小さな神様
兄に会った日から約一週間。
兄は相変わらず部屋に閉じこもっているようだけれど、食事は両親とともにしているらしい。
失われかけていた日々は、またこうして元に戻りつつあった。
かくいう私も実家にいた頃と同じように、窓に面した床に座って、足をベランダに伸ばしていた。
四日前。
私の目の前からモモが消えた。
また偉い神様に呼ばれているのだろう、なんて予想は宙を漂い、未だに帰ってくる素振りひとつ見せない。
どこかに隠れているかもしれないと思い部屋中を探したが、案の定いない。
ベランダに集まる鳩たちも、モモの行方を知らないようだった。
高天原に確認しに行くにしても私一人では叶わず、今日もこうして窓辺に座っている。
「勝手に現れて勝手にいなくなるなんて、本当にどうかしてる」
行き場のない感情は窓の外に放るしかない。
心配も寂しさも、出かける前の報告だって、神様には要らないのだろう。
「暇だなー」
やることのない平日の昼間。
私は一体、今までどうやって過ごしていたのだろう。
思い出そうとしても、この家では実質二人暮らしだった。
一人暮らしなんて、私は人生でたったの一度もしていない。
生意気でお喋りで、お菓子が大好きな子どものような神様が、私の隣にいてくれた。
どんなときだって一緒だった。
なんだか、心にぽっかりと穴が開いてしまったような感覚だった。
「ただいま〜」
それから一ヶ月ほど経ったある日。
ベランダにひらりと舞い降りた真っ白な鳥の上に、小さな女の子が乗っていた。
ロフトで寝そべっていた私は驚いて、危うく携帯を落としそうになった。
「ちょっと、どこ行ってたの!? 心配したんだから!」
私はロフトから下り、窓の鍵を開けた。
当の本人は何のことかさっぱり分からないとでも言うような顔をして、自分を運んでくれた鳥の頭を撫でていた。
「モモ!」
「少しロンドンに行っていただけじゃない」
「ちょっとそこまで、みたいに言わないでよ」
私は呆れてため息を吐き、鳥に食パンをあげた。
「せめて何か言ってからにしてよ」
「言ったわよ?」
モモは黒い髪を揺らしながら振り向き、下から私を見上げた。
「いつ?」
「夜中よ。行ってくるねって言ったら、片手を上げながらはーいって」
「......寝てるときに言うな!」
記憶がないことに妙に納得して、私は怒りながらも少しだけ楽しくなっていた。
これまでの日常が再び続くことに喜びを感じ、同時に残念にも思った。
なぜなら、また部屋の中が賑やかになるからだ。
「何か食べる?」
「カップラーメン!」
「本当に好きだね。健康に悪いよ」
「お母さんみたいなことを言わないでちょうだい。私はこの世の何よりもカップラーメンが好きなのよ!」




