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俺の転生×転性ライフ  作者: 卯村ウト
第3章 ラドゥルフ編
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43 番外編① 二重発動の練習

 27と28の間の話です。



 シャルから剣術を習い始めて数日。毎日の体作りでへとへとになりながらも、俺は魔法の練習を怠ることなく続けていた。



「ねえママ」


「どうしたの、フォル?」


「まほうをどうじにつかうことって、できるの?」



 その最中、ふと気になったことがあったので、俺は傍で見守ってくれているルーナに疑問をぶつけた。



「複合魔法なら、もう使えるじゃない」


「ううん、そういうことじゃなくて」



 複合魔法は、異なる二つの系統の魔法の効果を、一つにまとめて発動する魔法のことだ。例えば、熱風を吹かせる中級魔法『ウォームウィンド』は、火系統初級魔法の『ウォーム』と、風系統初級魔法『ウィンド』という二つの魔法の効果をまとめている複合魔法である。


 だが、俺が言いたいのはそれではない。



「えーっと……、べつべつのまほうを、それぞれで、おなじタイミングではつどうするってこと」


「ああ、多重発動(マルチキャスト)のことね」


「まるちきゃすと?」


「ええ。二つ以上の魔法をそれぞれで同時に発動することをそう呼ぶのよ」



 先ほどの例でいうなら、『ウォーム』と『ウィンド』を『ウォームウィンド』としてではなく、別々に同じタイミングで発動するような感じだ。



「確か『魔法の使い方(上級編)』に載っていなかったかしら?」



 そう言われて、俺はベンチに置いておいた『上級編』を手に取って、後ろの索引を開く。


 マルチキャスト……マルチキャスト……あった。


 本には書かれていないと思っていたけど、ちゃんと載っていたんだな。一応、全てのページには目を通したつもりだったが……。どうやら項目数が多くて、覚えきれていないようだ。


 俺は索引で示されているページを開いて、内容に目を通す。



「載ってた?」


「うん」



 俺は本を閉じてベンチの上に置くと、ルーナのところへ向かう。



「マルチキャスト、やってみたい」



 本に載っていたということは、実現できる、ということだ。もし魔法を二つ同時に行使できれば、できることが大幅に増えるし、魔力切れを簡単に起こせるだろう。


 しかし、それに対してルーナは少し難しい顔をする。



「フォル、多重発動は少し難しいわよ」


「そうなの?」


「ええ。なにせ、別々の魔法を同時に使うのよ。かなり練習しないと」


「ママはできるの?」


「昔はできたけど、今はちょっと怪しいわね……。やってみるわ」



 ルーナはふぅと息を吐くと、両方の手のひらを地面と平行にする。

 そしてムズムズと眉間に皺を寄せて、しばらくそのままの姿勢を保つ。


 すると、ルーナの左の手のひらから赤い光、右の手のひらから青い光が、ぼんやりと浮かんだ。


 次の瞬間、左手からは炎、右手からは水が噴出した。火系統初級魔法の『ファイヤー』と、水系統初級魔法の『ウォーター』だ。



「ふぅ……よかった、まだできたわ」


「ママすごい!」



 ルーナはホッとしたように息を吐いた。



「わたしもできるかな?」


「フォルなら、練習すればきっとできるわ」


「うん!」



 というわけで、俺はその日から、二重発動(ダブルキャスト)の練習を始めたのだった。






 ※





 練習開始から一ヶ月。


 庭で魔法の練習をしている俺は、腕を地面とまっすぐにして、手のひらを突き出して、二重発動を試みていた。


 発動する魔法は、左手が『ファイヤー』、右手が『ウォーター』。一月前にルーナが俺の目の前で実践してみたのと同じ組み合わせだ。


 この二つは火系統と水系統の初級魔法で、俺にとって最も発動しやすい魔法の一つだ。これなら、他の魔法で二重発動を行うよりも成功しやすいと思ったのだが。



「うぬぬ…………!」



 俺は眉間に皺を作りながら、魔法を使おうとする。すると、左手からは赤い光、右手からは青い光がぼんやりと出てきた。



「頑張って!」



 しかし、それまでだった。赤青の光は一瞬にして消え去り、せっかく手に集めていた魔力が霧散していく。



「はぁ……」


「あと少しね、フォル」


「うん……」



 何度も練習した結果、俺は二重発動の成功まで、あと一歩のところまでやってきていた。


 一番難しいのは、発動する二つの魔法のイメージを、明確に、同時に、別々に浮かべるというところだ。


 例えるなら、両方の手にペンを持って、右手と左手で別々の文章を同時に書いていく感じ。

 できるとは思うけど、相当練習しないとできない。そんなレベルだ。


 もうちょっとなんだけどなぁ……。



「ママ、なにかいいほうほうはない?」


「そうね……」



 ルーナは少し考える。



「片方ずつ交互に魔法を発動するのを、だんだん速くしてみるのはどうかしら?」


「……やってみる」



 俺はまず、右手から『ウォーター』を発動する。そして、すぐに左手から『ファイヤー』を発動。その次に、なるべく素早く右手から『ウォーター』を再度発動する。


 それを繰り返していく。初めの方は、誰が見てもはっきりわかるくらい交互に発動していたが、時間が経つと、だんだん間隔が短くなっていくのがわかった。



「その調子よ」


「うん」



 この日は、完全に同時に発動することはできなかったが、かなり間隔を詰めることができた。






 ※






 さらに一月が経過した。


 この頃になると、俺はほぼ同時に二つの魔法を交互に発動できるようになった。


 早速、ルーナの前で実践してみる。



「じゃあ、やるね」


「ええ」



 そして、俺は集中すると、それぞれの手のひらから交互に水と炎を出す。赤と青の魔力の残滓が、高速で点滅し、もはや同時に光っているのではないか、とさえ思えてくる。


 一通り魔法を出し終えると、俺はルーナの方を見る。



「もう、ほとんど同時に出しているようにしか見えないわ」


「うん」


「もう二重発動もできるんじゃないかしら」


「やってみる」



 彼女の言葉を受けて、俺は集中力を高める。


 これまでの練習で、別々の魔法のイメージをほぼ同時に切り替えることができるようになった。これを極限まで加速して、同時発動を実現する──



 チカチカと頭の中で明滅するイメージ。その切り替えをどんどん速くして、二つが同時に見えるようになった──よし、今だ!



 その瞬間、俺の左手からは炎、右手からは水が、同時に噴出した。



 成功……したのか⁉︎ 俺は確認のため、バッとルーナの方を向く。


 すると彼女は大きく頷いた。



「二重発動、できてたわよ」


「やったー!」



 その瞬間、喜びがとめどなく湧き上がり、俺は思わずガッツポーズをしてしまう。


 やっとできた……! ここまで、めちゃくちゃ長い道のりだった……!


 しかし、今はまだ、『ファイヤー』と『ウォーター』の組み合わせでできたにすぎない。これを、いろんな魔法の組み合わせでできるようにしたい。


 それに、二重までとは言わず、三重、四重と数も増やしていきたい。


 魔法を極めるには、まだまだ先が長そうだ。



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