↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【過去話の密度調整中】ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第三章 王妃付き侍女と国王付き侍従の恋文とその顛末について

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/334

3.三日前 3


 ハリエットは今年で三十歳になった。十八歳の時から王妃殿下に仕えているのでもう十二年になる。対するダレルは現在三十代半ばで国王陛下に仕えて二十年以上と聞いている。

 ハリエットが王妃殿下の輿入れと共に王妃殿下の侍女になった時にはすでにダレルは国王陛下の後ろに控えていた。あの頃から少し年を取りはしたが、穏やかな緑の瞳とブルネットの髪はなにひとつ変わっていない。


 ハリエットが現王妃であるセシリアと出会ったのは学園、ということになっている。だが、本当の出会いは当時まだ王太子だった現国王陛下の婚約者を決めるためのお茶会だった。

 お茶会の席ではなく、お茶会の会場となった庭園から少し離れた池のほとりで、だったのだが。


 当時、ハリエットは七歳のやんちゃ盛りだった。伯爵令嬢とはいえメイウェザーは学者の家…と言えば聞こえは良いが、各地を巡り研究対象を追い掛けて回り、時には荒事もこなす探検家のような家系だ。

 ハリエットも五歳の時には護身術を学び始め、学習も『人生を掛けるに値するものを探す』ことを目的としたものであり、一般的な令嬢とはかけ離れた生活を送っていた。

 そんな風変わりな令嬢が世間一般の正しい令嬢令息と楽しくお茶会などできるはずもなく。無理やり着せられたフリル多めのドレスも動きにくく、ふてくされてこっそりとお茶会会場を離れ王宮の庭へ紛れ込んだのだった。


 がさごそと垣根を越え、道ならぬ道を行き、どう歩いたのだったか。気が付けばハリエットは黒々とした木々に囲まれた大きな池に出ていた。今見ると木々は青々としているし池もそこまで大きなものでは無いのだが、七歳のハリエットには途方もなく広くて深くて、暗くて恐ろしいものに見えたのを覚えている。

 そして、そんな恐ろし気な場所に、淡い光の美しいドレスを着た妖精が蹲っていたのだ。ハリエットは驚愕した。妖精が傷ついて池のほとりで倒れてしまったのかと思ったのだ。


「大丈夫!?」


 ハリエットが慌てて声を上げて駆け寄ると、妖精がぱっと顔を上げた。


「え?」

「……っ!?」


 とたんに、ハリエットは頭を強く殴られたような気がした。

 胸はどきどきするし、顔は熱いし、目がちかちかした。


 少し驚いたように若草の目を見開いた妖精の顔のあまりの愛らしさに、全速で駆けていたはずのハリエットの足がぴたりと止まり、ハリエットはほんの少しつんのめってしまった。

 おかしな姿勢で固まったハリエットを見た妖精は目を瞬かせると、ふっと何かを思い出したようにハリエットからゆっくりと視線を逸らした。


「あ………あーあ…」


 妖精がため息とともにとても悲しそうな顔になった。

 その視線の先を追うと、つやつやとした黄緑色の小さな蛙が、ぴょんぴょんと跳ねて妖精の足元から離れていくところだった。その蛙は五度大きく跳ねるとぴたりと止まり、首元をぷくぷくと膨らませたり縮めたりしながらじっとハリエットの方を見た。まるで、ハリエットを警戒して逃げようか逃げまいか悩んでいるように見えた。


「かえる…?」

「そう、蛙」


 ゆるゆると、どこかから淡く花の香りが運ばれてくる。

 その風に妖精の薄い青の羽が揺れ、先ほどまで暗く恐ろしかったはずの池も、森も、全てがまるで光の粒に覆われたようで。


「かえる………」


 柔らかく揺れる光の中で妖精がじっと蛙を見つめるのを、ハリエットもただただじっと見つめてていた。


「……の、王子?」


 蛙を見つめる妖精の若草色の目はとても優しくて、あの蛙は実は王子様で、魔法で蛙になったのかしら?などと子供らしいことを考えた。当時のハリエットはまだとても純粋だったのだ。


「蛙は嫌い?」

「えっ?」


 一度だけゆっくりと目を閉じると、妖精が唐突に言った。ハリエットが目をまん丸にして妖精を見ると、妖精が少し眉を下げ、小首をかしげて微笑んだ。


「嫌い?」


 その微笑みがあまりにも寂しそうで、悲しそうで。

 どうして妖精がそんなに悲しそうなのかハリエットには分からなかったが、ハリエットもなんだかとても悲しくて。ハリエットも小さく首を傾げ、それからぶん!っと思い切り首を横に振った。


「あのね、分からないわ!」

「…分からない?」

「うん、分からない!私は嫌いになれるほどかえるを知らないもの。知りもしないのに嫌いだなんて、言えないわ!」

「?どういうこと?」


 今度は不思議そうに首を反対側にこてりと傾げた妖精に、ハリエットはにこりと笑って頷いた。


「あのね、私はメイウェザーだから。知らないものを嫌いにはならないのよ。たくさん調べて、ちゃんと知って、それでも嫌いならしかたないのよ。父様もそれは本当に嫌いなんだって言ってた」

「あなたのお父様が?」 

「うん!知らないのに嫌いになっちゃったら、いやだって逃げちゃったら、知ることができなくなっちゃうでしょう?それは人生をかけるものを見落としちゃうかもしれないから、駄目なのよ!」

「見落として、しまう」


 妖精の若草の瞳が、木の葉の間から差し込む光を受けてほんの少しだけ揺らいだように見えた。



 誤字報告ありがとうございます、修正いたしました!

読み直して加筆修正しているのにも関わらず申し訳ない…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。