顔の傷
「結婚が決まったので、ちょっとだけ頑張ろうと魔獣狩りの
大物を狙ったんです。ところが相手が悪かった。
突然、上位種のキラーベアが現れてガサッとやられました。
そのまま崖下に落ちて、川じゃなかったら死んでいたな。
ポポロが俺を川から見つけて助けてくれたんです」
淡々と話すウェリーにため息をついてしまう。
「顔の怪我を治して貰うためには白金貨八枚と言われた。
貴族じゃないので無理だと答えたら、代わりに一角獣が欲しいと。
一角獣は一頭だいたい白金貨四枚なんだが、最近はなかなか手に入らないらしく
かなり高騰しているらしい。
だが、信頼関係を結んだ相手は普通手放せない」
ウェリーの拳に悲しみが籠っていた。
白金貨一枚が十金貨だから白金貨八枚は八百万?
ポポロを手放すのは苦渋の決断だったのだろう。
「結婚相手の実家が商売人なので顔がこれではいけないんだろう。
彼女の兄に傷を治そうと持ちかけられ、一角獣を寄進すればいいと……。
聖女様への紹介もしてくれて、もう断りきれない」
「ウェリーさん……」
「でも本当は手放したくない」
ポポロとユキが何か話している。
《アーヤにおまかせ するといい》
何のことかと訊ねると
《アーヤがきずをなおす ユキがメをナオス》
驚いた。上手くいくだろうか?
明日の朝、時間を欲しいとウェリーにお願いした。
部屋に帰り、上着を脱いで左腕を出す。
小さい頃の火傷の痕が肩から肘までまだ薄らと残っている。
その腕をタブレットで自撮りしてみる。
思っていたよりも薄くなっていた傷痕を必死に隠していた自分に失笑する。
タブレット上の傷痕を消しゴムで消して色を塗っていく。そして、
「ペースト」
《きれいに なった ね》そう言ったユキに私は飛びつく。
成功だ!
次の早朝、下階にあるウェリーの部屋を訪れる。
「突然で驚かれると思いますが……その……顔の傷を治してあげられると言ったらどうされます?治して欲しいですか?」
「もちろんだが……」
「絶対とは言い切れませんが治してあげたいと思うので、傷痕を見せて貰って良いですか?」
少し考えていた彼が兜を外し、背中にも傷があるといい革鎧シャツと脱いでいく。
私も躊躇したが、タブレットで顔と左の背中を写真に収める。
消しゴムで傷跡を消し、バランスをとってウェリーの顔を描いた。
治れと気持ちを込めて「ペースト!」
成功のようだ。
その後、ユキがウェリーを押し倒し、目を押さえ
《ナオレ!ナオレ!》と念じる。
《イマは ココまで かな》ユキが疲れた声を出した。
ウェリーは瞳を開け、薄らと光を感じられると言った。
ウェリーに鏡を見せると驚いて声が出なかった。固まってしまった。
ウェリーの叫び声が聞こえてきたのは私達が部屋を出た後のことだった。
読んで頂き有り難うございます。
感想等いただけると嬉しいです。
宜しくお願いします。
高評価もらえると嬉しいです。