夢を見たその後で 4話 「10年も前に......」 その2
仕事も終わり駅の前に来た。
さて.....と。彼女はどこにいるんだろう?
「.............」
しばらくたっても見つからなかったのでさっき教えてもらった電話番号に掛けてみた。
「お客様の御掛けになった電話番号はただいま電波の届かない所に..........」
「あれっ?おかしいなぁ.......」
まさか、約束の時間に電源を切っているなんて事はしないだろう。
少し待ってもう一度掛け直してみるか
「................」
「あっ、つながった!」
「もしもし......美香か?いまどこにいる?」
「ごめん!私から時間を言ってるのに......もうすぐそっちに行くから」
「ああ、わかった。それじゃ」
「pi」
しばらくして彼女が来た。
「ごめーん。私のほうから誘ってるのに遅れるなんてホントごめんなさい」
「いや、ええよ。そんなに待った訳じゃないし」
「そういう所は相変わらずね......。祐ちゃんらしいけど、こういう時は少しくらい怒ったり、訳を聞いてみたりしてもいいものよ?」
「別に怒るほどの事でもないし 美香にしたって何か事情があって遅れてるんだろうから聞かないほうがいいと思ったんやけど、じゃぁ...なんで遅れたん?」
「............」
「やっぱり教えてあげない」
って言って美香は少し舌を出した。
「自分から理由を聞けって言ったのにー」
「遅れてきた事は、ホントごめんね」
「......とりあえず、場所を移さない?」
「OK!」
「久しぶりの再会にかんぱーい」
カチン☆
「.......その調子じゃきっと今の彼女も苦労してそうね?」
「えっ.......なんでそう思うん?と言うより彼女がいるってなんで分かるん?」
「........なんとなく、祐ちゃんに彼女がいない訳がないって思っただけよ」
苦労してるかどうかは分からないが よく”本心は何を考えてるか分からない”と言われる時がある。
本音で話をしているつもりだが 自分ではなかなか分からないものだ。
「祐ちゃんは 相手に気を使って棘にならないような言葉を選んでるって言うのかな?......それって祐ちゃんらしい優しさだと思うし いい事だと思うけど.........」
「思うけど?」
「時には気を使って欲しくない時もあるし、想ってる事は言わなきゃ伝わらないものよ。優しさだけじゃない そういう男らしさもたまには欲しいものよ」
はるかや、井上さんに言われた事がここでも出てきた。
10年も会っていないのにやはり俺の事を理解しているんだなぁ。素直にそう思う。
自分で思っている自分の利点は人当たりの良さだが、欠点もやはり人当たりの良さから来る物足りなさなんだろう。
3人から言われて改めてそう思った。
「そういう美香は彼氏とかいるんか?」
「私は今はいないよ。そういう特定の人を今は作りたくないの。」
「なんで?」
「私と付き合ってくれたら教えてあげる」
「今は作りたくないって言ったばかりやん!」
「冗談よ.........。でも、祐ちゃんは今の彼女を大事にしてあげてね」
「もちろん俺はそのつもりやで」
「それなら安心したわ」
「なんで美香が安心するんや?」
「昔の事でも......一度でも好きになった人の幸せを考えるのって普通の事だと思うけど?」
「うーん。そんなもんかねぇ」
俺にはいまいち理解できない。
いや、頭では分かってる。
一度でも好きになった人の幸せを考えるなんて当たり前の事だろう。
好きになった人が 例え、違う道を歩いていく運命なのだとしても、その人の幸せを心から願う事が出来たならどんなに素晴らしいだろう。
ただ............その別れを受け入れ、違う道を進む相手の幸せを心から願える人なんて どれ位いるのだろうか?
少なくとも10年前の俺にはそれは出来なかった。
10年経った今だからこそ別れを素直に受け入れ、今の美香の幸せを心から願うことは出来る。
ただ、美香は10年前の手紙の中にも「あなたにとってプラスになる日が来ると私は信じています」と書き綴っていた。
昔と今と同じ事を言えるのは やはり本心からそう想っているからだろう。
「もうこんな時間になってるね」
「ホンマやなぁ。そろそろ帰らなアカンなぁ」
「それじゃぁ、そろそろ店を出る?」
「そうやな。今日はこの辺にしとこか」
「....今日は、付き合ってくれてありがとう」
「そんなん気にせんでいいって!!それじゃ、時間がある時にいつでも遊びに来てや」
「また......会えるかな...?」
あまりにも小さい声だったので聞き逃してしまう所だったが、また会えるのか........ってのはどういう意味なんだろう?
深く考えすぎなのかもしれない......。
最後の一言はよく聞き取れなかったが、俺の働いてる店も知ってる訳だし時間がある時にでも、また会える時はあるだろう。
そろそろ、俺も帰ろうかな。




