第25話 外道
「行きますよ、ネシュカさん。」
「は、はい…。」
昨晩以降、二人の間には微妙な空気感が漂っていた。
自然と口数も減りつつ、ダンジョンへと到着した。
ぷるぷるっ!
「ス、スライムですっ!」
斬ッ
べしゃっ!
「ふぅ…。発声、ありがとうございます。少しぼーっとしてしまいました。」
「い、いえ…。」
スライムは洞窟天井や壁に張り付き、体にとりついて窒息死を狙ってくる凶悪な魔物である。体内に核があり、そこを攻撃することで倒すことができる。
「20階層のボスは3種類からランダム発生です。ヒュージスライム、スケルトンナイト、カーマドゥームの3種類。」
「カーマドゥーム、ですか?」
「バッタのような見た目の昆虫型の魔物です。鎌のような両手を持ち、強靭な足でとびかかる、もしくは突進などをしてきます。三体の中だと一番のハズレですね。」
「な、なるほど…。」
「ちなみに、他の2種類は例のごとく、それぞれ通常のスライム、スケルトンが同時召喚されます。」
「わ、わかりました。」
「どれが出るにしろ、ボス本体は僕が抑えるので、その隙に周囲の雑魚を掃討してください。」
作戦内容を話しながら歩き続ける。命がかかった戦い、その内容について話すうちに、妙な気まずさは消えていた。
そして。
「着きましたね。」
「緊張してきました…。」
二人はボス部屋の前までやってきたのだった。
「では、開けますよ。ボスを確認次第、フラッシュをお願いします。」
「了解ですっ!」
ギ、ギ、ギ…
扉が開く。
果たして、中にいたのは…。
「…え?」
いや、いない。何もいなかった。
「え?ボスが、いない…?そ、そんなことあるんですか!?」
鉱石とコケにより照らされた、だだっ広い広間には、本来いるはずのボスがどこにも見当たらなかった。
「とりあえず、中に入って進むしかないでしょう。…油断せず、行きましょう。」
二人がゆっくりとボス部屋に入った。
その瞬間。
「「バインドッ!!」」
「「ッッ!??」
岩陰から放たれた、“拘束魔法”“。
パチパチパチパチ。
「いやぁ~、まさかこんなに早く20階層まで到達するなんて。すごいじゃないか。」
手を叩きながら現れたのは、一人の男。
いや、岩陰からは黒いフードを被った男たちが、さらに5人ほど現れた。
「お、まえ、は…ッ!」
「言っただろう?お前は殺して、女は性奴隷だって。今日が、君たちが“そうなる日”だ。」
「ミ、カシュッ!」
かつてギルドで揉めた男。ミカシュと呼ばれていた男だった。
「おお怖い、そんな顔ができるようになったんだねぇ、ネシュカ。」
「なん、で、ここ、に…!」
「さっきも言っただろう?耳が腐ってて聞こえなかったのかな?このガキを殺して、お前を性奴隷にするためだって。」
「おいミカシュ、他の冒険者が来る前にさっさと始末しちまおう。」
刺青の男がミカシュを諭す。
「まぁ待て、簡単に殺しても面白くないだろう?おいお前ら、このメスを縛り上げておけ。」
「「了解。」」
「ネ、シュカッ!!」
「ヒルマ、さっ…!」
「さえずるんじゃねえよ、性奴隷の分際でッ!!」
バキッ!
「あぐっ!」
「よ、せえええっ!!」
ヒルマが怒りの雄たけびをあげた。
「はははっよせ~、だって。動けない雑魚が、何言ってんだよッ!!!」
ベキッ!!
「ぐぁっ!!」
ヒルマの顔にミカシュの拳が突き刺さる。
ヒルマは殴り飛ばされ、地面を転がった。
「まったく。雑魚のガキが、いきがるなよ。まぁいい、お楽しみはこれからだ。殺す前に、お前の全部を丸裸にしてやるよ。おい、ミロ、来い。こいつの能力を“看破”しろ。」
「へい。」
ミロと呼ばれた、中年の男が歩み寄る。
看破とは、対人に特化した鑑定スキルである。対象の持つスキルをすべて把握することができるのだ。
「看破。」
ミロの目が怪しく光る。そして。
「…は?ユニークスキル!?」
(えっ!?ヒルマさんも、ユニークスキルを!?)
ネシュカの表情が驚愕の色に染まる。
「なに?このガキ、ユニークスキル持ちなのか?」
「あ、ああ。名前は…え?ぶふっ!あひひっ!!あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっっ!!!!」
ヒルマのスキルを見たその男は、大声で笑い出した。
「おいおい、ミロ。急にどうした?ついにボケちまったのかい?」
「ひーっ!こ、こいつ!こいつのスキル名がっ!!!」
「いいから早く教えろ、なんなんだい?このガキのユニークスキルは。」
「チ、《《チクビーム》》!チクビームだってよっ!!」
「…ぶふっ。な、なんだって?」
「だからぁ、耳穴かっぽじってよく聞けよ?お前ら!このガキのスキルはな、チクビームだ!!!!」
「「「ぶははははははははははははははははははっっ!!!!」」」
「…。」
嘲笑が響き渡る。
ヒルマはただ、沈黙している。
「ひーっ!!笑いすぎて腹がいてぇ…!おいガキ、ずいぶん愉快なスキルを持ってるじゃないか。ええ?」
「…。」
「おい、誰かあのガキをここまで引きずってこい。」
「へい!」
フードの男が一人、ヒルマに近づく。
「おいチクビ野郎、ミシュカさんがお呼びなんだよ!」
男がヒルマの髪を掴み、持ち上げようとする。
斬。
「え?」
男の右腕が宙に舞って。
どちゃっ。
地面に落ちた。
「ぎ、ぎゃああああああああああああああっ!!!!」
「うるせえんだよ、クズが。」
何か光った。
光ったのは、鈍く光る剣の軌跡。
「あぎっ?」
今度は、男の首が宙に舞った。
べちゃっ。
男の首は、死んだことに気付いていないように、数度瞬きをした。
べちゃり、べちゃり。
血だまりの中を、ヒルマがゆっくりと歩く。
返り血で濡れた手で、ヒルマが髪をかきあげた。
「…お前ら全員、皆殺しにしてやるよ。」
「…おいガキ、調子に乗るなよ?お前ら、あのガキの手足を斬り飛ばして、俺の前まで持ってこい。油断はするなよ?」
「「へいッ!」」
フードの男たちが、ヒルマを取り囲んだ。
「ヒ、ルマさんッ!」
「おいメス、動くな。殺すぞ。」
ミカシュが拘束されたネシュカの首を掴んだ。
「かはっ!」
「…このゴミカス、その手を今すぐに放せ。」
「はははっ、やってみろよ。正義の騎士気取りの、“チクビナイト”くん。」
奇しくも、かつての蔑称と同じ。
ヒルマの目が、スゥーっと細められた。
「「シィッ!!!」」
男たちが一斉に、ヒルマへと襲い掛かった。
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
本作、カクヨム様にて、先行公開しております。
続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/822139844400383614




