第四話 継承者たち
「鳥の羽ばたきとさえずりの音、瑞々しくその存在を誇示する森の木々たち。隙間から差し込む日光と近くに流れる川のせせらぎ。ふと立ち止まり下を見てみれば、木陰と日光の絨毯の上で、虫や小動物が走ったり止まったり、忙しなく動いている。
数々の生物がそれぞれの生を謳歌し、それはこの先も決して変わらない普遍的な事実だと感じている。」
少年が、その場に立ってそう話した。
「は〜い、ありがと〜。あ、座って〜。はい。
え〜、今から数百年前、今は無き地球という惑星では、このような素晴らしい景色がありました。え〜?先生?もちろん行ったことないですよ。っていうかまず先生は産まれてませんからこの時代には。はい。そして人類はこの〜〜〜。あ、そうだね、ここじゃあ〜53。53番の人に読んでもらおうかなぁ〜。はい誰〜53番、はいあなたね、じゃあここ読んでちょうだい。え、嫌?恥ずかしい?何言ってるのよあなた早く読みなさ
「ピピッ」
、、、、ってもうこんな時間じゃない。いいわ、もうビデオ流すからあなたたちそれを見てなさい。」
その女教師はしばらく空中の電子キーボードを操作し、それが終わるとすぐに教室の外へと飛び出した。
少年たちはの目に、大きなホログラムスクリーンが映る。
やがてビデオが始まった。
「──この世界を、語ろう。」
かつて人類は、地球という惑星の上で、空を見上げ、星々に夢を馳せていた。
だが、人類は己の愚行によって足の下にある母なる惑星の資源を、枯渇させ、環境を崩壊し、同じ種族を彼らが持ち得る全ての憎悪と、悲しみと、怒りと、企みとでぶつけあって、そして傷つきあった。
空に希望を抱いていた人々の、決して気づくことはない足元の楽園は、ゆっくりとだが着実に、蝋燭のともしびの様にその生命を失っていった。
それでもまだ、人類は立ち止まらなかった。
戦争が科学技術を発達させ、やがて限界を超えた。
そしてついに彼らは──「脱出」を始めた。
宇宙移民計画。
またの名を、エクソダス計画。
聖書における、出エジプト記を由来として名付けられたこの計画は、宇宙への大規模な移動という歴史的転換点を象徴しており、これによって人類は、地球という束縛からの脱出を成し遂げた。
そして時代は、地球外定住の黎明期へと突入する。
地球を捨て新天地を求めた人類。
一つの種族が希望を胸に星の海へ旅立った。
だが、「地球を失った」ことは、同時に「文明の統一軸」を失うことでもあった。
今、星々に点在する国家は、次の三種に分類される。
まず一つ目は、ジオ・アーキ型国家
──「惑星を改造する者たち」
これらの国家は、地球に似た環境を持つ惑星を見出し、そこを徹底的に改造することで人類が居住することを可能にした。
巨大な環境制御ドーム、人工重力、気象調整機構……星をまるごと”都市”へと作り替える、まさに人類の「外への適応力」がここはあった。
彼らは、都市国家の理想型として君臨し、恒常的な社会秩序と工業力を誇る。地表を持ち、なおかつ膨大な資源を輸出、加工している彼らは国際社会において常に強い影響力を持ち、軍を保有する彼らの存在は、「国家における王道」と言うことができるだろう。
ジオ・アーキ型国家は多く存在するが、そのどれもが生きている中で一度は耳にする超大国であり、国際社会での影響も非常に大きいものになっている。
そして二つ目は 、アダプター型国家
──「人間を改造する者たち」
地球外へ出た人類は、その居住地に地球と似た惑星を探した。ジオ・アーキ型国家の様に、一つの惑星に居住することができれば、比較的地球と同じ状態、つまり本来の姿で生活することができる。
また、ジオ・アーキ型であれば、その惑星にある地下資源など様々な物資で、他の国家に交渉することができる。
しかし、広大な宇宙において、その様な人類に優しい惑星はそう簡単には見つからず、やがて人々は疲弊していった。
必死に惑星を探し回る中で、一部の国家はこう考えた。
「星を変えるより、人間を変えた方が早い」と。
幸いにも、地球外を脱出して国家をある程度維持しながら、惑星を捜索するだけの高度な科学技術を持っていた人類。
やがて、極限環境に対応するため、人体そのものを適応させる科学が生まれた。
高重力、超高温、超低温、低酸素、電磁嵐、凍土、大気毒──
環境に応じて神経や器官を再構成し、進化の速度を人為的に操作する国家群が、このアダプター型の国家である。
そして、アダプター型国家の民は、もはや“人類”と呼んでいいのかすら分からない姿で生きている。
彼らは機械のように冷静で、だが時に本能に近い反応を見せる。
一方、人類の尊厳を破壊しつつも、生を欲するその姿はジオ・アーキ型国家からはとても醜く見えた。
そのためこの宇宙世紀においては、ジオ・アーキ型国家からアダプター型国家の人々は嘲笑の対象であり、差別を容認されている。
アダプター型国家の最たる例は独裁国家グ・ルースであり、その強大な軍事力は星々を震撼させている。
そして最後に、ステラ・シティズ
──「移動し、逃れ、漂う者たち」
浮遊都市型とも呼ばれるこの形態は、すべてがスペースコロニーに居住している。
母となる惑星を持たず、だが身体も変えず、ただ小さな宇宙都市を維持する小国家群である。
彼らは常に「自由」に生きており、その姿は特定の重力にも文化にも縛られることはない。
地下資源もなければ、経済規模も軍事力も小さく、その国際的影響力は乏しい。
だが、彼らには誇りと安寧がある。
その曖昧さと流動性こそが、思想や文化などあらゆる自由の源泉となり、彼らを常に解き放っている。
その自由さゆえに、裏社会の温床となり治安の低下を引き起こしている国家もあるのだが。
いずれにせよ、彼らは自由を掲げ誇りと希望を胸に、この広大な宇宙空間を漂っている。
少年たちはビデオを視聴し、知識を得る。
地球では当たり前となっていた教育も、この宇宙世界においては貴重なものだ。
彼らが学んでいるこの教室はジオ・アーキ型国家の中央教育院に設けられた、将来の行政官を育てる精鋭機関である。
彼らはビューロクラシーとも言える国家の体制の中での、特権階級の子孫でありすでに将来の国家を支えることを期待された者たちである。
さてそんな平和な一幕の足の下。
遠い宇宙空間では、一人の男が息を切らして前方を見つめていた。




