表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
支援魔法で冒険者!  作者: 二三八
冒険、その一
12/80

最深部での攻防

 準備はできてる? 僕は自分にそう問いかけた。

 僕等はこのダンジョンの最深部に向かっている。

 最深部にはダンジョンの主が待ち構えている。

 僕等はその魔物に勝たなければならない。

 多分、今まで戦った魔物のどれよりも強いことは確実。

 そんな主が待ち構える最深部に近づく度、心臓の音が大きくなっている気がした。


 そして、遂に下に続く通路に終わりが見えた。

 あそこを通れば主との戦いが始まる。

 そう思うと自然と全身に力が入る。


 その時だ。

 何者かの悲鳴がダンジョン内を木霊した。


「なんだ!?」

「とにかく行こう!」


 僕等は悲鳴の元に走り出す。

 声の元は最深部。つまり主のフロア。


 僕等は急いで最深部に辿り着いた。

 そこはダンジョン内なのに大きな空間となっている。発光石が沢山あり、他のところより少し明るい。

 そして、部屋の中央より少し手前側に女性が倒れこんで、その女性を睥睨している一体の魔物がいる。


 その危機的状況を見た僕は考えるより先に女性の元に駆ける。


「待て! キラ!」


 ラギアスが僕を呼ぶけど、それを無視する。

 このままじゃまずい、あの人が殺される!

 急げ急げ急げ! 間に合ってくれ!


 しかし、そんな僕の思いを嘲笑うかのように、魔物が女性に襲いかかる。

 頼む!


「間に合えぇ!」


 僕は叫び、もう一段階速度を上げて疾走する。

 そして、


「はぁ!」


 間一髪、僕は女性と魔物の間に割り込み、魔物に向かって剣を薙ぎ払う。

 魔物は僕の剣を素早い身のこなしで回避して距離を取る。


「大丈夫ですか?」

「えっ、あ、ああ」


 急に僕が出てきて困惑してるのかな? 

 僕は振り返って女性を見てみる。

 青くサラサラとしたセミロングの髪。僕を見ている目は髪と同じ青色。髪から少し出ている少し尖った耳を持っている。

 女性の体は傷だらけだった。体のあちこちに傷が刻まれている。


 僕が女性の体を見ていると、ラギアスが追いついた。


「何も確認せずにいきなり走るなよ。危ないだろ」

「ごめん、また無視しちゃって」

「まぁいいってことよ。結果オーライって感じだしな」


 そう言って、ラギアスは僕の前に立って魔物と睨んで牽制する。

 すると、魔物は一歩下りこちらの様子を伺い始めた。よし、少し時間ができた。


 僕は直ぐさま回復薬を取り出して女性に渡す。


「これを使ってください」

「いや、こんなものを受け取るわけには」

「全然いいですよ。まだストックもありますから」

「いや、しかしだな」


 ……このままじゃ長くなりそうだ。あんまり長い時間を取ってはいられない。

 僕は彼女の目の前に回復薬を置いて、背を向ける。


「終わったかキラ?」


 どっちかと言うと終わってないけど、取り敢えず「うん」とだけ返事をして、僕は改めて魔物を見る。


 見た目は蜘蛛。体は結構大きい。

 色は白色、こちらを睨んでいる目は赤い。

 8本の足があり、その先端は尖っていて刃物のような形状をしている。

 こいつはこのダンジョンの主、"アーラナイル"。


「支援魔法をかけるよ」

「頼むわ」

「ウガル・ライズ!」


 僕は支援魔法を唱える。

 アーラナイルはそれを見て何かを察知したのか、姿勢を低くして臨戦態勢に入る。


「来るぞ!」


 大剣を構えるラギアス。僕も剣を構える。

 数瞬の静寂を得て、アーラナイルは一気に間合いを詰めてきた。

 しかし、そのまま真正面から飛び込んでくるのではなく、僕等に届く手前で横に飛び、背後に回り込み迫ってくる。

 変則的な動きをする。だけど、その敏捷はハードウルフなんて目じゃないくらい速い。


 アーラナイルはラギアスを狙っているようだ。

 僕は大剣を振るのに邪魔にならないように、ラギアスから大きく離れる。

 それを確認したラギアスは大きく息を吸って体を捻る。そして、背後に迫ったアーラナイルに捻りを解放させた力で大剣を振る。


「らぁぁ!」

 

 ラギアスの全力の一撃は喰らったらひとたまりもない。

 それを即座に理解したアーラナイルはラギアスの攻撃を後方に飛んで躱し、また変則的な動きで、今度は僕に攻撃を仕掛けてきた。


「ちょろちょろと!」


 僕は向かってくるアーラナイルに剣を振る。が、アーラナイルは突然、動きを急停止させる。僕の剣を寸前のところで回避した。


「しまった!?」


 剣を振り終わった僕は隙だらけだ。

 アーラナイルはその隙を逃さない。足についている鋭い爪で僕の足を浅く切り付け、また変則的な動きで離れていく。


 速い。それに頭がいい。僕の攻撃とラギアスの攻撃をしっかりと見た上で躱してる。

 僕は斬られた足を見る。切り口からは血が垂れているが、そこまで深い傷でもないし痛みで動けなくなるような事もない。


 僕は意識をアーラナイルに向け直す。

 だけど、視界にアーラナイルの姿はなかった。

 どこに行った? こんな短時間で姿を消すなんて。


「キラ、上だ!」


 辺りを探しているとラギアスの声が響く。僕は言う通りに上を向くと、なんとアーラナイルが爪を立てて落下している。

 いつの間にそんなところに!?


 僕は咄嗟に地面をゴロゴロと転がり落下してきたアーラナイルの攻撃を躱す。

 そして、直ぐに起き上がりアーラナイルが落下してきた場所を見るが、もうアーラナイルはそこにはおらず、少し離れた場所で走っていた。


「速いな」

「でも、攻撃力はそこまで高くない。どこかのタイミングで仕留めるしかない」


 僕とラギアスはその時が来るまで必死に待ち堪える。

 だが、アーラナイルはその目論見を知っているかのように、僕とラギアスを交互に攻撃しては離れるを繰り返した。

 僕等は深手こそ負わないものの、徐々に傷が蓄積されていく。


 やっぱり強い。でも、速度には慣れてきたし、あいつの変則的な動きにもキレがなくなってきてる。


 僕は感覚を研ぎ澄まし、次の攻撃を予測する。

 

「ここだ!」


 僕はアーラナイルの動きを先読みし、突きを繰りすと、剣は相手の体を掠めた。


「流石だなキラ!」


 初めて攻撃が当たったことにラギアスは笑みを浮かべる。よし、この調子でいけば時期に攻撃を当てられるようになる。


 そう思って僕が勢いよく一歩前に踏み出した時、何かを踏んだ。

 見てみると、それは粘着力のある白い糸だった。


「蜘蛛の糸?」


 そう、それは正しく蜘蛛の糸だった。

 僕は引き剥がそうと足を上げるが、足から離れない。


「なんなんだよこれ!? 全然取れねえ!」


 ラギアスもその糸に捕まったようだ。

 僕は剣で糸を切ろうとするが、糸は伸びるだけで切れない。


 なんで切れないの? それよりアーラナイルは?

 アーラナイルは僕等のことを睨んでいた。


 僕はアーラナイルから視線を下ろし地面を見る。

 そこには蜘蛛の糸が敷かれている。


 てことは、まさか!?

 僕はフロア全体を見渡すと、フロアの地面が蜘蛛の糸が張り巡らされていた。


 なんで気付かなかったんだ。あの不規則な動きは僕等の攻撃を躱す為でも、撹乱させる為でもない。このフロア一帯に蜘蛛の糸を張り巡らして、僕らを確実に狩るためのものだったんだ。

 アーラナイルの不規則で速い動きに気を取られ過ぎてその目的に気づかなかった。


「……取れない」


 僕は必死に糸を引き剥がそうとするが、取れる気配がない。

 なんで取れないんだよ、この糸。


 アーラナイルはラギアスの元にゆっくりと向かう。


「狙いは俺か。クソっ……あんまし使いたくはなかったが、そうと言ってられねぇな」


 ラギアスは足を思いっきり上げる。

 勿論、蜘蛛の糸は粘着したまま。

 ラギアスはその糸に手を向け、第二の力を呟いた。


「"フレム"」


 言葉を放つと、ラギアスの掌から小さな火球が放たれた。その火球は糸を燃やし、片足を自由にする。

 更に、もう片方の足についてる糸にも火球を繰り出し燃やす。


「しっ! 取れた!」


 糸を焼き切ったラギアスは直ぐに近づいてきたアーラナイルに剣を振り、大きく距離を取る。


「待ってろ、今切ってやる」


 ラギアスがアーラナイルを睨み、牽制しながら僕に近づく。


「ラギアス、もしかしてさっきのは」


 間違いなく火魔法。

 ラギアスはさっきと同様に僕の足についてる糸を燃やし切る。


「ラギアス、ありが、と」

「ハァ、ハァ。取れたみたいだな」


 ラギアスの息遣いが急に荒くなる。

 顔色も少し悪いし、さっきより汗をかいている。


「どうして? あいつに何かされた!?」

「いや、そうじゃねえ。心配すんな」


 そう言うラギアスだが、見た感じあまり大丈夫そうではない。


 僕がそんなラギアスにもう一度声をかけようとした時だ。

 アーラナイルはラギアスの背後から鋭い爪を向けて飛びかかってきたのが見えた。


「ラギアス、後ろ!」

「くっ」


 急いで大剣を振ろうとするが、さっきまでのキレがない。このままだとまずい!


 僕は直ぐにラギアスとアーラナイルを引き離そうとした。

 その時。横から水の塊が飛んでくる。

 アーラナイルはその水の塊に直撃、勢いよく地面を滑っていく。


「なんとか間に合ったか」


 水の塊が飛んできた方向からはさっき助けた女性が駆け寄ってきた。


「先程の回復薬でなんとか魔力が回復した。ありがとう、これでもう少しだけ戦える」


 一礼を述べた彼女は手を胸に当てる。


「守られているばかりでは悪いからな。ここからは私も参戦する」

「ありがとうございます!」

「なに、こういう時こそ協力すべきだろ」

 

 「当然だ」と彼女は力強い眼差しを向ける。

 あんな魔法が使えるんだ。こっちとしては願ったり叶ったりだ。


「私の名はリオネだ」

「僕はキラです」

「ラギアスだ。さっきはサンキューな」

「キラにラギアスだな。ラギアスは顔色が悪いようだが」

「ああ、さっきの魔法で魔力が殆ど残ってないからな。少しでも気を抜いたら倒れそうだ。そういやキラ、確か魔力回復薬を持ってるとか言ってたよな。それをくれねぇか」

「勿論!」


 僕はポーチから魔力回復薬を取り出しラギアスに渡す。今、ラギアスが戦えなくなったらこの戦いに勝ち目がなくなる。早急に回復してもらわないと。


 ラギアスは魔力回復薬を一気に飲み干すと、顔色が良くなり活力が戻ったように見える。


「ふぅ、復活っ!」


 ラギアスは大剣を肩に担ぐ。

 僕はラギアスをから視線を外しアーラナイルを見る。

 アーラナイルは飛ばされた場所から動いていない。


 それに、地面に張り巡らされていた蜘蛛の糸は消えていた。


「糸が消えてる」

「アーラナイルの糸は魔力が練られていて頑丈になっている。ただ、魔力は本来体内にあるもの。体外で形を留めるられる時間は限られている」


 リオネさんは糸の特徴を説明してくれる。

 となると、今アーラナイルはさっきとラギアスと同じように、魔力が少なかなってきている。

 そのせいで動きが鈍くなったとしたら、今がチャンスだ。


「ラギアス、リオネさん! 決着をつけよう!」


 僕はアーラナイルの間合いを詰める。

 が、アーラナイルは素早い動きで僕の攻撃を躱す。


 また動きが戻ってきてる。少し時間を置いたからか。でも、糸を出している様子はない。よし、今が攻め時だ!


 僕等は必死にアーラナイルに攻撃を仕掛ける。

 しかし、アーラナイルは衰えているとはいえ、その自慢の速度で僕等の攻撃を全て回避する。

 駄目だ。アーラナイルも僕達の動きを把握し始めて、隙を見て確実に傷を負わしにきている。


 この戦いに勝つためにはどうしたらいい。きっと、単純な力だけじゃ駄目だ。

 この速度についていけないと勝ち目がない。

 だったら、


「ラギアス! 身体強化をして!」

「さっきからしてる! けど追いつけねえ!」


 ラギアスは必死にアーラナイルの動きについていこうとするが、その速さに追いついていない。


 なら、やるしかない。まだ、完成していないから使えなかったこの魔法を!


 僕の新しい支援魔法。

 イメージは敏捷。敏捷の上昇!


「"エワードゥ・ライズ"!」


 唱えると、僕は疲労感に襲われる。


「おいキラ、なんか体が軽くなったんだが」

「私も同じくだ。何をしたんだ?」

「その魔法は敏捷上昇魔法。一定時間だけ移動速度が速くなる! あとは頼んだよ!」

「あぁ、キラの気持ち受け取ったぜ!」


 ラギアスは力強く地面を蹴り、アーラナイルに近づく。そして、その速度は遂にアーラナイルを超えた。


「オラァ!」


 アーラナイルは逃げようとするが、もうラギアスからは逃げられない。

 ラギアスは大剣を斬り上げ、アーラナイルの四つの足を胴体から切り離した。

 そして、更なる追撃を仕掛けようともう一度大剣を振り上げる。だが、アーラナイルは執念とも言える力で。残り四本の足を使ってそれを回避する。


「クソ! 逃した!」

「任せろ!」


 逃げたアーラナイルに手を向け標準を合わせるリオネさん。


「"アクア・ショット"!」

 逃げ回るアーラナイルの動きを先読みし、呪文を唱えた瞬間、繰り出した水の塊はアーラナイルに命中し吹っ飛ばす。

 しかし、まだ微かに息がある。

 僕はアーラナイルに近づく。


「これで終わりだ!」


 剣でアーラナイルの胴体を穿つ。

 アーラナイルは少しの間暴れ、動かなくなった。


「終わった、のか?」


 ラギアスは聞いてくる。


 僕は一呼吸置く。

 長かった。危なかった時もあった。

 でも、今僕等は生きている。

 そして、成し遂げたんだ。


「うん! 僕等の勝ちだ!」


 この瞬間が、僕等が初めてダンジョンを攻略した瞬間となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ