第37話 禁忌の魔法
はい、続きをどうぞ。
「た、たの……む、こ……ろし……て……」
「どういう事? 意識が戻ったと言うつもり?」
「う、あぁぁ、もう、……くり……かえし……た……くな……い」
「繰り返す?」
『おそ……らく、何らかの……力に支配されていた……のじゃ?』
「力……まさか、禁書の力に?」
それしか思い当たらない。他の人が洗脳しているのと違うような気がするし、支配しているなら、支配者との魔力のパスが繋がっているはずが、そんな気配はしない。
ジャック・リーパーから巨大な魔力があるとしかわからない。
「あ、あんな……力に……手……出すん……じゃなかった……輪廻……魔法に……」
『輪廻魔法だと!?』
「ん、知っているの? というか、凄そうな魔法じゃない」
『いや……、凄くはない。無数もある魔法の中でも、タチの悪い魔法だ。見つけても、必ず読むなと聞かされている』
「……そんなにヤバイの?」
『禁書に指定されているが、必ず誰にも読める。そして、死後に発動すると聞いている。死んだ後に、輪廻魔法保持者が望む世界を生み出す。そしてーーーー、自分が死ぬか世界に満足してしまうと、最初からやり直しになるのだ。出口がない繰り返しの世界を生み出す……、そう、永遠の命で終わりのない繰り返しの世界で生きていくことになる』
「成る程。……あれ、この世界はジャック・リーパーが作ったと?」
『そこまではわからん。何故、ワシらがここに入れたかも謎だ』
「わからないか……ッ!?」
意識が戻ってきた後、動きを止めていたから大丈夫と油断してしまった。ジャック・リーパーは狂ったように暴れ始め、リリィがいる方向へ向かおうとしていた。すぐ脚を動かして、横に避けようとしたが、脇腹に爪が掠ってしまう。
その瞬間に、ジャック・リーパーの記憶がリリィの頭に流れ込んだ。何故かわからないが、ジャック・リーパーがまだ人型だった頃の記憶が見えるーーーー
ジャック・リーパーは大量殺人者で、最初の殺人は親友だった人と喧嘩をした時だった。カッとなって、剣で胸を刺したのが最初の殺人である。
その時、人を殺すときの快感を知ってしまった。そして、また人を殺した。大量殺人者として指名手配されるまでは時間が掛からなかった。
殺した数が50を超えて、ある本を見つけた。珍しい本だったから、暇つぶしに読んでみたが、読み終わると白紙の本になって、光の粒子が身体に入ってきた。
だが、何も起こらなかった。ただ、ステータスに輪廻魔法と表示されているだけ。
訳がわからないジャック・リーパーはこのことを忘れ、更に人を殺した。沢山殺した。潰した村は1つ2つ程度ではない。
人を刺す時、手に伝わる感触に怯える表情は快感だった。もっともっと人を殺したい。殺して、自分の欲を満たしたい。満足を得るまでーーーーだが、目立ち過ぎたのか、魔人の中でも厄介な奴が派遣され、殺された。歯が立たなかった。自分は3つの角、戦闘の経験や魔法の強さもかなりのモノだったが……相手に傷一つも付けられないまま、反対に心臓を潰された。あの4つの角を持った化け物に…………。
このまま、自分の人生は終わりだと思っていたが……、そうはならなかった。何もない暗い部屋で問いかけられたのだ。
『貴殿はどんな世界を望む?』
訳がわからなかったので、質問をしてみたが、返ってきた言葉は同じものだった。何回も繰り返しで問いかけられ、1つの可能性を思いついたのだ。
この状況は、輪廻魔法のせいではないかと。生きている間に何も起きなかった魔法だったが、死後に発動する代物ではないかと。
だから、自分はその問いかけにはーーーー
「いつでも人を殺せる世界が欲しい!! その快感をいつでも味わえさせてくれぇぇぇぇぇぇ!!」
そう願った。強く願っていた……。
そして、その世界は叶えられた。グリム村と言う村に100人を超える人数が配置され、隔離されているから外から助けを呼ぶことが出来ない。つまり、誰にも邪魔をされずに殺し放題だった。
自分がまた死んだり、村にいた人を全員殺したら、1日目に戻ると言う繰り返しの世界だった。
最初は歓喜だった。もっと人を様々な殺し方で殺して楽しめた。手が足りないと思ったら、腕が増えた。身体を大きくしたいと願えば、3メートルを超える身体になり、殺しの種類を増やしていった。
だが、繰り返した回数を100回を超えると、飽きてしまった。同じ風景、同じ人、同じ文明。全く変わらない世界に飽きてしまったので、ジャック・リーパーは願った。
別の世界に変えて下さいとーーーーーーーーしかし、何も起こらなかった。世界は変わらなかった。自分の身体に変化を与えることはまだ出来ていたが、世界はもう変わらなかった。
そのことに絶望し、自殺をしたが、1日目に繰り返されるだけだった。何も変わらない世界で死ぬことも出来なかった。一度は殺す予定だった村人に友好的な接し方をしたが、身体は化け物みたいな変化になっていて、元の姿に戻れなかったため、怖がられ、恐れられて、攻撃されてしまう。
小さな変化さえも許されなかった。自分はおかしくなりそうだった。この世界から脱出したいため、色々試したが、駄目だった。
もう生きるの嫌になり、ずっと村人を殺し続けるしか出来なかった。もしかしたら、ずっと殺し続けたら、解放してくれるかもしれない。そんな淡い可能性や希望があると信じて動くしかなかった。この世界は殺しの為に生まれた世界なのだからーーーー
「…………チッ、ただの悲観者じゃないか」
「オゴボォ、こ、……ろし……て」
「ふん、私はお前みたいな奴は嫌いなんだよ。覚悟も決意も何もない奴は!!」
ジャック・リーパーが願った世界はただの惰性で生まれた世界だとリリィはそう感じた。そんな世界には消えてしまえばいい。
「『魔鬼召喚』!」
新しい召喚悪魔になる魔物を召喚した。魔法陣から現れるのは、1本角を持った鬼。召喚され、鬼は吠えた。
『ギガァァァァァ!!』
その咆哮はただの咆哮ではない。敵に恐怖を与え、身体を鈍くさせる効果がある。今回は周りにいたディガム以外も巻き込まれてしまったが。
だが、これからはリリィだけでやるつもりだったから、問題はない。
『コンカイハナンダ!?』
「キゼツ、彼奴を圧倒的な力で叩き伏せてやるよ! 『魔装魔法』!!」
『ガハハッ、アイツカ! ゼツボウヲミセテヤロウジャナイカ! アイボウヨ!!』
召喚された鬼の悪魔はキゼツと言い、リリィのことを相棒と呼ぶ。この悪魔は、オルクやクレオスと違って戦うこともなく、服従した悪魔だ。戦えば、リリィであっても無事で済まなかった可能性があった。それぐらいに強い悪魔なのだったが、ある条件を結ぶことで、服従すると言ったため、それを受け入れたのだ。
ある条件とは、簡単なことで戦いがある時は呼べ。それだけのことだった。キゼツと言う悪魔は戦闘狂で戦いが生き甲斐を持っており、リリィは強い力が欲しい、キゼツは戦いを楽しみたい。2人の目的が重なったから、戦うまでもなかったわけだ。
そんなキゼツの力とスキルはーーーー
「『爆裂拳』!」
ジャック・リーパーは脇腹辺りに爆発する拳を受けて、凹まされて数十メートルも吹き飛ばされる。
今のリリィは拳闘士が着るような簡易の服装に、手には黒い貫手が付けられていた。
キゼツはパワーとスピードに特化しており、普段のリリィより2倍以上も早く動けて、先程みたいに馬鹿みたいな力を得られている。
『ウハハハッ! アレヲクラッテモスグウゴケルトハナ!』
「思ったより硬いわね。でもねーー」
リリィは数歩だけで、数十メートル先にいたジャック・リーパーに肉薄して、連続でパンチや蹴りを放っていく。そのスピードが早くて、ジャック・リーパーは眼に捉えていなかった。離れている仲間達であっても、その動きは早いと感じさせるモノだった。
「早ぇ……」
「まさか、あの悪魔がそんな力を持っていたなんて。お嬢様と戦うことが無くて、良かったです」
『パワーは、まだ……こっ、ち……の方が上だが……、あの早さは……ワシを上回、っている』
「本当に強いですね……」
仲間達は戦いに手を出せず、離れて見ているしか出来なかった。1発だけで数十メートルも吹き飛ばす力に、ドラゴンを超えるスピードを持っているリリィが1人で充分と言うようにラッシュでジャック・リーパーに手を出させなかった。
「まだ終わらせんぞ、『身体強化Ⅴ』!!」
キゼツを装備したお陰で、強化魔法が装備している時だけ、レベル10になっている。それで、更にパワーとスピードが上がる。特にスピードは残像が見えてしまうぐらいに速くなっていた。再び、ラッシュが始まって、ジャック・リーパーの腕は防御の為に組んでいたが、今はズタボロに壊されていた。
「覚悟が無かった自分を恨むんだね。『絶王拳』!!」
この技は『炎獄』、『絶対零度』と同じように消耗が酷いが、確実に高い威力を誇っている。拳のみに一点へ込められた、全ての力を解放されてジャック・リーパーの身体に打ち込んだーーーー
「ギゴゥガザゼギェァッ!?」
言葉にならない声を漏らし、身体に大きな穴が開いて、生きるのに必要な臓器を塵にして消し飛ばしていた。
「ィ、オゥエァ……」
『オドロイタ、アレヲクラッテモイキテイタゾ』
「身体も変化させていたからか? でも、数分はすれば、死ぬだろうがーーーーそうさせないわ」
「えっ、何をするの?」
「もうトドメを刺す必要はないかと思いますが?」
仲間達が近寄って、ジャック・リーパーの様子を見ると、あと数分の命だと理解した。だが、リリィはまだやることがある。
「む、早くやらないと駄目だな」
「えっ!? そ、空が割れて……?」
『死にかけだからか? それか、輪廻魔法が繰り返しの準備をしているかだな』
「あぁ、それでは元通りになって、また繰り返される。だから、輪廻魔法にやれることをやらないと駄目だ」
「リリィ様はその方法を……? さっき、調べ物をして思い出した。グリム村は魔人の国の近くにあったけど、500年前に滅ぼされています。……ジャック・リーパーの手によって」
「やはりな。グリム村にいた人は全員、ジャック・リーパーに殺された者で、魂を輪廻魔法で繰り返しの世界に閉じ込められたんだね」
「酷いですね……」
「ジャック・リーパーも500年も繰り返される世界で生きていたから、精神が壊れてしまったがな。さて、やるか」
リリィは死にかけのジャック・リーパーに近付き、額へ手を掛ける。
「イォア…死を……」
「ふん、お前の為にやるんじゃないが、解放してやる。この世界からなーー反逆魔法、第4之魔法『魔技逆転』」
最初に手に入れた時、使い所が決まっていて使いにくいなと思っていたが、たった今に役立った。
『魔技逆転』の効果は、魔法やスキルの効果を逆転させるモノだ。更に、逆転させたい時は使用者に触れていないと発動しない。防御に使えるか、イーナと試したが駄目だった。例えば、攻撃魔法を逆転させれば、回復出来るのでは? と期待していたが、魔法自体に触れて発動が出来なかったため、水濡れになってしまった。
つまり、魔法に触れるのではなく、使用者に触れないと駄目なのだ。そんなことをするぐらいなら、物を盾にするか避けたほうがマシだ。
だが、今はこの魔法があって良かったと思っているわ。こうして、輪廻魔法の効果を逆転させて、こんな世界から抜け出せるもの。
逆転させた効果は、死んだら繰り返させる所を、死んだら繰り返さないと逆転させたのだ。そうすることでーーーー
「これで、ジャック・リーパーが死んだら、この世界は消えるわ。私達は迷いの森に出るでしょう」
「こ、これは……」
声が聞こえ、そこに眼を向けると死んでいた筈のアルデが起き上がっていた。身体は薄くなっていたが。
「ジャック・リーパーが死んだから、輪廻魔法の効果が消えて、魂だけの存在になったみたい。ほら、空のヒビ割れが大きくなっているわ」
「あぁ、俺は……前にジャック・リーパーに殺されていたんだな」
「えぇ、500年前にね」
アルデは昔にジャック・リーパーに殺されたことを覚えていたようだ。そして、妹のイルマもまたジャック・リーパーに殺されている。
「くっ、俺達は今までずっとジャック・リーパーの玩具にされていたのか……、悔しいよ……」
アルデは状況からジャック・リーパーに世界へ閉じ込められて、何百回以上も殺されていたことを理解した。イルマもいつの間に起き上がって、アルデに抱きついていた。
「イルマは、またアルデ兄さんに会えたのは嬉しいよ」
「イルマ……う、うぁ、うあぁぁぁぁぁっーーーー!!」
2人は繰り返されていた時の記憶はない。だが、イルマは死んでもまたお兄さんに会えたことが嬉しいのだ。
アルデも短い間だけだが、またイルマに会えたのは嬉しいことだ。そして、空からのヒビ割れが村まで及び、魂だけになった存在が空に昇っていく。アルデとイルマも空に向かってゆっくりと昇っていく。
「解放してくれて、ありがとう……」
「ありがとう、バイバイ!」
「自分の為にやっただけだから、気にしなくていいわ……向こうでも元気でやりなさいよ」
2人の姿が見えなくなり、完全に繰り返しの世界が壊れて、霧が晴れたかと思えば、リリィ達は迷いの森に戻っていた。
「元に戻ったわね。 ……あら?」
『本?』
「なんで、お嬢様の所に本がーー」
「っ! 読んでは駄目よ!! 輪廻魔法の本よ!!」
『なっ、まさか禁書が自我を持っているのか?』
何故か、リリィの所に本が現れた。読めと催促されているように思えた。
「私が禁書の力を持っているから、惹かれたのかな?」
『わからん、こんなの初めてみた。だが、絶対に読むな。ロクでもないのは理解しているよな?』
危険だとわかっているが、リリィだったら、読んでしまうのでは? と心配してしまう。だが、当のリリィはふん、と鼻を鳴らして上へ投げた。
「いらねぇよ、『天雷』」
本は雷によって、消し炭になって消え去った。
『……ふぅっ、読まないで正解だ』
「当たり前だ。死んでから発動する魔法なんていらないし、無駄だわ」
「そうですね、あんな体験はしたくないですからね」
リリィは禁書であっても、自分の為にならないならいらない。誰かに読まれて、また巻き込まれるのは勘弁だから、燃やしたのだ。
「あら、このアクセサリーは消えなかったわね」
「あ、本当だ」
「不思議ですね」
「どういう原理なのかな……?」
『ガハハハッ、あの2人からの贈り物で形見物だと思えばいいさ。霧も無くなったし、皆、乗れ』
ジャック・リーパーが作った世界は幻のようなことだったのに、何故かアクセサリーだけは形を残して、手元に残った。
不思議なことがあるんだなと感心しつつ、皆はディガムに乗って、空を飛んで行くのだったーーーー




