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ep.12 イケメンの魚人と魚人の王

 


 ジャイアントケルプはこの山のように巨大な岩の中にある。

 一見すれば、誰もその中に国があるなどと思わないだろう。


 元々魚人は謎が多く、チモシーと同じ移動民族なのではと言われていた。

 しかし、勇者が肉食魚人に追われる魚人を救った事で、ジャイアントケルプという魚人の国の存在が判明したのだ。


 岩に辿り着くと、ヤドカリの魚人が海藻を掻き分け、その奥に隠されていた穴の中へと入る。

 少し進むと開けた場所に出た。

 奥には大きな扉があり、その前には魚人の兵士達が立っていた。


 兵士を見ると顔の作りは人間に近いが、黒目が大きく肌は青く鱗のようなモノが見える。耳と肘、そして頭から背中にかけヒレが生えており指の間には水掻きのようなモノも見える。

 下半身も人間に似ているが足先は指の代わりにヒレが伸びていた。


「おう!ご苦労さん!扉を開けてくれ!」

「おい待て待て!連れているのは人間じゃないか!」

「今パルマエがどういう状況だか分かっているのか!」


 兵士たちはカクタスとオリビアに気付くと慌ててヤドカリの魚人を止めた。

 その行動に、ヤドカリの魚人は手足をバタバタとさせながら怒りの声を上げた。


「無礼だぞお前ら!よく見やがれ!」


「その刻印……まさか……」


 兵士達は勇者の刻印に気付き、慌てて持っていた銛を地面に突き刺し掌を上に向け両手を上げて頭を下げた。

 ヤドカリの魚人は偉そうに胸を張ると得意げに二人を紹介した。


「そうだ!勇者様とお仲間だ!パルマエの為に来てくださったんだ!」

「ようこそおいでくださいました勇者様!おい!今すぐ王へ伝えろ!」

「わかりました!」


 扉が開かれると兵士の1人が泳ぎ去って行った。

 ヤドカリの魚人はアクアボートの紐を引くとその後ろを追うように扉を潜った。


「このまま王城にお連れするぞ!」

「お前は任務の途中だろ!」

「任務どころじゃねぇんだよ!」

「あっ!待て!」


 兵士の言葉を無視してヤドカリの魚人はアクアボートを引き奥へと進むと、その先には広大な空洞――ジャイアントケルプの幻想的な街があった。


「綺麗……」

「そうでしょう!」


 海の生き物――そして魚人たちが水中を泳ぎ回り、陸地では見られないさまざまな色の海藻や珊瑚、イソギンチャクが石でできた街を彩っていた。


 特に目を惹かれたのは天井に生えた発光する大きなイソギンチャク。

 その光は、生き物や街を優しく照らしていた。



 奥には大きな珊瑚と海藻に囲まれた城が見える。

 城の壁は何か特別な加工、または特別な素材でできているのか、まるで真珠のような上品な輝きを放っていた。



 城門まで来ると鎧を着た兵士達がカクタスたちに気付き、銛を離し両手を上げ頭を下げた。


「ようこそおいでくださいました。王が中でお待ちです」

「よし!」

「待てゲンペイ、お前はここまでだ」

「なっ!」


 先へ進もうとするヤドカリの魚人――ゲンペイを兵士たちが止めると、彼は納得がいかない様子で手足をばたつかせた。


「で、でもよぉ!勇者様のためにアクアボートを引かないと……」

「それは貴方でなくともできますよ」


 どこか甘い低音の声が聞こえると、視線がそちらに集中した。

 そこには燕尾服を着た――


「お待ちしておりました、勇者様。ここからは私がご案内致します」


 頭が魚の魚人が立っていた。


「(頭が魚で……体は人間……?)」

「……チッ!相変わらず男前だな……お嬢ちゃんも釘付けじゃねぇか……」

「⁉︎」

「ふふっ……恐れ入ります」

「⁉︎⁉︎」


 冗談なのか本気なのか分からずフードを握り締め困惑するオリビアに、燕尾服を着た魚人はクスクスと笑ってゲンペイの前に手を差し出した。


「ゲンペイ」

「……待ってくれよ……俺は、俺は話を聞いちまった……だから……」


 カクタスの話を聞き、彼はいてもたってもいられなかった。

 しかし、燕尾服の魚人が諭すようにもう一度名前を呼ぶと、ゲンペイはぎゅっと唇を噛み締め、アクアボートを渡した。


「王の元へ案内致します」


 燕尾服の魚人がアクアボートを静かに引くと、カクタスとオリビアは悔しさを滲ませたゲンペイの背中に軽く頭を下げた。


 ――――


 燕尾服の魚人に連れられ城の中へと入ると、天井が高く通路はとても広かった。

 至る所に海藻や小さな魚、そしてクラゲが泳いでいる。

 クラゲはぼんやりを光を放ちながらふわふわと浮遊していて、照明の役割を果たしているようだった。


「街もそうだけど、どこも綺麗ね」

「そうだね。城の中もすごく幻想的だ」

「お褒めに預かり光栄です。ジャイアントケルプの民も喜ぶ事でしょう」


 大きな扉の前に辿り着くと、燕尾服の魚人はゆっくり止まった。

 その扉の前にいた大きな魚人の兵士達はカクタスを見つめながら扉の向こうへ声をかけた。


「王よ、勇者様がいらっしゃいました」

「通せ」


 声が返ってくると、兵士達は頭を下げ扉を開いた。

 中にはたくさんの魚人達が並び、手を上げて深くお辞儀をした。


 しかし、奥には玉座もなければ王の姿もない。


 もしかしてこの中に王が?

 カクタスとオリビアは失礼があってはいけないと、頭を下げて様子を伺った。

 すると大きな影がゆっくりと横切っていくのが視界に入った。


「よく来たな」


 上から声が降ってきた。

 恐る恐る顔を上げると、大きな菱形の影がゆっくりとこちらに降りてくる――そして、姿がハッキリ見えると、2人は顔を強張らせた。


「妾がジャイアントケルプの王じゃ」


 ジャイアントケルプの王はカクタスやオリビアが人形に見えてしまうほど大きかった。

 体は人間の女性に近く、脇腹と首元ににエラが見える。

 頭部から脹脛の辺りまで左右に大きく広げられた髪のようにも翼のようにも見える菱形の物は体の一部らしく、よく見ると背中にくっ付いていて先には細い尻尾のような物が揺れている。


 ジャイアントケルプの王は水中を漂いながら顔だけを二人に向けると横に大きな口を少しだけ開けた。


「妾は体の構造上立ち泳ぎが苦手なのじゃ……このままで許して欲しい」

「大丈夫です……早速で恐れ入りますが、お話があります」



 二人は顔を見合わせるとジャイアントケルプの王に、チモシー側でも同様の件が起こっている事、お互いが魔王に降ったと勘違いしている事、そしてチモシーから子供がいなくなっている事を話した。

 王は暫く考え込んだ後、兵士に何かを伝え再び彼らの方を見た。


「子供を攫ったのは本当じゃ」

「なっ……」

「ホントに勇者様?勇者様ー!」


 子供の声が聞こえ振り向くと、そこには別のアクアボートに乗ったチモシーの子供達が元気に手を振り二人を見ていた。


 どういう事かと困惑しながら二人が王を見上げると、王は目を伏せて話し始めた。


「チモシーが魔王側についたと思い、罪のない子供達が戦禍に巻き込まれては可哀想じゃと、保護し他国へ預けようと考えていたのじゃ。ゲンペイ達陸地で動ける者に頼んでな」

「でもこれでは……!」

「聞いて聞いて!海の中なのに息ができる部屋があるんだよー!ジャイアントケルプの王様も遊んでくれるんだよ!」

「コラコラ!暴れると船から落ちる!後で顔を出すから部屋で大人しく待っておるんじゃよ」

「えー!もう部屋に戻るの?」

「大人しく待っておれば勇者様も部屋に連れて行くんじゃがのー……」



 王がカクタスに目配せすると、カクタスは苦笑を浮かべて「遊びに行くよ」と子供達を宥めた。

 子供達は目を輝かせ頷くと手を振り部屋から出て行った。


「…………」


 カクタスが槍を握る手に力を込めているのが分かった。

 国同士の問題だ、人間関係のすれ違いとは訳が違う。

 同盟関係でありながら勘違いからすれ違い、状況を悪化させる両国にカクタスはもどかしさを感じているようだった。


「勇者の話を聞いて互いに誤解があったのはわかった」


 カクタスとオリビアは王の言葉に安堵し笑みを浮かべた。

 ――しかし、続いた言葉に思わず固まった。


「しかしもうどうでもいいのじゃよ」


「連れてきました」


 先程王に指示を受けた兵士達が戻ってくると、その腕には魚人達が抱かれていた。

 よく見ると鱗が所々剥がれ、背びれや尾びれが傷付いている――黒い瞳には光がなく、うっすら白くなっていた。



「この人達は……」

「チモシーに襲われ、生き残った者達じゃ」

「!」


「話を聞けば恐らく魔王が何か企み妾達を分断する為手を加えたであろう事はわかった。しかしいくら互いに誤解があったと言えど、やつらはジャイアントケルプの国民を傷付けたのじゃ。許す事はできん」

「チモシーの人ではなく魔王側がやった事だとしたら……!」

「チモシーの人達に襲われたの」


 怪我人の1人がそう言うと、周りの魚人たちも怯えた表情で頷き小さな声でぽつりぽつりと話し始めた。


「チモシーのやつらが……俺達を襲ったんだ……」

「私は牛の獣人に鰭を刻まれた……」

「私は山羊の獣人に鱗を削がれたわ……」

「思い出したくない……!」

「怖い……怖い……!」


「なぜ勇者様はチモシーの肩を持つの?」


 1人の魚人が白く濁った目を大きく開き2人を見ると、他の魚人達も同じように大きく目を開き2人を見た。

 その視線に思わず息を呑むと、王はまたふわりと上へ浮き上がった。


「幸いな事に自然治癒力の高い妾達魚人であれば治癒できる範囲ではある……が、この者達の心の傷は癒えんだろう……妾達はそなた達勇者の味方じゃ、魔王討伐の際には手を貸そう。しかしジャイアントケルプとチモシーの件には口出し無用じゃ」

「……っ」


「あの……」


 オリビアが控えめに手を上げると一斉に視線が集まった。

 まだ何か言うつもりかと言いたげな視線が突き刺さり、息苦しさを感じながらも王を見上げてオリビアは言葉を続けた。


「王様とだけ少しお話することはできますか?」

「なに?」


「いくら勇者様達と言えど兵を下げるわけにはいきません」


 燕尾服の魚人が前に立つと、王はひらりと体を捻り浮かび上がり、またオリビアたちの前に降りてくるとくすくすと笑った。


「よいぞ、話そうではないか」

「王!」

「よいではないか。ただし、二度も同じ話を聞くつもりはないぞ」

「兵は下げませんよ!」

「ならばお前だけ残れ!他は下がるのじゃ!人よ、それでも良いか?」

「はい」


 カクタスが心配そうにオリビアを見る。

 それに気付いたオリビアが“私に任せて”とウィンクして見せると、彼はより心配そうに眉を下げた。


 王が人を下がらせると広い王の間には四人だけとなった。

 王は両頬にある突起を伸ばしてアクアボートの膜に触れ、口を大きく左右に釣り上げた。


「では、話を聞こうか?」


 オリビアは深呼吸すると、燕尾服の魚人の方を向いて静かに言葉を発した。


「……そこの人、暗器357個所持してますよね」

「!」

「それから、スキルは 操作(ストリング)……内容は――」


「カンパニュラ‼︎」


 何かに気付きカクタスが槍を構えると王が大きな声を上げた。

 気付くと針のような物がオリビアの周りを囲み静止していた。


「……暗記の数はぴったり357、王しか知らないスキル名まで見破るとは……さすが勇者様のお仲間だ」


 静止していた針のような物がゆっくりと地面に落ちていったかと思えば、それらは素早く燕尾服の魚人の懐に戻っていった。

 オリビアは槍を構えたままのカクタスを落ち着かせると、王を見上げた。


「私の目は特殊なんです。その人の名前、スキル、状態……よく見ればもっとたくさんのことが分かります」

「……それは妾達に明かして良い事なのか?」

「信用してもらう為です」



「……その目で何を見たのじゃ」



 王の問いに、オリビアは静かに目を伏せた。

 そして、再び王を見上げると、

 彼女は険しい表情で王に告げた。




「先程ここに連れて来られた人達は黒魔法(催眠)にかけられていました」


少し改稿しました。

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