第33話 救出其ノ二
三度の砲撃を抜け、舞い上がった砂埃が辺りを閉ざす。
私が顔を上げてから数秒とかからず砂埃は消え去ったがその先で繰り広げられている光景を私は目を剥き、声にもならない叫びをあげた。
砲撃による衝撃と轟音、砂埃に紛れて接近していたらしい敵の刃がアムリアに向けて振り降ろされる。
彼女の肩に触れた刃先は金属種の金属で出来た体なぞ意に介さないようにサックりと通り抜けた。
「ぐぅぅっ!あぁぁぁぁぁぁぁっ!」
絶叫、そんな言葉も似合わなくなるほどの叫びが私達の鼓膜を刺激する。
血こそ出ることはないが金属種にだって痛覚はある、身が削れたり砕かれたり、外部からの力で体が無理矢理変形すればそれだけ痛みが伴うのだ。
「逃げろっ!アムリアっ!」
「うぉぉぉぉぉっ!」
「こらっ!ロイっ!突っ込むなぁっ!」
おじさんの叫びを無視して敵に飛びかかるロイ。
しかしそんな一人の少年の蛮勇は敵の目にかかる事は無く、相手は振り下ろしたその剣の切り返しでアムリアのもう片方の腕を切断した。
「ひぐっ!・・・」
「お前ぇぇぇぇっ!」
間に合わなかったロイが激情に任せ攻撃を仕掛けるが形は斧と言えど錫は錫、一筋の傷をつけても罅を入れる事は叶わない。
逆にロイがひん曲がってしまった腕を直しながら体勢を立て直した時には敵の刃は高く振り上がり瞬きをすれば次の瞬間にはロイの命を奪われるのが容易に想像できる。
思わず目を閉じ、声を挙げる事で本能が事実から目を背けようとするが聞こえて来る筈のロイの叫びが聞こえない。
目を開けると敵とはまた一風変わった人型の機械がその陽炎を纏う紅い剣で敵の首を切断した。
機械は未だ動こうとした敵の体をズタズタに切り刻むと虚空に向けて何かを呟き出した。
『───生存を確認──敵影は確認出来ません』
どうやら私達の安否を報告しているらしい。
先程の金属をも溶断してしまう武器を持った相手におじさんやロイはより警戒を強めるが、私は恐らく皆が抱いている程の危機感を持っていなかった。
『・・・今アルムンストの戦闘員達が敵達を制圧している。今からアルムンストの入口まで護衛するから着いてきてくれ』
「本当にアルムンストの人間なのか?アルムンストが機械兵器を使うだなんて聞いた事がないぞっ!」
おじさんの引いた右腕が鋭くなる。
周りも各々己が身を武器に変え臨戦態勢に入った。
どうやらおじさんも周りも目の前にいる機械が敵の仲間であると信じて疑っていないらしい。
『人間かと聞かれると微妙だが・・・アルムンストの所属ではある』
解けない警戒。
『はぁ、こちらに交戦の意思は無い。今のところはまだ大丈夫だが、いつ後続が来るか分からん。着いてきて貰おう』
今の言葉で幾らかは場が緩んだものの疑心の心は無くならない。後一歩といったところか。
「ねぇ、この人に着いて行った方が良いと思う。ここで立ち止まっていてもこの人の言う通り新しい敵が来るかもしれないし、事態は悪くはなっても良くはならないでしょ?」
「・・・嬢ちゃん、それはそうだが・・・」
尻込みするおじさん。
どっちを選べば良いのか分かっているくせに。
『時間は無いんだ。来たいなら着いてこい』
機械は自らの体を浮かばせるとアルムンストへ向けて移動し始めた。
場の状況を飲み込めていない人達も仕方なくといった様子でついて行く。
ふと、まだ安全では無いのに胸を撫で下ろしてしまう。
機械の真後ろをつける私の胸には不思議な安心感の様な感情が渦巻いていた。
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『報告。行列後方、金属種の生存を確認。更なる敵影は確認出来ません』
『了解。厄災はそのまま金属種達を連れて帰投してください』
フェルに無理矢理組み込まされた通信機を使い報告すると司令部から次の指示が飛んできた。
・・・厄災と呼ぶのは三百年前を思い出すので辞めて欲しいのだが。
それから紆余曲折、結局金属種達を連れ出す事には成功したのだが、さっきから後ろを着いてくる白に近い銀色の髪を持った少女がどうにも他人の様には思えない。
会った事は無い筈だが、それこそ俺の三百年前に関係しているようなそんな感じがするのだ。
アルムンストへの洞窟も目前に迫り、落ち着いたら話しかけてみようと女性経験ゼロな俺の脳内会議が結論を議決した頃、頭の中で電話の呼び鈴に似た音がけたたましく響いた。
今度は向こうから通信がきたらしい。
『こちら司令部。厄災、応答を願います』
『はい。こちら厄災。何か御用ですか?』
『えぇ。敵が撤退を始めたと共に機械兵の操縦者達が搭乗していると思われる装甲車両を発見しました。金属種達は今向かっている者が引き継ぎますので転送した座標へ向かい、待ち受けこの襲撃がどの組織によるものか特定する為、車両及び人員の鹵獲をお願いします』
『了解しました』
俺は通信が切れると金属種達に向きかえり言った。
『俺はこれから戦場に戻る事になった。あの洞窟まで行けばアルムンスト所属の職員が待っているから急いであそこまで向かうんだ』
「お、おう」
金属種達が駆けていく。
俺は彼等の背中を見送らぬまま全力加速して座標を目指した。




