入学式
数日後―
「はぁ・・・・今日から学校かあ・・・・。」
朝おきて僕はとても憂鬱な気分になった。下からお母さんが朝ごはんができたと叫んでいる。時間もあんまりあるわけじゃないし、早めに準備しよう・・・。
下に降りてリビングに入ると、お母さんとお父さんはもうすでに朝ごはんを食べ始めていた。美里はもう学校に行ったのかな?
「おはよう、悠。」
「おはよう、お母さん。入学式って何時からだっけ?」
「式は10時からだけど、9時には集まらないといけないから早く準備してね。」
「はーい。」
今日の朝ごはんは食パンとベーコンエッグといった簡単なものだった。
「じゃあ母さん俺はそろそろ行くよ。」
そう言ってお父さんが立ち上がった。
「あら、どこに?」
「今日は大学に講習に行くことになってな、昨日言うの忘れてた。」
「そう、いってらっしゃい。」
お父さんはそのまま家を出た。
「あんたも早く準備しなさいよ?」
「はーい。」
そうだなー。時間もないしさっさとしよう。
朝ごはんも食べ終わり、着替えるために自分の部屋に行く。壁に掛けてある制服を手に取る。一応これが届いた時に一度来てみたが、結構いいものだ。鏡の前で着替え始める。寝間着を脱ぎ、下着姿になると、自分の白い肌が際立つ、まず、スカートを履く。指定のスカートは夏用のは生地が薄く、柔らかくて着やすい。冬用は厚くてあまり好きじゃない。柄は茶色と黒のチェックで私立だからこそできる可愛い感じのスカートだ。まあそもそもスカートが好きじゃないけど。上は紺色のブレザーに赤のネクタイ。胸ポケットのところに校章がついている。全部着ると結構女子高生に見えるもので。
「・・・はあ。」
憂鬱になってくる。あ、そろそろ時間だ。
下に降りて学校へ向かった。
―――――
「はあぁん。いいわぁ~。悠可愛い!あ、今は優ね。」
学校への道でお母さんが車を運転しながら変なことを言う。本当は電車で行けるのだが、今日はお母さんの運転で行くことになっている。っていうか、それよりもなんか今変なこと言わなかった?
「え、どういうこと?」
「あら、まだ教えてなかったかしら?あなたが女の子になったっていうのに戸籍が男のままで学校に行けるわけなんてないじゃない?だから悠が女の子になった次の日にお父さんに頼んでちょっと戸籍いじってもらったのよ。あなたの性別を女にして、名前を小鳥遊 優にしてもらったの。家族構成とかもいろいろいじってもらったわ。」
「そんなことできるの!?」
「戸籍をちょっといじることくらい簡単よ?」
「簡単なわけあるか!だいたいそんなことしたら大問題だよ!」
「お父さんにかかればちょちょいのちょいよ?」
お父さん何者だよ!
―――――
学校の敷地内に入ると桜並木が広がる。ここ、黄燐高校の名物、樹齢120年近くの桜並木だ。この桜を見てるとなんだか心が安らぐなあ・・・。っていうかさっきから周りを歩く生徒たちにものすっごい見られてる気がするんだけど。なんか目が合うと視線下げられるし。そんなに僕変かな・・・。まあ元が男だし・・・そりゃあ変だよな・・・。
「あれー?おばさん、どうしたんですか?」
背後から聞きなれた声がする。振り返ると、そこにいたのは身長170cmは優に超える細身の男。手足は長く、顔は小さい。日焼けした肌に、黒い髪。
「イケメンだね!」
「そんなことないよ。」
的なやりとりをよくしそうな感じの顔。僕の親友、高橋 仁だった。
「あら、仁くん。おはよう。」
「おはようございます。それよりもこんなところにどうしたんですか?確か悠は別の学校ですよね?」
「ええ。今日は私の兄の娘の入学式に来たの。」
「へー。ってことは悠の従姉妹にあたるんですね。」
あ、その設定継続してたんだ・・・。
「この子ですか?」
そう言って仁は僕の方を見、目を丸くした。
「えっと・・・おはようございます。」
僕は軽くお辞儀をした。今までずっと一緒だったのに仲良く話せないことが辛かった。
「あ、ああ。おはよう。今日この学校に入学する高橋仁です。よろしく。」
「小鳥遊 優です。よろしくね。」
「じゃ、じゃあおばさん、またあとで。小鳥遊さんもまた。」
「はい。」
そう言って仁は走っていった。後ろ姿は随分焦っているように見え、顔は少し赤くなっているように見えた。気がする。
「とりあえず、受付ほど済ましちゃいましょう。」
お母さんが僕の手を引いていく。
受付では上級生と思われる男子生徒と女生徒二人組が受付をしていた。
「ぐ、ぐっどもーにんぐ。わっつゆあねーむ?」
受付に行くと女生徒から話しかけられた。
「日本人です。日本語で大丈夫です。」
日本人離れした外見のせいか英語(?)で話しかけられた。苦笑しつつも日本人だということを伝えた。
「あ、すいません・・・。おはようございます。お名前を教えてください。」
「小鳥遊 優です。」
「小鳥遊さんですね。ちょっと待っててください。・・・1-1、14番です。」
そう言いながら胸に花飾りをつけてくれる。
「ありがとうございました。」
そう言って受付を離れようとした。
「・・・1-1、小鳥遊優ね。把握したわ。」
ボソッとなにか聞こえた気がしたが聞こえなかったことにしよう。
「それじゃあお母さん保護者受付してくるからまた後でね。」
「はーい。」
僕は指示された通り、教室に向かった。
―――――
ガララ
教室に入った瞬間中にいた生徒の視線が一気に自分に集まった。よくあるよね。でも、すぐ別のところに視線が行くはずだから大丈夫・・・・。あれ、なかなか離れないぞ?
自分の席を探し座るが、まだみんな黙って自分の方を見ている。そのあとすぐに先生が入ってきたため視線は離れた。一体何なんだよ~!
そのあとの話は簡単なものだった。このあとの説明とか。ちなみに先生の名前は立花圭一という男の先生だ。あ、別にどうでもいい?
―――――
式も滞りなく終わり、ホームルームとなった。もちろん定番の自己紹介からだ。
「・・・・・です。よろしくお願いします。」
パチパチパチ
みんな簡単に済ましている。出席番号順のため、結構順番は早い。
「次、14番。」
「はい。」
教壇に上がるとみんなの視線が今までより一層厳しくなったきがする。
「えっと、小鳥遊 優です。11月11日生まれ、血液型はA型です。趣味は料理と読書です。よろしくお願いします。」
礼をするが拍手が来ない。え、もしかして足りない!?
「え、っと妹が一人と、今はちょっといないですが、弟がひとりいます。んーと、好きな食べ物はアイスくリームです。よろしくお願いします。」
まだ拍手が来ない。もう言うことないよ~!
「質問!」
ひとりの男子生徒が手を挙げた。
「彼氏はいますか!?」
「はぃい!?いるわけないじゃないですか!」
「まじ!?よっしゃ!」
何がよっしゃだというのだ。僕が彼氏なんて作るわけ無いだろ。常識的に考えて。ホモじゃねえし!
「私も質問!」
次は女の子だ。なんで僕の時だけ・・・。
「彼女はいますか!?」
「いません!」
女子の何人かがきゃーという黄色い声で騒ぐ。
「はい!質問!読書ってどんな本が好きなんですか!?」
「質問!料理ってどんなのをよく作るんですか!?」
「運動は好きですか!?」
「アイドルだったらどんな人が好きですか!?」
「好きな色はなんですか!?」
「僕と付き合ってください!」
おい。なんか質問じゃないの入ってたぞ!
このあと時間いっぱいまで質問攻めにされた。その中に質問じゃないことがかなりあったけど・・・。
疲労困憊で席に着くと次が呼ばれた。
「えー、俺の名前は高橋 仁です。よろしく!」
・・・・え?驚いて顔を上げると仁はこっちを見ていた。
「時間がないのでこの辺にします。質問があればいくらでも聞いてな!」
そう言って仁は教壇を降りて自分の席に着く。その間僕はずっと仁を見ていた。仁の席は僕の後ろだったようだ。今まで同じクラスだってことに気づかなかったなんて・・・。
―――――
ホームルームも終わり、帰ろうとすると呼び止められた。
「えっと、小鳥遊。」
「?」
呼び止めたのは仁だった。
「確か、悠の従姉妹だったよな?ちょっといい?」
「どうしたの?・・・高橋君。」
「今、悠どうしてるかわかるか?」
答えられない。僕が悠だ。そんなこと言えるわけがなかった。今までみたいに仁って呼びたかった。悠って呼んで欲しかった。
「ごめん。知らないわ。でも、きっとうまくやってると思うよ。」
「そうか。わかったありがとう。それとさ、高橋君って言いづらいだろ?仁でいいよ。そのかわり、俺も優って呼んでいいか?悠のことをゆうって呼んでたから小鳥遊って言いにくくてな。いいか?」
「・・・うん。ありがとう。」
目から涙が溢れてきたがそれを悟られないように目を閉じて笑顔を作った。
「仁・・・くん。じゃ、じゃあまたね!」
まだ、仁って呼ぶ勇気はないみたいだ。呼びたいのに呼べないってなんだよ。と思いながら逃げるように教室を出た。
久しぶりの更新。
楽しんで読んで頂ければと思って書いていますが、文才がないため趣味の域を脱しません。
4/20 若干表現を訂正しました。内容も若干訂正