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ep.2-39 「生きて」

 

「ダメーー‼︎」


 会議の終了と共に各々が部屋へ移動しようとした時――オリーの耳をつんざくような怒鳴り声が部屋に響き渡った。


「え、っと……オリーちゃん?」


 彼女が言葉をぶつけた相手はカクタスだった。


 オリーはどこか切羽詰まったような顔で肩を震わせ、オリビアとカクタスの間に立っていた。


 部屋に残っていた仲間達が困惑しながら顔を見合わせているのに気付くと、オリビアはオリーを落ち着かせるように彼女に声をかけた。


「オリー、突然どうしたのよ……」


「もうカクタスと一緒に寝ないで‼︎」


「え……?昨日までカクタスが来ると嬉しそうにしてたじゃない」


「もう嬉しくない‼︎」


 オリーの瞳には涙が溜まり、今にも零れ落ちてしまいそうだった。


「ちょっとオリー……」


「あー……気まずい思いさせたよね……ごめんね」


 カクタスが苦笑を浮かべて頭を掻くと、オリーは溢れかけた言葉を飲み込み、すり抜ける事も構わずオリビアをポカポカと殴り始める。

 そんな彼女の様子に、オリビアは顔を顰めさせた。


「……オリー、少し話しましょう」


「バカ‼︎オリビアのバカ‼︎」


「分かった、分かったから……ごめんカクタス、あまり気にしないで」


 落ち込むカクタスの肩を軽く叩くと、オリビアはオリーを連れて部屋から出て行った。



「赤髪、お前毎晩嬢ちゃんの部屋に行ってんのか?スケベめ!そりゃ嫌われるぜ!」


「ちょっと青髪の勇者様‼︎追い討ちやめなさいよ‼︎」


 会議前までは、笑顔で話をしていたのに――


 オリーはカクタスによく懐いていた。

 そんな彼女が見せた拒絶の言葉に、カクタスはひどく困惑した。


「(俺も後でちゃんと話を聞こう……)」


 図々しかったかもしれない。

 カクタスは頬を掻いて小さく溜息を溢した。




 ――――


「オリビアどういうつもりよ‼︎」


「オリー落ち着いて」


「落ち着けるわけないでしょ‼︎」


 部屋に移動するとオリーは声を荒げてオリビアに詰め寄った。

 オリーは普段からよく怒りを爆発させていたが、今回は特に強く怒りを感じているようだった。


「どういう事よ‼︎あんた何してるのよ‼︎」


「…………」


 大粒の涙をぼろぼろと溢しながら怒鳴るオリーに、オリビアは静かに視線を横に逸らした。


「……必要になる」


「預言者にでもなったつもり⁉︎勝手に決め付けないでよ‼︎こんな事して……カクタスが可哀想だとは思わないの⁉︎」


「……申し訳なく思ってる。けど、任せられるのは彼しかいないから」


 オリビアは拳を握り締め、口角を少しだけ持ち上げた。


「諦めてるわけじゃない。保険……みたいなものよ。だから怒らないで、オリー」


「保険⁉︎……最低‼︎馬鹿‼︎嫌な予感に振り回されて情けない‼︎」


「そうね」


「自己中心的‼︎馬鹿‼︎大馬鹿よ‼︎」


 オリーはその場にへたれ込むと声を上げて泣いた。


 ――諦めているわけじゃないと言いながら、オリビアは自分が死んだ後の為に動いている。


 部屋の外では様子を見に来たナスタチウムやキャット、そしてシオンがその泣き声を聞いて顔を顰める。

 壁越しに聞こえるオリーの怒鳴り声だけでは何を言い争っているのか分からなかった。


「ごめんねオリー」


 彼らがオリーの怒りの理由に気付くのは、もう少し後――




 ――――


「終わるまで、一緒に寝るのは難しそう」


 オリビアはオリーを横目に、カクタスにそう伝えた。


「……分かった。オリーちゃん、ごめんね……」


「…………」


「ちょっとオリー」


「フンッ」


 あれから反抗するようにオリーは無視を続けている。


「はぁ……オリー……」


「…………」


「オリビア、魔族の立ち回りなんじゃが……」


「……今行く」



 ――まともに会話ができないまま数日が過ぎてしまった。



「ヘリー……大丈夫?」


「はい……皆さんのおかげでそこまでダメージは大きくありません」


 そう言いながらもヘリーの声は弱々しい。

 いくら肉体にダメージがなくとも、何度も死を疑似体験するのは耐え難い事だ。


 復活の時まで1週間を切り、日に日に緊張感が増す中、彼のおかげでヴァイスは転移の実験を休止した。


 ヘリーは「力になれてよかった」と嬉しそうに笑みを溢したが、仲間達は罪悪感と心配の滲んだ顔でヘリーを見つめていた。


 オリーはちらりとオリビアに視線を向ける。


「…………」


 オリビアも同じ顔を浮かべてヘリーを見つめていた。


 不機嫌そうに口をへの字に曲げると、オリーはオリビアを叩いた。


「何よ」


「それが分かるくせにホントバカ。……これ以上はやめて」


「……分かってる」


「約束して」


 オリーはオリビアの前に手を突き出して小指を立てた。


「諦めないで。皆の為にも、カクタスの為にも、私の為にも、あんたの為にも」


「諦めてない。……本当よ」


「いいから‼︎」


 オリビアは苦笑を浮かべながら小指をオリーの指に合わせた。


「きっと大丈夫だから」


 目を伏せて祈るように呟くオリーに、オリビアは同じように目を伏せた。


「…………」


 少し離れた所からそれを険しい表情を浮かべて見つめるカクタスに、2人は気付かなかった。



 ――――


 創造神が復活する時は刻々と迫っている。


 転移実験は()()で、中止ではない。

 警戒を緩める事はできなかった。


 当日転移を強行してくる事も考えながら日々話し合いが続き、

 ありとあらゆる事態を想定して練られた計画は完璧なように思えた。


 しかし、それでもオリビアの背後から嫌な予感が消える事はなかった。



「これからはカクタスと一緒に寝てもいいわよ!」


「!」


 オリーの言葉にカクタスは目を輝かせて喜んだ。

 あからさま過ぎるそれに、オリビアは恥ずかしさを覚えてカクタスの背中を叩くと、彼は眉を下げて気の抜けた笑みを浮かべた。


「たーだーし!」


 しかし、その後に続いたオリーの言葉にカクタスは肩を落とした。


「ちょっとオリー!アタシ達が気まずいじゃないの!」


「許してあげてください!」


「ダメよ!」


 オリーはデイジー達も一緒に寝る事を条件とした。


「最後の3日間は皆で寝るの!」


「俺達に構わず交尾し始めたらどうすればいいの?」


「カランコエ‼︎」


「そんな真似しないわよね、カクタス」


 オリーはカランコエの口を塞ぐカクタスを睨み付けると、カクタスは顔を引き攣らせた。


「ちゅーもエッチな事も、終わったらたくさんできるんだから我慢して‼︎」


「お、オリーちゃ――」


「返事は⁉︎」


「は、はい…………」


「オリビアも‼︎返事は⁉︎」


「わ、私も?は、はい…………」


「あははっ!オリビアったら保護者がまた増えたわね!」


 デイジーがおかしそうに笑うと、それに釣られてフォティニアやラークまでもが笑い声を上げ、オリビアとカクタスは顔を赤くしながら気まずそうに頬を掻いた。


「でも皆で寝るのも本当に久しぶりね〜!懐かしいわ!」


「初めて皆で宿に泊まった時の事覚えてますか?」


「勇者が俺をベッド代わりにした時のことでしょ」


「そうそう!あの時と同じ、ベッドが4つだけど…………今回は譲り合いにならずに済みそうですね!」


 ニヤニヤと笑うフォティニアにオリビアがデコピンを喰らわせると、フォティニアは額を押さえて転げ回った。


「最初はここまで信頼を置ける仲間になるとは思わなかったな…………」


「そうよ!最初は誰も親睦深めようとしないし!ラークなんてアタシとカランコエに対してツンケンして!嫌なヤツだと思ってたわ!」


「それはお前が最初に突っかかってきたからだろ‼︎俺が先に勇者様と話があると言ったのに…………」


「アタシだって大事な用事だったんだから‼︎」


「懐かしいわね」


 思い出話に花が咲くとオリビアは笑みを浮かべながら目を伏せた。

 楽しい思い出だけでなく、辛く大変な事もたくさんあった。

 それでもこの人達と出会えてよかった。


 ――まるでフラグを立てた気分だ。

 嫌な予感を振り払うように頭を振ると、カクタスがオリビアの手に触れた。


「オリビア」


「なに?」


「生きて」


 カクタスの言葉に思わずギョッとすると、彼はオリビアの手を握り締めた。


「オリビアが死んだら、俺も後を追うからね」


 恐ろしい宣言をしたカクタスに、オリビアは呆れて額を押さえた。


「誰かカクタスを叱って……」


「勇者様の愛が重いのは今更でしょ」


「そうじゃなくて――」


「死ななきゃ問題ない」


 カランコエの一言がオリビアの心に突き刺さる。

 よく見ると、仲間達の顔からは笑みが消えていた。


「オリビア、あんたが誰も犠牲にしたくないって気持ちは分かるけど……アタシ達だって同じなのよ。

 アンタ1人で戦ってんじゃないの」


 デイジーはオリビアの鼻先に指を向けると眉を下げて笑った。


「これぐらい脅しかけとかなきゃ、アンタは無茶するでしょ?」


 オリビアをフォティニアとデイジーが包み込むように抱き締める。

 ラークとカクタスはそれに笑みを浮かべ、カランコエは気味悪そうに顔を顰めた。


「……まったく」


 心地いい感覚に、オリビアは困ったように笑みを浮かべた。







「ん……?オリビア……?」


 気付けば眠りに落ちてしまっていた。

 カクタスは隣にオリビアがいない事に気付いて体を起こすと、慌てて辺りを見回す。

 まだ起きて本を読んでいたカランコエは、焦るカクタスを見て本を閉じた。


「トイレだって」


「そっか……びっくりした……」


 カランコエはホッとするカクタスから暖炉の火に視線を移すと、触手を薪へと伸ばした。


「やっぱりまだまだ理解できないなぁ……」


 ぽつりと呟いたカランコエの言葉に、カクタスは不思議そうに首を傾げた。




 同時刻――

 オリビアはシオンの部屋にいた。


「シオン、聞きたい事があるの」


 いつもなら喜んで何かと尋ねるが、オリビアの表情を見てすぐに尋ねる事ができなかった。


「私が――」


 ――構わず振られた問いかけに、ただ顔を険しくして小さく頷くと、オリビアは安堵に笑みを浮かべた。

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