パンドラの匣
「では私はジョーカー君の特訓に向かいます。ホークス君、あとはお任せしましたよ」
そう言い残してアール先生は立ち去って行った。
しかし、しかししかし・・・それにしたってマジかよ。。。
またしても俺・・・正確には違う時代の俺の精神。
マジマジと見つめていると俺・・・紅の剣聖ホークスと名乗る俺が話しかけて来た。
「そうだなー、改めて自己紹介しておくぜ。俺は今鹿風谷。皆からは【紅の剣聖ホークス】と呼ばれている。坊主と名前が同じじゃあ紛らわしいから【ホークス】と呼んでくれ。三年前、25の時この異世界エスブリッジに転移して来た。今は28歳だ。剣士をやっている。」
独特の雰囲気で自己紹介をする28歳の俺。
「坊主はやめて下さい。俺はもう18ですよ?」
カチンと来て思わず抗議する。
しかしホークスはそんな俺の感情を去なして軽いノリで続けた。
「そいつは悪かったな。んじゃあなんて呼べば良い?同じ風谷だけに名前呼びは気持ち悪いだろう?」
「い、一応アール先生からはコードネーム【最強】と呼ばれています。」
言って自分で恥ずかしくなった。
「なるほどなー、懐かしい。確かに【世界最強】に憧れてた時期が俺にも有ったなぁ。」
この口ぶりから察するに俺・・・日本の今鹿風谷は少なくとも25歳の頃には世界最強を目指してはいないんだなぁ。
アール先生が転移した38歳の時点で会社勤めのサラリーマンだと言っていたから、何処かで想いが途切れてしまっていたのには気付いていたけれど。
意外と早く諦めていて、なんだか自分が情けない。
「まあまあ、そんな顔するなよ。」
表情からこちらの思惑を察したのか、ホークスが再び語り出した。
「世界最強は確かにもう目指して無かったが25歳の俺にはもっと素敵な宝物が有ったんだぜ?」
「宝物??・・・あっ!まさか!?」
一瞬訳が分からなくなったが、アール先生が38歳で妻子持ちだった事を思い出し思わず前のめりになってしまった。
「ま、ままままマサカ25歳のオレハ・・・けけけけ結婚ヲ」
「いんや、独身だぜ?」
結婚してないんかーい!!
紛らわしいわボケが!!
「だが同棲はしているぞ。」
「ほぎゃあああああああ!!??」
思わず変な声が出たゾイ。
「どどどど同棲!?あ、あの男女が一緒に暮らす同棲!?!?」
「その同棲。」
「・・・因みに、お相手は?」
「それだけは言えないなぁ。アールさんも言っていたと思うが、元の世界に戻れた時、相手の知識が有ると変に意識してぎこちなくなっちまって結果、今鹿風谷の歴史が変わる可能性が有るからな。特にお前のような童貞は意識し過ぎて失敗するから。」
「おーーい!!またかよ!!言っとくけどその童貞って10年前のアンタだからね!?ブーメラン甚だしいからね!?」
全力の俺のツッコミを
「はっはっは、超ウケるな〜。」
と受け流すホークス。
チクショウ、コレがリア充の余裕か!!
「まあしかし、俺もアールさんの奥さんが誰なのかは教えて貰えて無いんだけどな。今の彼女と結婚するのかしないのかは俺にも解らんのさ。」
「え?そうなんですか?」
「もっとも、俺は命に代えても結婚するつもりだかね」
さらっと恥ずかしい事を言う。
こいつ、本当に俺か?
ジョーカーがコイツになるビジョンが全く浮かばない。
「すこし話を戻そうか。転移神から授けられた俺の理想の力は・・さっきも見せたがこの【無限収集箱】だ。」
そう言うとホークスはまたしても空間に手をかざし小型のブラックホールのような渦から日本刀を取り出して見せた。
「この【無限収集箱】には武器に限らず手に入れたアイテムを幾らでも収納しておく事が出来るのさ。」
うわ〜4次元ポケットだ〜。
「ただし生き物は入れられない。そして俺が手で持つ事が出来ないほど大きい物も収納出来ない。あくまでも取り出しは自分の手でやらなくてはいけないからな。」
なるほど、劣化版の4次元ポケットか。
ドラには勝てないな。
ここでふと疑問が一つ芽生える。
「因みに何でこんな特殊な理想の力を?」
「ああ、俺二十代前半から模造刀とかコレクションするのが趣味になってな。彼女と同居するにあたり大量のコレクションの置き場に困ってたんだよ。」
「も、模造刀・・・ですか。」
今の自分には全く良さが解らない。
あと数年で目覚める趣味か。
何か変な感じだ。
「だから多分【集めたコレクションを収納出来るスペースが欲しい】って言う想いが拗れて捻じ曲がってこういう理想の力になったんじゃあ無いかな。」
ほえ〜。
転移神適当すぎるだろ。
「あとは、剣道は続けていたからそれ系の理想の力も持ってるが・・・それはまた追い追い、な?」
そう言うとホークスは改めて無限収集箱から取り出した日本刀をこちらに手渡してきた。
「まあお喋りはこの位にして、さてさて『最強】、早速剣術の特訓と行こうかね。」