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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
王妃付き侍女と国王付き侍従の恋文とその顛末について

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16.四日目 ~ 四通目の恋文

「ここよ!!」


 にこにこ顔のミミが連れてきてくれたのはハリエットにとっても懐かしい場所。

 救護院の庭に生える林檎の木の向こう、小さな一角があのころと変わらず詰め草の草原くさはらになっている。救護院で飼育している卵用の鶏の餌なのだが、子供たちにとっては花冠を作ったりして遊ぶ格好の遊び場だった。


「四つ葉のクローバー、おねえちゃんもさがそう!!」

「四つ葉のクローバーを?」

「うん!見つけるとしあわせになれるの!あのね、ミミね、ここでひとつ見つけたのよ!おねえちゃん、ミミと同じかみの毛だから、ミミがいっしょにさがしてあげる!」


 ミミがにこにこと笑いながら自分の赤いおさげを両方掴んで見せる。赤に近い濃い朱色や茶色の髪の者は多いが、ハリエットやミミのように混じりけを感じないほどの赤い髪はとても珍しい。ハリエットも、実は自分の血縁以外でこの髪色に出会うのは初めてだった。


「そっか、赤い髪仲間だね!」

「うん!!」


 にこにこと笑いながら「ミミがみつけてあげる!」とおさげを掴んだ両のこぶしを天高く上げると、がばりとその場に蹲って四つ葉のクローバーを探し始めた。少し遠くでその様子を見ていた子供たちが「僕も探す!!」「わたしも~!!」と走って来た。とたんに小さな草原くさはらは子供たちでいっぱいになった。

 …なんて幸せな光景なのだろう、ハリエットはなぜだかとても泣きたくなった。


 結局、ハリエットが見つけることができたのはひとつだった。子供たちはいくつか見つけたようだが、嬉しそうにルイザ達侍女や護衛の騎士の元へ走っていくと「あげる!!」と全て手渡していた。差し出された誰もが目尻を下げて「ありがとう」と受け取っていた。

 そんな中で、年長の男の子がひとり、自分が見つけた四つ葉のクローバーをラーラに渡して何かを耳打ちした。ラーラは目を瞠りぱっと少年の顔を見ると、ぎょっとした顔の少年の手を取ってセシリアの元へ行き、セシリアに四葉のクローバーを手渡した。

 ハリエットの位置からではどんな会話があったのかは分からない。けれど、顔をくしゃりと歪めたセシリアがふたりを一気に抱きしめたのだけは、見えた。


「おねえちゃん」


 スカートが引かれる感じに下を向くと、またミミがハリエットのスカートを引っ張っていた。「なあに?」とハリエットがかがむと、手に持っていた四つ葉のクローバーを「あげる」とハリエットに差し出した。


「でもこれは、ミミちゃんが見つけたものでしょう?お姉ちゃんもひとつ見つけたからいいのよ?」


 ハリエットが自分が見つけた四つ葉のクローバーをミミに見せると、ミミはぷるぷると首を横に振りにかっと笑った。


「これもあげる!!ミミとおそろいのおねえちゃんが、いっぱい、いっぱい、しあわせになれますように!」

「―――っ!!」


 たまらずハリエットがぎゅっと抱きしめると、ミミがへへへと笑った。

 

「おねえちゃん、またきてね?」

「…来るわ」

「きっとよ?」

「ええ。きっと…きっとよ」


 必ず来る。ハリエットはそう心に決めて、ミミを更にぎゅっと抱きしめた。「やくそくね?」と小さな声で呟いたミミも、小さな体できゅっと抱きしめ返してくれた。




*―*―――*·:*∞*:·*―――*―*


親愛なるダレル


 今日はお天気にも恵まれ、予定通りにレオミンスター寺院へ行ってきました。

 レオミンスター寺院がセシリア様にとってどんな場所なのか…ダレルだったらご存知だと思います。とても、とても懐かしそうなお顔で見て回っておりました。お世話になった神官長様たちにも再会でき、こっそりと目元を拭われるお姿が印象的でした。


 救護院で保護されている子供たちは大切に守られ、少々やんちゃが過ぎる子もおりますが良く笑う良い子たちです。侍女も、騎士様たちも、みんな幸せのおすそ分けを貰って誰もが笑顔で過ごすことができました。


 どこの救護院も子供たちがここのように健やかでのびのびと過ごせる場所であるようにと、セシリア様は王都に戻り次第、各地の救護院の調査に取り掛かるとのことでした。また忙しくなりそうです。


 フォード伯爵家で行われた晩餐会にはルイザ様が同行したので詳細は分かりませんが、特に何事も無く終始穏やかにお過ごしだったようです。


 明日からはまた移動となります。次の目的地であるウェリングバローまでは農耕地帯の視察、昨年の水害で被害を受けた村々の慰問など短時間で多くをこなさねばならないため、お手紙を書く時間が取れないかもしれません。ごめんなさい。


 またお便りいたします。


愛をこめて ハリエット


*―*―――*·:*∞*:·*―――*―*




 ハリエットとしては恋文風の―――一般的には日記風の手紙を今日も丁寧にしたためると息を吐いてぐっと伸びをした。ふと、視界の端に緑色が映る。


 ハリエットはじっと四つ葉のクローバーを見つめた。四つ葉のクローバー、幸運のお守り。ハリエットはクローバーを見ながらその向こうに、ぴょこぴょこと跳ねる赤いおさげと、きらきら光る緑の瞳を思い出した。ハリエットの口元に笑みが浮かぶ。




*―*―――*·:*∞*:·*―――*―*


P.S.

 私と同じ混じりけの無い赤髪の女の子がおり、とても仲良くしてくれました。五歳だそうです。緑の瞳に鼻に散ったそばかすがとても可愛らしくて…年齢的にももし自分に娘がいたらこんな子なのかしら?ととても微笑ましく思いました。彼女と摘んだ四つ葉のクローバーを贈ります。


 いつも忙しいあなたに幸運が訪れますように。


*―*―――*·:*∞*:·*―――*―*




 ハリエットは封筒に手紙を入れ、自分が摘んだ方のクローバーを崩さないように紙に包むとそれもそっとも封筒に入れる。


「いっぱい幸せになれますように、か…」


 こみ上げてくる自分でもよく分からない何かをごくりと飲み込み、ハリエットは目を閉じるときゅっと、口角を上げた。


 そうしていつも通り封蝋を押し、事前に聞いておいた護衛の待機所まで行き四通目の手紙を騎士に託した。


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