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俺の転生×転性ライフ  作者: 卯村ウト
第4章 シャルゼリーナ編
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44 シャルの馴れ初め①



 …………は?


 なんか今、シャルがとんでもないことを言っていたような……。

 しかし、俺の頭はその言葉を理解するのを拒んでいる。



「いま、なんて?」


「だから、わたし、結婚するの!」


「「「……ええええええ⁉」」」



 ようやくその言葉を理解した俺は、ルーナとバルトと一緒に叫んだ。


 シャルはふふん、と頬を赤くしながら胸を張る。



 まさか、シャルが結婚するなんて……。


 突然の発表に、俺の頭の中に次々と疑問が湧く。あまりにも聞きたいことが多すぎて、どこから聞けばよいのかわからず、逆に言葉が出てこない。



「そうか……結婚、するのか……」


「あのシャルが結婚なんて……」



 ルーナとバルトは驚きつつも、感慨深そうな表情をする。



「……なんか馬鹿にされている気がするんだけど」


「そんなことないぞ。ただ、予想外なだけだ……。恋愛には全然興味が無さそうだったから、そろそろ見合いでも、と思っていたのだが……」


「まさか、剣ばっかり振り回している『あの』シャルが結婚だなんて……」


「二人とも、わたしのこと何だと思ってたのー⁉︎」



 ギャーギャー騒ぐシャル。二人にとっても、シャルの結婚は予想外だったようだ。


 ここで、ようやく俺の口から言葉が出る。



「……そもそも、シャルにこいびとがいたなんて、しらなかった」


「そうだな。そんな話も聞いたことが無かったぞ」


「あら、私は薄々いるんじゃないかしら、と思っていたのだけれど」



 ルーナは勘づいていたようだ。これが『女の勘』というやつなのか……?


 というか、恋人ができたら、普通家族に言うもんじゃないの?


 前世であればまだしも、この世界で俺たち一家は貴族。結婚することで、貴族間の力関係やら利権やら大きく変わるだろう。


 つまり、シャルの結婚は、相手によっては認められないことがあるんじゃないか?


 すると、ちょうどバルトが真剣な顔でそれを指摘した。



「シャル……あまりこのようなことは言いたくないのだが、我が家は伯爵家。結婚する相手にも、それなりの地位が求められる」


「それはわかってるよ」


「……では、相手は誰なんだ?」


「えーっとね……」



 すると、シャルは少し考えるそぶりを見せる。どうやら言うのを躊躇っている、というよりかは、忘れているものを思い出しているような感じだ。



「ハルク……ハルク・ヴァン・フロイエンベルク……だったかな?」


「なんでじしんなさげなの?」


「いつもハルって呼んでいたから……でも合ってると思うよ!」



 恋人のフルネームくらい、ちゃんと覚えろよ……。


 一方、バルトとルーナはビックリした表情を浮かべていた。



「ヴァン・フロイエンベルク……って、ヴァン・フロイエンベルク伯爵家のことよね? 今、テクラス州の知事をやってる」


「ああ、そうだな。ハルクは現当主ギルベルトの長男だ」



 そんな人を捕まえていたのかよ!


 ウチの当主のバルトはラドゥルフ州の長官だから、立場は同じくらいだ。

 どうやら、俺やバルトの心配は杞憂だったようだ。



「だから、大丈夫だよね?」


「……ああ。申し分ない。というか、よくそんな立派な相手を捕まえたな……」


「そうでしょ〜! わたしは本気を出せばできる女なのです」



 偶然そうなっただけだと思うけどなぁ。シャルのことだし。

 いったいどういう経緯で、結婚することになったんだろう?



「なんで、シャルはハルク? というひととけっこんすることになったの?」


「え? そりゃ、プロポーズされたからだよ……」


「フォルが聞きたいのはその前だと思うわ。出会うきっかけとか、付き合うきっかけは何だったの?」


「ふふーん、聞きたい?」


「もちろん」


「じゃあ教えてあげよう」



 そう言って、シャルは得意げに語り始めた。



「始まりは今から四年くらい前、ラドゥルフの学校に通っていたとき──」






 ※






 ラドゥルフの中央部には、フローズウェイ家のような、ラドゥルフの役所などに勤める貴族や、その家族が住む住居が並ぶ閑静な高級住宅地がある。その一角には、そんな貴族の子弟が通う学校があった。



 四年前。シャルゼリーナ・エル・フローズウェイ、十六歳は、最高学年の十年生として、その学校に通っていた。



「えー、それでは交換留学生を紹介する」



 ある朝、シャルたちの担任教師は、交換留学生が来たことを知らせる。


 この学校には、国内交換留学という制度がある。

 その名の通り、国内にある提携先の学校と、期間限定で生徒を交換するというものだ。


 シャルたちは、事前に担任教師から、交換留学生が来ることを知らされていた。それはもちろん、このクラスにその留学生が編入してくるからだった。


 しかし、シャルたちはまだ詳細を知らされていなかった。明かされているのは、テクラスから来る十年生の男子、ということのみ。



「それじゃ、中に入りたまえ」


「うす」



 教師が開いたドアの外にそう呼びかけると、すぐに一人の男子生徒が入ってきた。


 その姿を見た途端、教室の女子の大半が一斉に騒ぎ始める。


 ちょっと撥ね気味の黒髪、精悍な顔つき。いわゆるイケメンだ。


 彼は少々ガサツな感じで教師の横へ歩いていくと、自己紹介を始めた。



「ハルク・ヴァン・フロイエンベルクだ。テクラス州から来た。今日からよろしく」



 教室の騒めきが大きくなったので、教師がパンパンと手を慣らす。



「静かに! 彼は約一ヶ月、この教室で学ぶことになる。皆仲良くするように」


「「「「「はーい」」」」」


「それでは、席に着くように。君の席は、あそこだ」


「うす」



 ハルクは、シャルの隣の席に座る。だから今朝、机と椅子が一つずつ余計にあったのか、とシャルは納得した。



「一限の剣術の授業に遅れないよう、気をつけたまえ。それでは、一旦解散」



 教師がそう締めくくって教室から出た瞬間、ハルクのもとにクラス中の生徒が集まってきた。


 早速、一人の女子生徒が話しかける。



「ねーねー、ハルク君って、テクラス州のどこから来たの?」


「州都のテクラス」


「お父さまは何をしていらしているの?」


「今は州知事をやっているな」


「おお、すごい!」


「ということは、お家は伯爵家か子爵家かな?」


「伯爵家だ」


「ホントにー!?」


「スゲーな……」


「ということは次期当主様ってこと?」


「そうだな。俺は長男だから、順当に行けば、の話だがな」


「「「「おおー!」」」」


「ねーねー、テクラスのこと教えてよ」


「そうだな。本でしか読んだことがないな」


「あっちってすごく暑いんでしょー?」



 などなど、ごちゃごちゃした会話が繰り広げられる。


 一方、そのころシャルは、話の輪には加わることはなく、更衣室へと向かっていた。


 彼女にとって、剣術の授業は学校で一番楽しみにしている時間だ。


 転校生にかまける暇があったら、一秒でも長く剣術で体を動かしていたい。シャルはそんな思考のもと、行動していた。






 ※






 一限の開始を告げるチャイムが鳴ったとき、クラスの全員は、広いグラウンドの片隅に集まっていた。


 それぞれの手には木剣。



「よし、これから剣術の授業を始める!」



 筋骨隆々の、軍隊上がりの壮年の男性教師が声を張り上げると、生徒たちは一瞬で静まる。



「前回の授業と同様、今回も模擬戦だ。ルールも前回と同じだが、一応説明する。

 一対一で、武器は木剣のみ使用。それ以外の手段による攻撃は認められない。

 勝利条件は、相手が降参を認めるか、相手の体の、授業で教えた弱点部位に剣が入ることだ。ただし、必ず寸止めにすること。

 それぞれの組の間は広めにとれ。怪我をしたらすぐに俺を呼べ。

 以上だ。何か質問は?」



 誰も手を挙げないのを確認して、教師は言葉を続ける。



「では、模擬戦を開始しろ。これまでに習ったことを、きちんと復習するんだぞ」



 生徒たちは立ち上がると、当然と言わんばかりにハルクに殺到する。



「なあなあ、俺と組まねえか? 剣には少し自信があるんだ」


「僕も組みたいんだけど」


「我とやらないか……?」


「待て待てお前ら! ひとまず前回組んだペアでやれ。あとでローテーションを行うから」


「うっ……わかりました、先生」


「じゃあ、ハルク君は誰と組むことになるんですか?」


「…………」



 皆の視線を受けているハルクは、木剣を持ったまま突っ立っていた。



「ハルクはシャルゼリーナと組め」


「……うす」


「え」



 ぼーっとしていたシャルははっと我に返る。


 このとき、シャルは、すでにバルトからフローズウェイ流剣術の免許皆伝を持っていた。当然、剣術の腕は同級生の中では群を抜いているので、クラスメイトでは誰も相手ができず、いつもは教師に相手をしてもらっていた。



「たまには他の者とやれ」


「わ、わかりました……」


「くれぐれもやりすぎるなよ」


「はい」


「うす」



 二人は返事をして、お互いに距離をとった。


 彼に私の相手が務まるだろうか、と、剣を握るとついつい力んでしまうシャルは心配に思った、が。



「それでは、始め!」



 バン!



「はっ……」



 速いっ!


 一瞬で間合いを詰められ、シャルは彼が普通の剣の才ではないことを悟る。


 間違いなく、彼はかなりの手練だ。

 油断していてリアクションが一瞬遅れたものの、シャルはなんとか彼の木剣を防ぎ、後退する。



「ほう、やるな」



 同じく後退しながら、ハルクは言う。



「だが次はない。五秒で決着をつけてやる。本気を出せ」



 その瞬間、シャルの剣士の炎が大きく燃え上がった。闘争本能を掻き立てられる。口をかすかに笑みの形にした。


 久しぶりに、ライバルが現れた。しかも、こちらが手加減していることを見抜き、その上で五秒で決着をつけるという、自信満々の宣告まで。


 ああ、これを求めていたんだ、とシャルは心の中で叫びをあげる。

 足の武者震いが止まらない。興奮が血に乗って全身に回っていく。



 いいだろう、やってやるよ。お望み通り、五秒以内に決着をつけてやる。



 ハルクは身体強化魔法を使っている。授業の模擬戦にしては、完全にオーバーである。それくらい本気なのだ。


 ならば、こちらもそれに応えよう。

 シャルは、本気の時にしか使わない、身体強化魔法を発動した。



 再びハルクが突進してくる。本当に並外れたスピードだ。



「ただ、こちらが(・・・・)瞬殺するけどね」



 そう呟いた直後、ハルクとシャルの木剣が交わった。


 一度目。


 木剣が激しくぶつかり合う。

 シャルは木剣がうまく側面へ流れるように、力の向きを調節した。


 シャルの予想通り、ハルクの木剣はゆっくりと逸れていく。それをシャルは身をねじって避ける。


 だが、ハルクだって負けていない。

 神がかった体重移動と反射で、強引に木剣を引き戻す。


 そして、二撃目。


 一度目と同じように、激しく二つの木剣がぶつかり合う。

 だが、ハルクは少しバランスを崩していたため、体勢が若干不安定になっていた。それゆえ、さっきよりも容易くシャルにいなされる。


 三度四度、五度と応酬は続き、ハルクの体勢はどんどんと崩れていった。

 そして、遂に迎えた六度目。


 シャルの勢いよく振り抜かれた木剣が、ハルクの木剣に当たった。

 そのエネルギーは、ハルクの手首から木剣を手放させるには十分なものだった。


 くるくると宙に舞い、数秒の後に、校庭に転がる木剣。

 そして、ハルクの首筋にぴたりと添えられているのは彼女の木剣。



「…………」


「…………」


「……降参だ」



 ハルクは、悔しそうにそう言った。






 ※






 その後も、剣術の授業でハルクと模擬戦をする機会は何度かあったが、シャルの全勝だった。


 ハルクが弱いわけではない。クラスの中で、いや学年の中でも、ハルクは剣術の腕はトップレベルだった。


 ただ、シャルが規格外なのだ。言うなれば、『剣術の化け物』。彼女は齢十六にして、フローズウェイ流剣術の免許皆伝を持っているのだから。


 ハルクは授業のたびに、シャルに何度も模擬戦を挑み、惨敗しながら、しかし確実に成長しながらハルクは剣を握り続けていた。


 悪かったところをどんどん修正したことで、ハルクの動きは確実によくなっていた。しかし、それでもなお、シャルには及ばなかった。


 そして一ヶ月が経ち、皆に惜しまれつつも、ハルクはテクラスへと戻っていった。その年に、シャルは学校を卒業したのだった。



 その三年後。今から約一年前。


 フォルに剣の稽古をつける毎日を過ごしていたシャルに、ある日母校から手紙が届いた。



「いったい何の用なんだろう……?」



 シャルはポツリとそう呟きながら、久しぶりに学校の土を踏みしめた。

 手紙には、話があるので学校に来るように、と書かれていた。


 今日は休日だったので、学校は閑散としていた。


 シャルは、無人の廊下を進み、差出人である学校長の部屋へ真っ直ぐに向かう。

 ドアをノックし、失礼します、と中に入る。


 校長は椅子に座って、シャルを正面から出迎えた。



「久しぶりだな、シャルゼリーナ君」


「お久しぶりです。本日は何の用件でしょうか?」


「まあ、そう慌てるな。最近忙しいか?」


「……いえ。やることがないので、今は姪に剣の稽古をつけています」


「そうかそうか。君は、剣術が得意だったな」


「はい。フローズウェイ流剣術の免許皆伝を持っています」


「実は、その腕を見込んで、今日君を呼び出したのだ」


「……どういうことですか?」


「端的に言おう」



 校長はシャルの目を見据えて問う。



「テクラスで、剣術の指導者をやってみないか?」



 2024/02/20 更新

 2024/02/26 更新

 2024/04/02 更新

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