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星々の残響  作者: ナイヤ
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第五話 ノーラン・ベイは眠らない

 

 クラウは静かな息を吐き出しながら、ヴァルチャーのシートに身を沈めた。

 ディスプレイには先ほどのALICEが解析した全てのデータがゆっくりとスクロールしている。


 クラウはそれから目を背けるように、外を見た。


「……あの機体、どう考えても普通じゃないな」


 独り言を漏らしつつ、クラウは深く眉を寄せて、考察を始めた。


 まず頭に浮かんだのは、あの機体の動き。


「AI制御……それも、あの挙動は神経接続型AIか?」


 クラウが小さく呟くと、デバイスからALICEが穏やかなトーンで反応を返す。


 「可能性は十分に考えられます。神経接続型の戦術AI機構は、アダプター国家の一部で実用化が確認されています。極めて精緻でタイムラグのない反応速度は、神経接続型の特徴と一致します。」


 クラウは無言で頷く。


 「しかしあの素材は……見たこともないものだった。現代の技術であの素材を継ぎ目のない機体に加工できるのか?そもそも、あれだけ高性能な一体型の機体なんてあり得るか?」


 ALICEは沈黙を保った。

 おそらく、情報がないということだろう。


「……まさか、旧時代の遺産か?地球時代に封印された忘れ去られた兵器。いや、そんな馬鹿げたことがあるか。」


 クラウは苦笑するように呟き、もう一つの可能性を頭に浮かべた。


 「それにあの血液や心臓のようなものはなんだ?あの異様な外見と機能は、兵器というより何か違う意味を持っているのか?アリス、宗教国家の中で、儀式として宙戦機が使われた例はあるか?」


 ALICEは再び静かに応答した。


 「確かに、ネグラードなどの宗教国家において、そのような実例は確認できます。文化的背景も考慮した場合、あの機体はそうした儀式兵器としての可能性も排除できません。しかし、それを裏付ける明確な証拠も存在しません。」


 クラウは腕を組み、ディスプレイを鋭く見据えた。

 

 「いや、仮にそうだったとしてもあの血液のような液体や心臓は、何か機械としての意味があるのか?」


 ALICEは答える。


 「まず、血液のようなものは、冷却効率を上げるためのバイオ模倣型の冷却液などの可能性があります。また、心臓や脊髄のようなものは有機的なナノマシンが詰まった筋肉状構造、機体全体を支える上で補助している可能性があります。」


 「なるほど。いろんな可能性があるな。」


クラウは、ゆっくりとした息をもう一度吐いた。


 「理論的には、クラウの考察はどれも有効な推測です。」


「……いや、だが最も合理的なのは、AI神経接続型の兵器ということだろうな。あの反応速度と軌道の精密さは人間じゃ無理だし、何よりAIの研究を追求している国はいくらでもある。」


 そう口にしたが、一つの違和感が胸の中に残った。


 「あれだけ完璧に動いていたのに、なぜあの時、攻撃をためらった?」


 脳裏にはこちらを凝視していた、あの機体の姿が浮かんだ。

 まるで初めて見たものに戸惑い驚いているようにして佇む、あの不気味な機体の姿が。

 だが、その一瞬の疑問をすぐに振り払った。

 疑念はあるものの、今は明確な答えなど見つかりはしない。


 「ALICE、この戦闘記録を解析して、可能性の高いものから再度精査してくれ」


「了解しました、クラウ」


コックピット内は再び沈黙に包まれた。


 クラウはシートに背を預け、深い宇宙の闇を見つめながら、曖昧な不安を胸の奥に封じ込めた。






 「あ、あとジャズかけて。バカみたいに渋いやつ。


 「.........了解。あなたのセンス、相変わらずね。」



 クラウたちは、戦闘で消耗した機体を修理するため次の目的地へと向かっていた。




______________________






ゴウン、、、ゴウン、、、


 平たく伸びたチタン製の壁に、金属質の重低音が反響する。

 タトゥーが入った者や腕が複数本ある者、人型のロボットなど様々な特徴を持った作業員たちが、時々汗を拭って機械に向き合っていた。


 「おーい!そっちの機体はこっちへ回してくれ!そうだ!こっちだ!」

 

 タンクトップを着た髭面の男は、腹の底に響くような声でそう叫んだ。

 声に合わせ、クレーンが指示した方向へ戦闘機を運ぶ。

 

 ここは、浮遊型都市国家連合の中立整備拠点【ノーラン・ベイ】。

 

  宇宙を漂うその巨大な浮遊都市は、主要な航路からは外れた辺境に位置している。

 だがこの宇宙でその名を知らぬ者はいない。

 なぜならノーラン・ベイには——どんな旧式の艦でも、どんな奇抜な構造の試作機でも——修理・改修できない機体はないと噂されているからだ。


 事実、整備ドックにはあらゆる世代・あらゆる国の部品が積まれ、リフトに吊られた機体が文字通り空中を飛び交っていた。


 「これ、第二次タニア戦争の頃のユニットじゃねぇか……まだ動くんだな、こいつ」


 白衣を羽織った技師が、分厚いレンズ越しに古びたコックピットを覗き込む。隣では、電子皮膚をもつ義手の整備士が煙草を咥え、訝しげに横目を向けた。


 ステラ・シティズの中でも、ノーラン・ベイは極めて独立性が高い。

 そのため、戦争中の軍事機体も、終戦後の密輸品も、果ては違法改造機までもがここに集まる。

 そして誰もその是非を問わない。問い始めたら、この都市は機能しなくなる。

 各国の言語が飛び交い、整備員の笑い声や怒号、機械の駆動音が重なるこの場所では、戦争と平和が同居している。ここでの唯一の共通語は、「機体が飛べるようになること」ただそれだけだった。



 頭上の大型スピーカーからは、合成音声による到着便案内が聞こえてくる。


 《接近中:ヴァルチャー、Δ(デルタ)型1機、着艦コード認証完了。》


 「おい、新顔だぞ。ちょっと珍しい機体だ」


 整備士たちが足を止め、空中スクリーンに映るシルエットに目を向けた。


 ——クラウ・ロゼスのヴァルチャーが、今まさに空港に滑り込もうとしていた。




ちなみに、今回ALICEがかけたジャズの曲ですが、これはジョニーグリフィンのOlive Refractionsです。


私的には途中のピアノのとこが一番好きです。

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