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俺の転生×転性ライフ  作者: 卯村ウト
第3章 ラドゥルフ編
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42 思わぬ報告



 乾いた風がビュウと吹き、俺の服と髪を揺らす。


 目の前に広がるのは、広大な野原。見渡す限り、ほとんど建物は見当たらない。


 それを前にして、俺はふぅと一息ついた。 



「じゃあ、はじめるね」


「ええ」



 俺の隣で、ルーナが頷く。


 精霊と契約してから約八ヶ月。ルーナはかつて口にした通り、あの後すぐにバルトと話し合って、新しい魔法の練習場所を用意してくれた。ラドゥルフの街を西に出て、少し進んだところにある野原、つまり俺が今いるこの場所だ。それからは、ここで魔法の練習をするようになった。


 庭で練習していた頃より、練習場所までの距離が遠くなったということと、ルーナの仕事が忙しいということもあって、頻度は二、三日に一度になってしまった。しかし、その分大きな魔法を練習できるので、今のところ特に不満はない。


 最近の主な練習メニューは、精霊たちを使った魔法の多重発動(マルチキャスト)。今日行うのもそれだ。



 俺は自分の体の中の、六つの存在に問いかける。

 皆、準備はいい?



『おっけー‼︎』


『勿論です』


『いいっスよー』


『いいよ〜〜』


『妾の出番じゃ!』


『やりましゅよぉ!』



 ポンポンと、勢いよく六つの光の玉が俺の体から飛び出す。

 そして、精霊たちは俺の体の周りをグルグルと回ると、俺の目の前に一列に並んだ。



「『フロート』」



 まずは一つだけ魔法を発動する単発動(シングルキャスト)。浮遊魔法で体を浮かせる。


 そして、次に全身に魔力を行き渡らせる、身体強化魔法を発動。これで、二つの異なる魔法が同時に発動している状態、すなわち二重発動(ダブルキャスト)となる。


 よし、それじゃあ精霊の皆、やっちゃって!


 俺がそう念じた次の瞬間、精霊たちは一斉に野原に向かって、それぞれ魔法を発動する。



『思いっきりいっちゃうよー!』



 ルビは勢いよく火の玉を連射する。放たれた火球は放物線を描いて上昇した後落下し、地面に着弾するとボワァッと地面の草を燃やす。



『危ないので消火します』



 イアは火の玉が着弾して、燃えているところに水を噴射する。そのおかげで、すぐに火は消し止められていた。



『旋風を起こしちゃうっスよ〜!』



 エルは風を発生させる。最初は小さい風だったが、徐々に強くなるとともに風向き一点に集まり、あれよあれよと大きめのつむじ風が誕生した。



『かべをつくっちゃうよ〜〜』



 リンは地面から大きな岩の壁を生やした。風の流れを妨害して、つむじ風があまり大きくならないようにしている。



『わはは! やはり妾の光こそ最強ぞ!』



 レナは野原の上空に光球をポンポンと打ち出している。光球はある程度の高さまで上がると、弾けながら色を変えて消えていく。その姿はまるで花火のようだった。



『あぁぁ……皆、やりしゅぎなんでりゅよぅ……』



 シンは、他の精霊たちが破壊していった自然を回復魔法で蘇らせていく。さすがに変化した地形までは直せないが、焼けこげた草花が一瞬で再生したり、岩壁に植物が生えたりしている。


 六体の上位精霊がそれぞれ独立に六つの魔法を使っている。つまり、俺は合計すると八個の魔法を同時に発動する、八重発動(オクタプルキャスト)を実現していたのだ。



「いつ見ても、凄いわね……」



 ルーナが感嘆した声を上げる。


 俺もまさか、ここまでできるようになるとは思わなかったよ……。


 しかし、この八重発動には問題がある。


 魔力消費がえげつないのだ。


 これまでの練習から、どうやら精霊たちが魔法を発動すると、俺がその魔法を直接発動するよりも魔力消費量が少なく済む、ということがわかった。


 だが、いくら少ない魔力消費量で済むといえども、六体が同時に魔法を使っていたら、流石に魔力消費量はデカくなる。現に、俺の魔力量はゴリゴリと削られていた。


 今の俺の魔力量では、せいぜい三十秒が限界だ。



 そろそろ限界かな……。なんだか頭が痛くなってきた……。


 ズキズキとしてきたところで、俺は自分にかけた浮遊魔法と身体強化魔法を解除する。そして、精霊たちに呼びかけた。



 皆、魔法を撃つのをやめて、戻ってきて!



『はーい!』


『お疲れ様でした』


『うぃ〜っス』


『今日もいっぱい魔法使った〜〜』


『妾が一番目立ってたじゃろ!』


『はぁ……皆破壊しすぎでしゅよ……』



 口々にそう言いながら、精霊たちは俺の体の中にスポスポと戻っていく。

 そして、地面に着地した俺は、思わず膝と手をついた。



「大丈夫、フォル……?」


「ちょっと……まりょくぎれ……」



 今回はかなりギリギリまで攻めたから、だいぶ気分が悪い。



「少し休みましょうか」



 俺はその場に寝っ転がって、呼吸を整えつつ、空を見上げた。


 ちなみに、俺が魔力切れになったとしても、精霊たちはある程度の時間内なら、自分を維持することができるらしい。いざとなったら、外部から魔力を吸収するのだそうだ。



 そういえば、俺の魔力量って、今のでどれくらい増えたんだろう?



『魔力量は、『ウォーター』の最低消費量が十っていう基準だったっスよね?』



 その通り。



『そうっスね……。さっきウチらが魔法を使う前と比べると、だいたい十くらい増えてるっスね』



 嘘だろ⁉ 十も増えてるの⁉ たった一回の魔力切れだけで⁉


 精霊と契約する以前は一回魔力切れを起こしても、多くて三くらいしか増えなかったのに……それが一気に十って……。


 きっと、精霊たちが何らかの形で原因に絡んでいるのだろう。



「ふぅ……」


「大丈夫、フォル?」


「うん。だいぶよくなった」



 しばらく休んでいると、だいぶ気分が良くなった。俺は立ち上がると、服についた土や葉を払う。


 今日の魔法の練習は終わりだ。俺はルーナと一緒に街へ戻る。


 いつもなら一直線に家に戻るところだが、今日はその前に寄るところがある。


 ハンターギルドだ。


 来るのは前回のクエストを受けて以来だ。その時と変わらず、武器を持った人ハンターが大勢出入りしていて、とても賑わっている様子だった。


 早速俺たちは建物の中に入ると、カウンターへ行く。



「お疲れさまです。どのようなご用でしょうか?」



 受付嬢がにこやかに挨拶をする。そういえば、カウンター越しに受付嬢の顔が見えるようになったな。今までは背が低くて見えなかったのだが。成長を感じる。


 さて、魔力量はどのくらいまで増えているかな……。



「まりょくそくてい、おねがいします」



 俺は背伸びをして、カウンターの上に自分のギルドカードを置く。その横に、ルーナが小銀貨一枚を置いた。



「かしこまりました。それでは、こちらに手を広げて置いてください」



 ルーナが俺を抱っこして、体の位置を上げてくれる。そして、俺はカウンターに置かれた機械に、右手を広げて触れた。



「そのまま、しばらくお待ちください」



 機械が一瞬光った後、受付嬢が手元に目を落とす。そして、紙に文字を書き始めた。書き始める直前、一瞬動作が止まったように見えたのは気のせいだろうか?


 とにかく、いったいどのくらいの数値だったんだろう……。



「こちらが結果です」



 そして、カウンターの上に紙が出される。そこに書いてあった数値は……。



「五千八百七十七……⁉︎」



 ルーナが隣でビックリしたような声を出す。



『五千八百七十七‼ すごーい‼』


『こんなに増えていたのですね』


『練習したかいがあったっスねー』


『ヤ~~バ~~い~~』


『妾のおかげじゃな!』


『ボクも手伝いましたよぅ……』



 精霊たちも口々にそう感想を漏らす。


 二年前に測った時は、三千弱くらいだったはずだ。それに比べて、およそ二倍。魔力消費量二千五百の上級魔法『バースト』を二回ぶっ放しても、まだお釣りが来る。


 魔法の練習の頻度は減ったけど、精霊たちと契約してパワーアップしたからだろう。



「とんでもないことになっているわね……」



 ルーナがそうぼやく。


 魔力量なんて、いくらあっても損はないと思うぞ!


 とにかく、この調子で魔法の練習を続けていこう。


 そして、俺たちはギルドを後にしたのだった。






 ※






「ところで、最近剣術の練習はしているのかしら?」


「ううん」



 帰り道。ルーナと手を繋いで歩いていると、彼女が話を振ってきた。



「シャルがいないから、あまりできてない」


「一人ではやらないのかしら?」


「シャルとやったほうがいいから」



 ここ一年で、シャルの生活スタイルは大幅に変化した。


 以前はずっと家でゴロゴロしているか、俺の剣術の指導をしているかの二択だった。しかし、ちょうどクエストの後くらいから、数日に一度ほどしか家に帰ってこないような生活に切り替わった。


 ルーナに聞いたところ、どうやら、その頃からシャルは剣術の指導の仕事を始めたらしい。

 それも、『テクラス』という王国の北部にある街で、ほぼ住み込みのような状態で働いているようだ。



 ともかく、シャルがいない状況下では、剣術の練習にも身が入らない。一応、体力作りはルーティーンとしてこなしているが、実践練習はできないし、クエストの受注も禁止されてしまったので、魔物相手に戦うこともできない。


 また、精霊たちと契約したことで、俺自身の脳のリソースが魔法の方に多く振り分けられてしまっている。そういうわけで、剣術の練習にはあまり身が入らない状況となってしまっていた。


 久しぶりに剣術の練習もしようかな……。



 そんな考えに至ったところで、ちょうど自宅に到着。門を潜って庭を通り抜け、玄関からリビングへ向かう。



「お姉ちゃん、フォル、おかえりー! ちょっと遅かったね!」



 すると、リビングにはシャルがいた。噂をすればなんとやら。久しぶりに家に帰ってきていたようだ。



「ただいま。フォルの魔力測定に行っていたのよ」


「へー、どうだった?」


「ごせんはっぴゃく、ななじゅうななだった」



 ふふん、と俺が笑うと、シャルが目を見開く。



「そ、そんなに上がったの⁉︎ おっそろしい〜」


「へへっ」


「なんか精霊と契約してから、だんだん人間離れしてきているよね、フォルは……」


「本当にそうね。それにしても、シャルが家に帰ってくるなんて、久しぶりね」


「んーまあ、そうだね。……っていうか、今日は大事な報告があって帰ってきたんだよ!」


「ほうこく?」


「うん! もうすぐパパが帰ってくると思うんだけど、全員揃ったら言うね」



 浮かれた表情でシャルはそう言った。


 いったい何の報告なんだろう? 何やら良い報告っぽいが……。



「ただいま」



 そう思っていると、ちょうどバルトが帰ってきた。



「おかえりなさい」


「お、シャルが帰ってきているのか」


「うん、ただいま!」


「そういえば、フォルの魔力測定はどうだった?」


「五千八百七十七だったわ」


「ごせ……ううむ、そこまで上がっていたとは……。将来とんでもないことになりそうだな……」



 バルトはルーナと同じ反応をする。


 で、シャルの報告っていうのは? そう思っていたら、シャルが口を開いた。



「あのね、実は皆に報告があるんだけど」


「報告? なんだ?」



 そして、シャルは俺たち三人の前で、ニコニコと笑顔を浮かべ、宣った。
















「わたし、結婚することになりました‼」



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