第32話 救出
いつもの隊形でアルムンストの数少ない出入り口たる洞窟を目指し、歩く。
遂にここまで来たという達成感とこれからの上手くいくであろう自らのこれからに心が踊り、皆一様にその歩を速めていた。
仲間達が挙げる笑い声に耳を傾け微笑むおじさんと、ロイとアムリアのコンビ。
かくいう私も本心ではアルムンストにお世話になると決めていたのか笑みをこぼし、油断していた。
直感が警鐘を鳴らし、思わず伏せたその時まで。
「伏せてっ!」
───突如弾丸がめり込み爆散する地面。
───間に合わなかった仲間達の断末魔の声。
───遅れてこの耳に届く数多の轟音。
伏せながら慌てて首を回す。
今の攻撃で四分の一程の仲間達がやられてしまったのだろうか。
隣からおじさんの激が飛ぶ。
「おいっ!お前らっ!顔を上げるなよっ!攻撃が終わったとは限らねぇぞっ!」
そして、おじさんの言葉は直ぐに現実となった。
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金属種達の合流まで残り一時間を切ったという時、アルムンスト中にけたたましい放送が鳴り響く。
『緊急っ!緊急っ!女王陛下とフェル殿は即刻軍部司令室まで内線を繋いでくださいっ!繰り返しますっ!』
自室で休憩をとっていた私はこれだけ騒がれては困ると内線のスイッチを入れた。
「何だ?敵性部隊でも確認されたのか?」
『あぁっ!殿下っ!』
連絡員は自分でもこのままではいけないと感じたのか一呼吸おいて報告を続ける。
『約三時間後合流予定だった金属種の一団ですが、何者かによる攻撃を受けた模様です』
「被害はっ?」
『現在、詳細は確認出来ませんが、その跡の一方性と轟音から砲撃によるものと予想され、効果範囲の広さから恐らく相当大きい部隊による面射撃だと想定出来ます。被害は決して軽微では無いでしょう』
・・・どこかの反金属種的な勢力がたまたま見かけて攻撃したには規模が大きすぎる。
普通に考えて、今回の襲撃は二つの大国のうちの一つだろう。
「救援にはどのくらいかかる?」
『今準備をしておりますが、向こうに着くにはどれだけ足の速い部隊でも恐らく八分はかかるかと』
「・・・そうか。フェルとも繋がっておるのだろう。繋いでくれ」
『はっ』
少しのノイズの後にフェルの声が聞こえてきた。
『御休憩中すみません殿下』
「挨拶はいいっ!で、どうする?」
『私と部下が出ましょう』
「・・・分かった。許可しよう」
少々意外だったが、フェルとその部下達ならば最も早く戦場へ助けに向かえる。
『有り難き幸せ。それと、元”厄災”をお借りしたいのですが』
・・・元”厄災”?鎧の方ではなく?
「まぁ構わん。だがそいつにはアサヒの観察と講師という任を命じている。最悪大破されても中の魂だけは回収してこい」
『御意』
返事と共に内線が切れた。
私は再び繋がった連絡員に事の顛末を伝え、内線を置く。
「はぁ・・・上手くやってくれよ。フェル」
きっと彼女らならば事を上手く運んでくれるだろうと信じて私はゆっくりと目を閉じた。
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「それにしても良くここまで用意したわね」
俺がダンマ製の体に追加武装を装着しているとこれから作戦だからだろう、ピッチリとした軍服に身を包んだフェルが話しかけてきた。
今回連れていく隊員達が未だ来なくて手持ち無沙汰らしい。
『まぁ、魔力機動式鎧装に比べれば性能は劣るけどな。一応この体でも必要な時に戦える様にしたかったし、どうにも魂だけになってから睡眠時間が無くなって時間は有り余ってたからな』
「なるほどねぇ」
そう言ってフェルはマグカップに注がれた茶を啜る。
その様子を見て昔、真夏の炎天下の中作業をしていて、わざと熱々の茶を差し出されたのを思い出したが、きっと彼女は覚えてないのだろう。
『俺としてはそんな事よりもどうして俺が呼ばれたのか聞きたいね』
「そんなに難しい理由じゃ無いわよ」
飲む?と別のマグカップを差し出してきたがこの機械の体では飲むことは叶わない。
ニタついているフェルは確実に知っている上でいかにも入れてあげた私優しいでしょ?とでも言いたげな表情しているのだろう。
『悪いが飲めんぞ』
「分かってる。緊張を解す為の冗談よ」
やっぱりか。
フェルは俺をからかう為に注がれた分の茶を飲み干すと途端に軍師の顔へと表情を変え、言った。
「今回あなたを呼んだのはその機動力を活かして、この作戦に於いて最も難易度が高く、重要な事、つまりは一団の最後尾付近にいる金属種達の救出を担当して欲しいの」
『それはこの推進装置のせいか?』
「えぇ。夜な夜な何か作りこんでるっていうのは報告に挙がっていたし、その金属の体なら多少のリスクは無視出来るでしょ?」
『なるほど』
その後、暫く沈黙が続いたが、モリブデンを含んだ兵士達が到着し、俺達は出撃した。
森林の木々の間をすり抜け、洞窟を駆け抜ける。
すると、遠目ではあるが争いの場が目を入った。
「二十秒後、各自散開、持ち場につけっ!」
「「「「『了解』」」」」
フェルの指示を皮切りに皆顔をより一層引き締め、俺は推進装置の出力を強める。
スピードと体勢が安定すると唯一作る事のできた溶断刀を引き抜き、刀身を紅く煌めかせた。
途中、敵の俺と同じ金属の体を溶断しながら持ち場へやってくると知覚に入ってきたのは腕が無くなった少女を庇う青年の姿と、青年に向かって叫ぶまた別の少女の金切り声であった。
・・・少女と鎧をやっと会わせる事が出来た。




