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夢を見たその後で 3話 「告白」 その2

”てるてる”に着いた。井上さんもそろそろ来ている頃だろう。

「.........」


どこにいるのかな?とあたりを見渡していると、

「店長!!こっちですよー☆」

と少し離れた場所から声がしてきた。

「井上さん、待たせた?」

「いえ、私も今着いたばかりですよ」



確かに、小野寺さんの言う通り今日はばっちり化粧をしているみたいだ。

井上さんは普段は薄化粧な方なんで「少し幼く見えかわいらしい」キャラというのが俺の中で出来上がってるんだけど、

今日の彼女は「少し幼く見えてかわいらしい」+「華があって綺麗」という感じの印象だ。

「店長ーどうかしましたか??」


またしても、まじまじと見てしまっていたらしい。少し変わった事があると観察してしまうこの癖は直さないといけないなぁ。

「私の顔に何かついてますかぁ?」

「いや、井上さんのメイクがいつもと違うなぁって思って、つい....ね。」

「よく気づきましたね☆普段はあんまり化粧しないんですけど、変ですか?」


「そんなことないで!井上さんは元々かわいらしいって思っていたけど、今日はなんか大人やなぁって感じで綺麗やと思うで」

「ありがとうございます☆お世辞でも、そう言われたらなんか嬉しいですね」

「お世辞なんかとちゃうよー。俺は、思ってない事は言わへんしな」

「...........」

井上さんが急に黙ってしまった。

「あれっ、井上さん??」


「俺、何かまずい事言ったかなぁ?」

「...........」

「あっ、ごめんなさい。何でもないですよ☆少しぼーっとしてしまってたみたいでした」

どうも、井上さんは考え事をしてたみたいだ。

「このままここで話すのも何ですし、少し場所を移動しませんか?」

「そうや、どこかご飯でも食べに行こうか?」

「はい♪いいお店知ってるから、そこに行きませんか?」





「ここです!なかなかいい雰囲気でしょ?」

「そうやなぁー!おしゃれやけど落ち着いてていいなぁー」

「でしょ!!私のお気に入りのお店なんです」

井上さんは少し自慢げに胸を張った。

カウンターに座ろうと思ったが井上さんが”私の場所はここ!”みたいな感じで店の奥のほうに入っていったので俺もついて行った。


少し奥の方の席を陣取りいすに座った。

「まずは飲み物でも頼みましょうか」

「えーっと、私はファジーネーブルで」

井上さんらしいかわいらしい選択だ。飲みに来たらとりあえずビールと言ってしまう俺としては”スーパードライ!!”もしくは”生中”なんだがメニューにはドライがないので仕方なくバドワイザーを頼んだ。


「お疲れさまでしたー♪」

「お疲れー!!」



カチン♪


飲み物も来てまずは乾杯!

そのあと、出てきた料理を食べながらしばらく雑談した。

バカな話なんかをして久しぶりにいいストレス発散になったと思う。


結構な時間になってきたのでそろそろお開きにしようと思っているんだが、どうしよう?



きっと俺はそんな顔をしていたんだろう。井上さんはそんな俺の顔を見て

「さて、そろそろ本題に入りましょう!」

と、切り出した。

「本題!?」

俺はかなり間抜けな声を出してしまった。

「そうです、本題です!今日、店長の調子が悪かったのはどうしてかって話です。何かあったんですか?」

「いや........ホンマ大した事ちゃうからそんなん気にせんでええよ」

「大した顔しているから気にしてるんです。こんなにはっきりと”ウソ”って顔に書いてる人、なかなかいないですよ。.......もしかして、彼女と何かあったんですか?」


「.......................」


なかなか鋭い質問をされて俺は何もいえなかった........。




「............」


「あっ.......ごめんなさい。 話したくなかったらいいんです.......」

「............」

「ほんとにごめんなさい......店長も話したくない事の1つや2つはありますよね」

「いや、ええねん。彼女と何かあったんはホンマの事やから」

「えっ....?」



「どこから話をしてええもんかわからへんのやけど.........」

なんでだろう?こんな事アルバイトの子に言うような話じゃないのに....何故か話したくなってきた自分に気がついた。

「俺には、付き合って5年の彼女がいるねんけど、そこは知っとるよな?」

「はい」

「その彼女に結婚して欲しいって言ったら断られたねん」


「えっ....!?どうしてなんですか?」

「俺の心の中には、未だに10年前に別れた彼女がいるって言われたねん」

「10年も....前の、ですか.........?」

「うん、俺はそんなつもりはなかったんやけどな。少なくとも最近まではそんな昔の事すっかり忘れてしまっていたし」

「少なくとも最近....って事は、今は違うんですか?」


「最近、偶然店で会ったねん。店で迷子になっていた男の子がいて、その子をインフォメーションまで連れて行きたいから教えて欲しいって声をかけてきたねん」

「まぁ、向こうは気が付いていなかったみたいな感じやったけどな」

「それで、何かお話したんですか?」

「いいや、何も話はしてないよ。何か話しようかとも思ったんやけど、あえて何も言わずに帰ったよ」


「どうしてですか?」

「なんでかなぁ?.....過去の思い出としてしまっておきたかったからかなぁ」

「思い出......ですか?」

「そう......とは言うても、もう10年も前の事なんやけどな」

「完全に.......忘れていたつもり.......やったんやけどな」

すでに6杯目になろうかというバドワイザーに手を付けた。



「よっぽどその人の事が好きだったんですね....」

「少なくともあの当時はね。でも、今の彼女と比べてどうだとかは思った事もないで。こんな事を井上さんに言い訳してもしゃぁないんやけど、未練とかそんなんはホンマにないし今、1番大事なのはあいつやしね」

「ふふっ....。それで、その言葉は彼女には言いましたか?」


「いや、言ってない。言い訳せんでええ人にして、せなあかん人には何も言っていないなぁ。図星を付かれて何も言えなかったってのもあるけど、何を言ってもウソ臭くなってしまうような気がしたから」



「でも、私が店長の彼女ならウソでもいいから言い訳して欲しかったな」



「えっ....??」

「だって、そうでしょ?店長の過去に何かあるように誰にだって失恋の思い出の1つや2つはありますよ......それをあえて持ち出してきたのは、店長の事試したんだと思う」

「............」

「過去に何があっても”過去の事は過去の事”でしょ!?....だから、今、1番大事なのはおまえだって強く言い切って欲しかったんだと思う」

「............」


「なんで、店長は1番大事な事を......1番大事な人に.....言わないの?........言わなきゃ何も伝わらないじゃない!?」

「...........」

泣いていた.......井上さんは泣いていた。

なぜ俺のことで、彼女が泣くのだろう.......。

「井上さん........?」



「ごめんなさい......偉そうな事を言っちゃいましたね。でも、私が彼女ならやっぱりそういって欲しいです......言わなきゃ伝わらない事.....たくさんありますよ」

「そうやね。井上さんの言うとおりかもしれない。言わんと伝わらない事って多いよな」

「そうですよ!だから、店長頑張ってくださいよ!........ぐずっ.....」


井上さんは完全に泣いている。何か、彼女を傷つけてしまったのだろうか?

「井上....さん?....なんで泣いているの?」

「............」

「井上さん?」


「こんな気持ち....気が.....付かなければ良かったのにね...」

「えっ??何の事???」

「私の......」


「私の気持ちの事です」

「いのう....え....さん?」

「..........もちろん、彼女がいる事は分かってますよ。5年も付き合っている彼女がいて.....忘れられない人までいて。私なんかじゃ勝ち目がないって知っています。でも、なんででしょうね?」

「...........」

「気が付いたら、好きになっちゃいけない人を好きになったみたいです」


「なんで、こんな気持ちに気が付いちゃったんだろう.......。」

「気が付かなければ.....」

「世の中には知らないほうが幸せな事もあるんです!!」

「そんな事分かってるのにね......」

「ほんとになんでだろう?」

「.............」


何も言い返す言葉なんてなかった。

今の俺には、ただ彼女を見守る事くらいしか出来ない。

俺の事をここまで好きになってくれる人なんて一生のうち何人ぐらい存在するのだろう?

井上さんがそういう風に想っているなんて考えもしなかった。

きっと、傍からみれば俺は贅沢以外の何者でもないんだろう.......。

ただ、今の俺には彼女の気持ちには応えてあげられないしそんな資格もない。



そんな資格なんてないはずなんだが.....。


彼女から目が離せなくなってしまっている自分に気が付いた。


俺は、本当はどういう気持ちなんだろう?


「井上さん........」


「はい......」


「俺は.......井上さんを......」

「店長............」

 

俺は何を言おうとしたんだ!?

彼女の気持ちに応えるつもりなのか....!?

出掛かった言葉を飲み込んだ.....。

もう、何杯目かもわからないバドワイザーに手を伸ばした......。

明日の仕事の事なんて考えられない。

今はそれくらい頭が混乱している。

ただ、俺の横で静かに泣いている彼女がすごく綺麗で.....そして、儚く見えた。

「そろそろ..店の.......です」

井上さんが何かを言っているみたいだ。


かなり酔いが回ってるみたいで彼女が何を言っているのかはよくわからないが、そろそろ店を出たほうが良さそうだ。

俺は家まで歩いてでも帰れる距離なんだが、井上さんはそうはいかない。終電は間に合うのだろうか?


「それじゃあ、そろそろ出ようか?」

「........はい」




「終電は大丈夫?」

「はい。多分、大丈夫だと思います。店長こそかなり飲んでるみたいですけどちゃんと歩けますか?」

「あ...うん。大丈夫!すぐそこやし何とかして帰るわ!!」

「そうですか......それじゃあ、お疲れ様でした。.....また明日」

「うん.....また明日な」


「.............」

井上さんは駅のほうへ行ったみたいだ。

彼女の手前、平静を装ってみたけど、正直もう歩けない。明らかに飲みすぎたみたいだ。

誰も見ている訳でもないし、アスファルトの上に寝そべってみた。

このまま寝てしまいたい気分だ。

最近、いろんな事がありすぎて頭の中もパンク寸前だし......このまま.....寝てしまおう。


「..................」

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