第1話 リリアーナ・オリエント
本日2話目
小森杏のこと、リリアーナ・オリエントはまだ掛け布団を被っていた。自分がリリアーナ・オリエントであったことに絶望していた。
なんで、私が……、前の世界に帰りたいよ……。
リリィは心が折れかけていた。もし、リリアーナ以外のキャラだったら、ここまで絶望はしなかった筈だ。リリアーナになってしまった事が汚点であると言うぐらいには、絶望していた。
この世界が、ゲーム通りではない可能性もあるが、ゲームのリリアーナ・オリエントの特性を考えれば、絶望しかなかった。
必ず破滅するリリアーナ・オリエント。攻略対象と主人公に関われば、必ず破滅する。主人公が誰かとハッピーエンド、バッドエンドになっていようが、リリアーナ・オリエントと言う悪役令嬢は破滅するーーーー
だったら、関われなければいいだけじゃないかと思うが、そのルートもゲームに出ていた。そのルートは友情エンドと言い、攻略対象全員と友情で良い最後のルートになるが、リリアーナ・オリエントだけは国外追放だった。友情エンドのルートにもリリアーナ・オリエントの出番はあったが、主人公の邪魔をすることはなく関わりがなかった。
しかし、そのエンドだとオリエント公爵の家で摘発があって、国外追放されてしまう。
摘発されるようなことをしなければ、大丈夫だと思ったけど、既にやっちゃった後なんだよね……。
摘発されるようなことを控えることも考えたが、もう遅い。オリエント公爵はもう個人で所持することを禁止されている物を手に入れているからだ。
勿論、それはゲームで知っていた。後で調べてみるが、無駄に終わるだろうと予想していた。
嫌だ、死ぬのも、国外追放されるのも、嫌だ、帰りたい、小森杏に戻りたい、ここは嫌ぁぁぁ…………
色々、考えてみたが、どのルートも破滅しか思い付かない。
リリアーナ・オリエントと言う人生が嫌だと内心で叫びながら泣いているが…………、元の身体に戻れない。
もし、あのゲームがことを起こしてしまうのがわかっていたら買わなかったのに…………。あの乙女ゲームを買う前に戻りたいーーーーーーーー待って? 乙女ゲーム…………
泣いていたリリィだったが、乙女ゲームと言う言葉に光明を見出した。
「あ、そうか、そうだよね。初めから乙女ゲームだと考えたのが駄目だったよね。あ、あはっ、アハハハハハーーーー!!」
折れかけていた心は完全に壊れた。折れたのではなく、壊れたのである。
心に暗い闇が生まれた。杏だった頃も少しは闇があったが、今はその比ではない。
これからリリィがやろうとしていることは、乙女ゲームと言う恋愛ゲームではない。ジャンルが全く違う。
「うふふふふふっ、そうだよね。破滅される前に、破滅させてやれば良かっただけだよねぇ」
リリィが思い付いたことは、自分を破滅させてやろうとする全てを反対に破滅させてやればいいだけなのだ。それは、つまりーーーー
あのゲームと同じなら、主人公と攻略対象を消せばいい。あぁ、ついでにオリエント公爵も摘発される前に消さないと駄目かなぁ。
恐ろしい考えだった。こっちが破滅されそうになるなら、その前に破滅されそうになる相手を殺すと言っているのだ。
しかも、リリィの両親も殺すことを考えていた。元小森杏にしたら、あの両親は他人なので、自分の命の為なら消すことに躊躇はなかった。
その為には、力がいる。なら、アレを見つけ出さないと。
これからのことを考えていたら、ノックがあって驚いてしまう。
「リリィ、入っても大丈夫か?」
「は、はい。どうぞ……」
扉が開かれると、両親2人が部屋に入ってくる。使用人は入らないで廊下で待つようだ。こっちのことを考えて、少数の方がいいと判断したかもしれない。
「リリィ……」
「メモ帳は……読んだみたいだな。少しは何か思い出したかな?」
「……いえ、正直に言えば、何も思い出せません。でも、私はクリス・オリエント……お母様に似ているようですから、両親であることは信じます」
「リリィ!!」
クリスは嬉しそうにリリィを抱きついていた。ルードも安堵したようで、ホッと息を吐いていた。普通だったら、5歳の子供が自分の親を忘れていたら両親だと認めさせるのは難しいだろう。
今回は鏡を見て、自分の容姿が母親のとソックリで、黒髪にルビーの色だったので少しは証拠になり得ると思った。意味なく信じていると言うよりはマシだろうと、その話を引き出したのだ。
「そうだ、胸は苦しくないか?」
「え、胸?」
「さっき、心臓が止まっていたんだ。急に苦しいと言って、医者を呼んだが……心臓麻痺で死んだと報告されたんだ。どうして生き返ったかわからないが……」
「もちろん、神様がなんとかしてくれたことは間違いないわよ!!」
「神様か……、こんな奇跡は2度とないだろうな……。すまない、もう少し休んだ方がいいな?」
さっき、心臓が止まったのだから少しは休息を当てなければならない。また再発したら、困るのはリリィなので、大人しく寝ることにする。アレを探すのは明日でもいいし、まだ時間はあるから慌てなくてもいいと、自分に言い聞かせる。
今はただの5歳の子供を演じなければならない。
「うん……」
「無理だけはしないでね? 何かあったら、すぐ扉の側にいる使用人に言うのよ?」
「行こう。1人の時間も必要だろうし」
2人共、再び部屋を出て行った。ふぅっと息を吐いてベッドの中に篭る。リリィは両親を殺すともう決めたので、情が移ってはならないと考えていた。
出来るだけ1人でいるのがいいな……。アレは明日から探し始めればいい。
今は英気を養うために、眼を瞑る。ルードの言う通りなら、この身体は一回死んでいたことになる。また心臓が動き始めたといえ、念の為に身体を休ませた方がいい。そう考え、アレを探し始めるのは明日からにすると決めたのだ。
部屋は1人だけなので、静かですぐ意識を闇の中へ落とせたのだったーーーー
まだ続きます。