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夢を見たその後で Epilogue

そして、月日は流れ.......




「そこ、もっと右にして?」

「この看板はもうちょい下かなぁ.......」

 

「オーブンの使い方ですか?......ここで温度調節で、このスイッチがスチームで.......」


「.........................」

「.........................」


いよいよ1週間後に自分のベーカリー喫茶がオープンの日を迎える...........。

会社を退職した後、自分は何がしたいのかを考えた。


一人になっていろいろ考えたのだが、

俺にとって大事なのは”自分らしくある事”だという答えに行き着いた。

確かに、サラリーマンの時のような安定した収入は望めないかもしれない。



もしかして、3食ともパンになってしまうかもしれない。


 

それでも.......半ば趣味で始めたような小さな店でも、

この店をオープンさせる事は俺にとっては意義のある事だと思う。


働くという事.....確かにお金の為に、生活の為に働くのだ。

綺麗事抜きでそれは間違いじゃない。


でも、それだけでは息が詰まる。

生活に必要なお金があるなら後は多くは望まない。

自分らしくあるのならそれでいいと思う。


売れるも売れないも全て自分の責任だ

だが、これからは、誰かの命令でパンを焼く事はない。

自分の力がどこまで通用するかはわからない。

それでも、やれるだけやってみたい。

 

 

 

 

 

もし、1度だけ人生をやりなおせたらいつに戻りたいですか?


 

少し前の俺なら......学生時代に戻って

もっと勉強して いい大学に入って 大手企業に就職して.....

そして、後は彼女の事......


そんな 今まで後悔をしてきた事や、

やり直したい事を無限に考えたと思う。


今は少し違う.........。

いや、全く違うわけではない。

もちろん、今でも後悔している事や

やり直したい事はたくさんある。

それでも、後悔を繰り返し

そして、やり直しの効かない現実を知った

今だからこそ見えている景色があり、

その景色は けして悪くはないものだと思うようになった。

そして、そんな自分がけっこう気に入っている。


だから、これから先の未来のために

今を大切に生きたい。


今は、ただそう思う。


同じ物を見ても人によって見え方や感じ方は違うだろう.........。

いい風に捉えるも 悪い風に捉えるも 人それぞれだと思う。


「いろんな角度で物を見ないといけない」


昔、俺に教えてくれた人.......。

その人とはもう2度と会う事はないが

今になってその本当の意味がわかってきた気がする。


 

 

少しは......あなたのように強くなれましたか?

あなたのいない この世界で俺は新しい生活を送ります。

だから、空から見守ってください.......。


 

 

空を見上げてみた。

どこまでも青く気持ちがいい。



まるで「がんばれ!」とでも言ってくれているような気がする。



「何やってんの?」 

ぼーっと空を見上げていた俺に背中から声が聞こえてきた。


懐かしい声だ。

姿は見えなくても誰の声なのかすぐ分かる。

もう何年も聞き慣れている声......。

そして、長い間聞かなかった声。



俺は、その声に向かって振り向いてみた....。





「久しぶりやね.......祐希」


何を見据えて、自分がどうありたいのか。

そして、何を大事に想っているのか....

その答えが出るまで会わないと言っていた。




そして、俺自身会わないと決めていた。



その人の名前を呼んでみる.....。




「........はるか」

心地のいい響きだと思う。

 

会えなかった時間の寂しさを一瞬の間に埋めてしまう。

.......そんな心地のよい響きだ。

 

「久しぶり......はるか」



どんな顔をしていいかわからずに はにかんでる俺に彼女は優しい笑顔を向けた。




「答えはもう、見つかった?」


彼女は優しい笑顔のまま、そう俺に尋ねた。




「ああ、なんとなくやけど......

俺にとって何が大事なのかは分かってきた気がする」

 

「そっか。祐希は大事なものを見つけたんやね」


「まだまだこれからが大変やけどな」


そう、本当にこれからが大変だ。

俺の夢はまだスタートラインに立ったばかりなのだ。




「私も祐希に負けてられないな.....」


「所で、はるかにとって大事なものってなに?」


「.........わたし?」




はるかにとっての”大事なもの”が俺と同じであるならば嬉しい。

一番愛しい人の瞳には俺との未来は描かれているのだろうか?


「私の大事なものはたくさんあるでー?

いろんな思い出とか。何でも話せる友達とかも そうやしなぁ。

後は、おとんやおかん も大事やし........それから..................」



「それから......後はなに?」


俺はやさしく尋ねてみた。




はるかは少し はにかんだ笑顔を見せながら俺の方を見て

....そして口を開いた。


 

 

 

「それから......後は......ねぇ...」







「その先は....まだ、教えてあげないよ」






そう言いながら彼女は

花のような笑顔を一つ

俺の方を振り返った。

今まで見た中でイチバン綺麗でかわいらしい笑顔に

一瞬、目を奪われた。



「どうしたの?祐希のお店なのに中に入らないの?」


いたずらっぽく俺の方を見る。

一緒に店の中に入りたいらしい。


.......そうか

それが、はるかの答えか!!


「ちょっとまって!! 俺も今から入るから」


と言ってはるかと一緒に扉に手をかけた........。




「3・2・1......せーの!!」


2人の新しい物語は.......

これから始まっていくのだ。




祐希とはるかの物語はひとまず終わります.....。


でも、この2人にとって今日という日はEpilogueではなく


今から始まっていく物語のスタートラインなのかもしれません。








時に.....人は耐えられない悲しみに出会う事がある





その悲しみは永遠に続くと思う時もあるだろう......





それでも....かならず朝が訪れるように





絶望という闇は、希望という光に変わるものと信じたい..........




やわらかくあたたかい光がどうか2人をつつみますように....



そして......



この物語を読んでくれた



全ての人をつつみこみますように......

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