ホオズキと絵空事
作者・水沢さやか
共同編集者・水倉綾音
※この作品は舞台台本用に書いたものです
後日事務所にて
レイリン「本当にありがとうございました!」
助手「いえいえ、おかげで僕らが追っていた組織も一斉に逮捕されましたし」
レイリン「まさか凛を攫ったあの二人が警察から目を付けられてる暴力団の一員だったなんて…」
探偵「あの現場で麻薬の違法取引が行われていたのが決定打になったしねぇ、おかげで俺らは犯人捕まえれたしお金貰えるしでいい思いしたって訳だ」
助手「ちょっと!」
レイリン「でも、本当にありがとうございました!凛が怪我なく生きていてくれる。それだけで幸せです」
少女「…おにーさん達、ありがとう」
助手「いーえ?お嬢さんがご無事で何よりですね」
探偵「…あっ!れー君ごめん!隣の婆さん家にスマホ忘れてきた!」
助手「はあ!?何やってんですか!?」
探偵「ごめん!この後の依頼者のメモそっちにしか入ってない!」
助手「はあ、分かりましたよ、取りに行ってきます」
ガチャ(扉の開閉音)
探偵「いってらっしゃ〜い」
探偵「…じゃあ、本題に入りましょうかね」
レイリン「…?本題とは?」
探偵「とぼけても無駄ですよ。いや、それを見破られるのを望んでいるのか」
レイリン「…バレちゃいましたか!いやー実に素晴らしい。貴方の推理力と助手さんの戦闘能力。裏での評判も良いわけだ」
探偵「…貴方は今回の事件を全て知っていた。知った上で少しのスパイスを加えたわけだ」
レイリン「そうですよ。元々逮捕される予定の奴らに良い話をちらつかせて事件を起こさせた。あいつらにも家族はいるでしょうしねぇ、難しい話ではなかったですよ」
探偵「外道め。」
レイリン「酷い言いようだ。そんなこと言う貴方もこちら側の人間でしょう?」
探偵「…生憎俺の素性は秘匿なのでね。依頼者様にもお伝えする事は出来ないんですよ」
レイリン「そうか、残念」
探偵「そこにいる…りん、だっけ?そいつもあんたの妹じゃないでしょう」
少女「…」
レイリン「こいつはただの代わり。妹でもなければ人でもない。ただの代替品だ」
探偵「…」
レイリン「こちらからも質問なんだが、最初に違法取引現場にこいつが居ると分かった理由は?」
探偵「あんたがくれたヒントのおかげだよ。あんたのピアスに彫ってある模様、それが俺らが追っていた暴力団のマークだったんだよ。先月の殺人事件、あれも暴力団の内輪揉めから起きた殺人だ。あの時に俺が見たマークと一緒。れー君には適当な嘘言っといたけどね」
レイリン「れー君…ああ、あの彼か。彼の行動は想定外だったよ。まさか自ら取引現場に行くなんてね。悪い事をした」
探偵「正義感が強いんですよ。…俺と違ってね。今回だってれー君があの場にいなければ俺が依頼を受ける事はなかった」
レイリン「そういえば事務所の名前の「メラキ」ってギリシャ語で魂をこめるって意味ですよね?事務所に賭ける想いとかですか?」
探偵「俺が賭けた魂は俺のものでもないし誰に対するものでもない。」
レイリン「ああ、私達が望んだ通りだ。どうです?私達の所に来る気はありませんか?」
探偵「俺の心は今ここにある。誰のものでも無い。あんた達の物にさせる気もさらさら無い」
レイリン「ニコ、そうですか。ああ、そろそろ時間だ。」
探偵「なるほどでは早くお帰りくださいお出口はそちらです」
少女「…」
探偵「ああ、君、悪い大人に騙されそうになったらここにおいで。初回半額で何とかしてあげるから」
少女「フッ、フフフッ。おかしな人。じゃあその時はよろしく」
探偵「その時が来ない事を祈る限りだ」
少女、戸を開け外へ出る
探偵「…あんた、一つ聞いていなかったことがあった。」
レイリン「ほお?」
探偵「何故ここに来た。何を試すにしてもまずは情報がいる。その情報はどこから手に入れた」
レイリン「いや?別に大した事はしていないよ。元警察の君の「れー君」彼を追って見ただけさ。彼、こちら側へ戻ってくれば良いのに」
探偵「なるほどな。あんたと言う人間がよく分かったよ」
レイリン「それはどうも。…私が最初に言った事は覚えているかい?『妹を探して欲しい』これが目的だよ」
探偵「…分かった。では別れ際にもう一度言おう。もう二度と俺らに関わるな」
レイリン「君は多くの物を背負いすぎた。その荷物を失った頃に、また来よう」
ガチャ(開閉音)
探偵「…俺は、俺らはもう何も失わないし奪われない。あんたの思い通りにはならないよ」