぞ」

「だから私が来たんだ‼︎」


 カンパニュラが懐から水中用のマスクと足の装備を取り出すと、ラークに投げ渡す。

 ラークはそれを受け取り装備すると、カンパニュラを担ぎ、勢いよく海へと投げ飛ばした。


「ラークさんさっきのはどういう……」


「ラーク‼︎」


「応‼︎」


少し改稿しました。

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