第4話・商家の娘
初めて錬金術を試してみてから数日経った。
ランスロット兄様は、天命の儀を行った翌日から家庭教師をつけてもらい、日々スキルを磨いているようだ。
(僕はまだ家庭教師つけてもらえないから独学で勉強するしかないな。ま、とりあえず今日も図書室で錬金術の本を探してみるか。)
「『錬金術の基礎』は全部読んだけど、薬と鉱物から作るアクセサリーの錬成の仕方しか載ってなかったもんなぁ。もっといろんなものが作りたい」
独り言を呟きながら図書室に入る。
前世では、日用品や服、化粧品や雑貨、インテリアを取り扱う会社の企画課で働いていた。パッケージを考え、季節商品を企画し、消費者の声を参考に改良を重ねる。
製作者と意見を交わし、時には意見の食い違いもあるが、消費者に良いものを届けたいという思いが商品の良さに繋がる。その商品を手に取り誰かが喜んでくれる。それがなにより好きだった。
(だからこそ、この世界でも皆んなに喜んでもらえるものを作りたい)
前世の思い出にひたっていると、図書室の掃除に来たメイドが声をかけてきた。
「アルフレイル様?こんなところでどうしたのですか?」
「あぁ、ティナ。お掃除ご苦労さま。」
「ありがとうございます。図書室で遊んでいるとまた奥様に怒られますよ?」
「はは。そうだったね。ちょっと、探し物があるんだけど…」
「どういったものでしょうか?」
ティナは、おもちゃでも探すのかと思っているだろうが、僕が欲しいのは本だった。
「錬金術の基礎っていう本の他には、錬金術を学ぶものはないのかな?」
「アルフレイル様は文字が読めるのですね!…そうですね。私がここの本を整理したのですが、錬金術についての本はこれだけですね。」
(ここの丁寧な仕事をしたのはティナだったか。それに文字が読めるんだな。)
「ティナこそ、文字が読めない人もいるって聞いたけど読めるんだね。」
「はい、わたしの家は元々小さな商家でしたので、読み書きや算術は学ぶ機会がありました。」
「そうなんだ。家が商家なら、跡は継がないの?」
「それが…私の家は隣の領にあったのですが、ある日、領主様の息子にアースドラゴンの牙を売って欲しいと依頼がありました。借金までして冒険者に依頼を出したのですが…本来ならば、依頼達成後に報酬を出すところ、依頼を唯一受けてくれたパーティから、軍資金として金貨10枚を前払いして欲しいと言われまして…仕方なく支払いました。」
(金貨1枚が前世の100万円…軍資金を前払いで欲しいなんて、この世界の冒険者はよくあることなのか?)そう思ったが、最後まで話を聞いた。
「冒険者ギルドに依頼料として支払った分、パーティに支払った分は、アースドラゴンの牙を売ることができていれば借金も返せたのです。しかし、アースドラゴンの牙は偽物呼ばわりされ売り物にならないと言われ、借金が返せないどころか、悪徳商人だとレッテルをはられてしまい、その後の商売もままならず領から追い出される形でにげてきたのです」
(商人は信用が命!とはよくいったものだな)
「借金はどうなったの??」
「はい、今は両親と私が働いて少しずつ返しております。」
「そうだったんだ。大変だったね。」
「いえ、でも今はこのお屋敷でメイドとして働けて嬉しいですし、毎日楽しいです!」
「ティナの家庭の状況わかった上でこんなこというのは失礼かもしれないけれど、ティナがここにいてくれて、僕も嬉しいよ。この図書室も見事に整理されていて、とても探しやすいし、丁寧な仕事をしてくれてありがとう。」
ティナの顔が赤くなり、目がうるんできたのがわかった。
(錬金術の本が無かったのは残念だったが、ティナとお話できて良かった。)
「アルフレイル様にそう言っていただけて嬉しいです!ところで、錬金術についてなら、執事のセバスチャン様なら何かご存知かもしれませんよ」
「そっか。ありがとう!聞いてみるね」
そう言って、掃除の邪魔をしてしまったことを謝ってから図書室を出た。
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