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傀儡鎧と金属少女の西方征伐記  作者: 松房
第七章 邂逅
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第26話 最悪の末路

更新が遅れて申し訳ございません。

今回はグロ成分強めです。

炎天直下の紫外線に晒されて死んでいった者達を踏み越え家を目指す。

仕事を終え毎度目にする帰路の景色に少し肩の力が抜けてしまう自分がいるが、俺は頬を張り気を引き締め仕事道具の鎖鎌を握り締める。

鎖が擦れ鳴る”ジャラジャラ”という音を金の跳ねる音とでも勘違いしたのか目を血走らせた男が駆けてくるが鎖分銅を投げ付け昏倒させた。

額から出血が見られるがここには戸籍も無ければ法も無い。

当然罪に問われる事も無いのだ。

俺は遠くに聳える白亜の壁を見据える。

・・・真っ当な仕事では無いがその合間に中の様子を覗くことは出来、法の大切さと言うのを嫌でも分かってしまう。

やはり最低限のモラルを守るのは法が意識させる”してはならない”、”侵してはならない”という感情だ。

選ばれざる者達が放たれ、屯し、出来上がったこの場所に暮らす人々は皆、自堕落で醜悪でどこか無気力。

しかし、倫理観の消えた異常な雰囲気に慣れてしまっていた自分がいた。

まさか、と高を括ってしまっていた自分がいた。

その時の俺は中の人間も倫理観が欠如していたと気付き後悔する事となる事を知る由も無かった。


塗装が剥がれ剥き出しになったレンガの小屋の扉は立て付けが悪く、開ける度”キィー”と鳴ってしまう。

・・・そろそろ新しい部品に取り替えなければな。

すっかり赤茶けてしまった蝶番から中へ視線を移すとたった一人の肉親である妹、マルタルが出迎えてくれた。

水を汲みに行っていたのだろうか服が若干湿っている。

「・・・兄さん、おかえり」

「ただいま。ほら、人工じゃない肉の干し肉を買ってきたからスープにでもして食べよう?」

年頃にしては感情と表情の乏しい彼女ではあるがこうしたちょっとした贅沢の時に見せる微笑みは俺とって、数少ない人生の潤いだ。

「どうしたの?早く中に入りなよ」

「あ、あぁ」

振り返り干し肉を抱えて行く妹の後ろ姿に目が惹かれる。

妹ももう確か年にして十二。

顔も悪い方では無い。本当はもっと食べさせてやりたかったが、痩せぎすと言う程では無いし、そろそろ”掘り出される”のも近いかもしれない。

「・・・マルタル、”掘り出し”に興味はあるか?」

「ん~興味は無いかな。だってさ、それって不自由はしないけど見せ物になるのと今の生活を選べってことでしょ?そんなの多少苦しくても今の生活を捨てる訳ないじゃない」

「なんでか聞いても良いか?」

「それは・・・」

妹は恥ずかしそうに頬を掻くと、鍋を火にかけて言った。

「私が兄さんから離れるなんて考えられないし、ありえないからだよっ?」

「・・・そうか」

照れ隠しに顔を背けてしまう。

それから暫く妹と目を合わせる事が出来なかった。


久しぶりの贅沢を食べ終え日も落ちきった頃。

俺は小屋の上に登り、一人月を眺めていた。

先程の”興味は無い”という妹の意思に反して俺の胸中はマルタルを中の金持ちに掘り出させる方法でいっぱいだった。

俺は中のお偉いさんに真っ当な仕事では無いものの雇われ、報酬を貰っている。

それはこの外に住まう人間として異常なことなのだ。

そして仕事の内容・・・人殺しという機密性の高い仕事を請け負っていることから妹は今現在、自覚すること無く人質となってしまっている。

「・・・強くならなきゃ」

最近は働き始めた頃と比べ少しずつ姿も割れ、屈強な用心棒を雇う要人が増えてきた。

暗殺を得意とする俺とって仕事が難しくなっている事は確か。

しかし、失敗は俺の死と同義であり、そのまま妹の死にも繋がる。

それだけは避けなければならない。

だめだ。きっと俺が強くなるよりも早くその時は訪れる。


本人が嫌がってでも早急に奴らでも手の届かない者の元へ・・・


俺が密かな誓いを立てた時だった。

下から”キィー”という音が聞こえる。

玄関の扉が開く音だ。

マルタル?いや、違う。

それぞれ違った足音が二つ・・・この金属の擦れる音は、相手は鎧でも着ているのか?

俺は自分の立っている屋根に耳を押し当てると中の様子が良く分かった。

『けど、こんな小娘一人攫って来いだなんてザルド様は一体何を考えているんだか』

『まぁまぁ、そのお陰で夜どうしパトロールの刑から逃れられたんだ。良いじゃねぇか』

『おい、確かに夜どうし見回りする事の辛さは認めるが、立派な仕事だ。刑とか口が裂けても他の奴らの前で言うなよ、首が飛ぶから』

『あいよ。分かってますって』

・・・対処しなければ。

俺は懐の鎖鎌を握り締め屋根から飛び降りると開いたままの扉から家の中へ侵入、鎖分銅で一人の首を打ち据える。

突如倒れ込む味方の体と背後からの完全な不意打ちにもう一人は慌てて剣を抜くがもう遅い。

引き戻した鎖分銅を投げその柄に絡めると全力で引き付け腹を鎌で切り裂く。

相手の傷口から噴き出す血が壁を濡らす。

しかし、そこで油断してはいけなかった。

背中から聞こえる風切り音。

先程とは全く逆の状況。

敵が振り下ろす”警棒”は俺の背を打ち据えた。

俺はそのまま倒れ込み手足を拘束される。

「に、兄さん・・・?何?この人達・・・」

どうやらこの騒動で目を覚ましてしまったようだ。

だが、今回に限っては好都合。

「マルタルっ!屋上から逃げろっ!うぐっ!」

「兄さん・・・兄さん・・・」

・・・妹の目が完全に怯えきっている。

壁を染めた鮮血に、そこから香る鉄錆の臭い、目の前に倒れている二人の死体。

この手の血腥い光景は今まで平和そのものの中を生きてきた彼女には余りに辛い物なのだろう。

鎖鎌を取り上げられ手足まで拘束されてしまった俺には為す術も無く、マルタルは後続の兵士に捕縛された。

そうして担がれると俺達を挟み込む腕は万力の様に固く、強く体を締め上げる。

その時浴びせられたマルタルの助けを懇願する視線と泣きっ面に俺の自信や誓いは尽く砕かれた。


地面に組み伏せられ、顔を上げた先には数十人の兵士を引き連れた男が立っていた。

「やぁ。エバンス。いや、殺し屋と呼んだ方が良いのかな?」

男の体はよく肥え、手には金属ヤスリの様に荒い金属が施された鞭が握られている。

「全く君には苦労させられたものだよ。私の派閥に所属していた有力者達の大半を殺してしまって・・・私はとてもイライラしているんだ」

そう言うと男は兵士に手招きをすると服を脱がされ裸になったマルタルが紐に吊るされて連れてこられた。

「たとえ君をここで殺しても私の瓦解した陣営は帰ってこない」

男の表情が愉悦に染まる。

「けど、君の人生をっ!その意味をっ!潰すことは出来るだろう?」


ヒュンッ!ジャリッ!


鞭についた金属ヤスリが勢い良く妹の体をなぞった。

顔の中心から腰の辺りまで消失するマルタルの皮膚。

「ああっ!あぁああああああああぁぁぁっ!」

「やめろっ!・・・やめてくださいっ!・・・」

「はははははっ!止める訳無いだろう?」

そうして視界に映る男の根。

「やめろっ!やめろっ!やめろっ!やめろっ!やめろぉぉぉぉっ!」

「ふっ!あはははははっ!いくぞっ!」

「ああああああああぁぁぁっ!」


・・・そこから三十分程は地獄の時間だった。

いや、実はそれより短いのかもしれないし長かったのかもしれない。

俺の生きる目的、生きる価値、糧、全てが破壊された。

視界に映る妹は紐に吊るされたまま事切れている。

その体は赤や青に痛々しく染まり、辺りには血が飛び散っていた。


もう何も考えられない。


もう何も、怒りすら感じない。


あの明るかった笑顔が、声が、暖かい記憶が、俺の頭から抜け落ちていく。


「それじゃあね。殺し屋。君の妹、それなりに美味しかったよ」


俺は振り下ろされる刃に気付く間もなく最期を迎えた。

今回の更新を機にこれからは少し前作冒頭の修正に取り掛かろうと思います。

前回や今回より更新頻度が下がると思いますのでご了承のほどお願い申し上げます。

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