第2話 天命の儀
目が覚めたら、前世とは違う大きな部屋のベッドだった。部屋でメイドが掃除をしているのを横目で見ていたら、ふと目があった。
「!!アルフレイル様!良かった!目が覚めたんですね!!」
すぐさまベッドに駆け寄り、僕の顔を覗き込んだ。
「おはようございます。」そう言って身体を起こすと、いつもとは違う手の大きさに驚いた。
(子どもの姿で転生したのか…。性別は…よし!男だな!)
女の子に転生していたらなにかと気まずいなぁと思っていた。
「あのぅ…大丈夫ですか?」
「あっ、ごめんね。あなたは…えっと…」
「アルフレイル様付きのメイドのマリアです!たくさん眠ってらっしゃったので忘れちゃったんですか?」
「すみません。あの、いろいろとお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「はい。…というか、アルフレイル様、3歳になったばかりというのにそんななしっかりお話になさるなんて…」
「ちょっと記憶があやふやで色々教えて欲しいんだけど、ここはなんていうところだっけ?」
(とりあえず情報が欲しい。3歳までの記憶は…覚えている。…確かに3歳まで生きた記憶がある…でも、基本的な知識が足りない。)
その後、マリアにこの世界のことやこの国のことを聞いてみた。
どうやら、前世とは違う世界の貴族の家の子どもに転生したようだ。図書室のハシゴで足を滑られて落ちてから1週間も目が覚めなかった僕のことを、家族も他のメイドの皆さんも心配してくれていたらしい。マリアは、僕の家族に目が覚めたことを報告しにいくついでに、スープを持ってくると言って部屋を出て行った。
ベッドから降りて窓の外を眺めた。
「本当に違う世界なんだ。」
見慣れない景色。不安と期待で胸がいっぱいになった。
「これからどんな人生が始まるんだろ。…あー。でもなぁ。こんなことならダメ元でオーナーに告白しとけばよかったな。」
後悔は他にもあるが、気持ちを伝えていればどうなっていたかくらいは知りたかった。
(転生…か。あの女神は『転生スキル』と言っていた。この人生で死んでしまっても転生するという。でもまた次も人間に転生できるのか?性別は男のままなのか?何をしろとも言われてないが、このまま普通に生活していればいいのか?)
「あーー…考えても答えは出ないんだけどね!」
そう独り叫んだところで部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「アル?」
ゆっくりドアが開けられた。そこに立っていたのはキレイなドレスを着た女の人と、ちょっとクセのある髪の小さな男の子だった。
「アル…アルフレイル!良かった…目が覚めて!とても心配したのよ…」
「アルー!!もう大丈夫なのか?どこか痛いところはないか?!」
2人が一度に話し始める。
「え…っと…?」
2人の後に続いて部屋に入って来たマリアが、僕の戸惑っている表情に気付いて説明してくれた。
「奥様、ランスロット様、先ほど目を覚まされたばかりなので少し記憶が混乱されているようなのです。」
「そうなのね!アル、私はあなたのママよ。そしてこの子があなたの2つ歳上の兄で名前はランスロット。」
「アル!僕のこと忘れちゃったの?」
先ほどのマリアと同じ顔をしている。
「心配かけてごめんなさい。もう大丈夫なので安心してください。」
そういって2人に笑いかけると安心してくれたようで、「もう少し休むように」と部屋を出ていった。
マリアからスープを受け取っていただくことにした。
スプーンですくって飲んでみると、なんとも言えない薄味のオニオンスープだった。
「明日の朝、体調がよろしいようでしたらご家族の皆様と朝食をご一緒なさいますか?」
「うん!そうするよ。ありがとう。朝にまた来てくれると嬉しいな。」
(3歳までの記憶があるにしても、お父様とお母様に会うのは気恥ずかしいような、緊張するような…マリアが一緒にいてくれたらまだ安心できる気がする)
「かしこまりました!いつものようにお着替えもお手伝いさせていただきますので。…本当に、アルフレイル様がお目覚めになられて、良かったです!」
そういって微笑んでくれた。
翌日、マリアがカーテンを開けると眩しさで目が覚めた。
「おはよう、マリア」
「おはようございます!アルフレイル様。よく眠れましたか?」
「眠れたよ。ありがとう。マリアもよく眠れた?」
「はい!アルフレイル様がお目覚めになられて、とても安心して眠れました」
マリアは機嫌が良さそうに着替えを手伝ってくれた。準備が整い部屋を出た。朝食を食べるため階段を降りる。領主というだけあって家は大きく、部屋からダイニングルームへ向かう廊下や階段は5人横に並んでも余裕がある幅だけど、メイドもたくさんいるので掃除は行き届いている。
ミラルディア家の朝食は家族全員揃ってからと決まっている。ミラルディア家には、領主であるお父様、お母様、お兄様、僕、そして妹がいる。前世でひとりっ子だったので、兄妹がいるのは新鮮だ。
「アル、体調は良いのか?昨日は視察に出ていたから帰りが遅くなって様子を見に行けず申し訳ない。」
「お父様、ご心配をおかけしました。もう大丈夫です。」
「そうか。安心したぞ。ところで、ランス、今日は『天命の儀』だな。民の期待も大きいが落ち着いてしっかり受けてくるのだぞ」
「はい。父上。領主の跡継ぎにふさわしいスキルや加護が承れるよう祈っております」
どこか緊張した面持ちで手を胸に当ててそう答えたのは、ランスロット・ミラルディア、5歳。僕の兄である。2つ上のランスロット兄様は今日で5歳になり、教会で『天命の儀』を受ける。そこではスキルを得られたり、神の加護が与えられ、今後どんな人生を歩むのかがおおよそ決まるのだ。どんな仕組みかは、わからない。ただ、その儀式にはお金がかかるため貴族や商家の子どもなどある程度裕福な家の子どもでないと受けることができない。だから、スキルや加護持ちはこの世界で全ての人が持っているわけではない。しかし、『天命の儀』を受けなくてもスキルや加護を持っている者も稀にいるそうだ。マリアからの情報である。
僕は既にスキルや加護を持っているが、まだ誰も知らない。
「それでは、いって参ります。」
「しっかりな」
「ランスロット兄様、頑張ってください」
教会にはミラルディア家全員で赴いた。儀式の間、別室で待たせてもらうことになっている。
1時間後、ランスロット兄様が神官に案内されて戻ってきた。表情を見る限り、加護もスキルももらえたらしい。
「ランス、どうだった?」
お母様が笑顔で迎えるも、少し心配そうにも見える。
「緊張しましたが、見てください!ステータス・オープン」
とランスロット兄様が言うと、ステータスプレートが表示された。
「ランスロット・ミラルディア 5歳
称号 騎士見習い
レベル3
HP35
MP12
魔力15
運15
スキル
剣術Lv.1
盾術Lv.1
加護
統治の加護Lv.1」
お父様が読み上げ、お母様と僕は目で追う。お兄様は腰に手を当てて、満足げな顔をしている。
「すごいじゃないか!スキルが2つも!それに加護だってもらえたのか!」
「加護は皆んながもらえるわけではないのだから、すごいわ!さすがミラルディア家の跡取りね!」
両親とも子供のように大はしゃぎである。今日のバースデーパーティはさぞかし豪勢な料理になるだろうな。
「ランスロット兄様、おめでとうございます!僕もとても嬉しく思います」
「あぁ、アル、ありがとう!アルも2年後が楽しみだな!」
兄弟で笑い合った。
街で買い物してから帰宅すると、バースデーパーティの準備がだいたい終わっていた。使用人たちも、とても楽しそうだ。ミラルディア家は使用人達にとても慕われているのが感じられた。
そして、その夜は招待客を招いて盛大なバースデーパーティが行われた。
パーティが終わり、皆んなが寝静まった頃。
(そういえば、僕のステータスはどうなってるんだろう)と、ランスロット兄様の儀式が終わった後から気になっていた。
周りに誰もいないことを確認し、小さく唱える。
「ステータス」
次の瞬間
「はぁ?…」
そこに表示された数値を見て、なんとも間抜けな声がでてしまった。
♢♢♢




