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第二話 北方戦略 3部


第二話 北方戦略


第3部「深海に眠る未来」


新首都・福原。


信旭幕府幕僚長、江口亮介。


新しい日本の政を担うその男は、今日も執務室に缶詰めになっていた。


机には、山のような資料。


国内経済、国防、都市開発、次世代エネルギー。


そして――。


東京湾・相模湾海底開発計画。


江口は、その資料に目を通していた。


「……いよいよ、ここまで来たか」


画面には、東京湾の地下構造図が映し出されている。


真大和と真武蔵。


二隻の巨大な量子核融合潜水戦艦を収容できる、新たな地下ドック。


さらに、地下電力網の拡張。


発電によって生み出されたエネルギーを細分化し、再利用するための巨大プラント。


その構想は、すでに具体的な建設計画へと移されていた。


だが、江口の目はさらに先を見ていた。


東京湾の隣――相模湾。


その深海には、まだ人類が十分に解き明かしていない世界が広がっている。


江口は通信を開いた。


「西郷君。例の小型量子潜水艇はどうなっている?」


[現在、製造を急いでおります]


「そうか」


西郷の提案を取り入れた、無人小型量子潜水艇。


深海を探索し、海底地形や資源の分布を調査するための機体だった。


その目的は、単なる資源探査ではない。


相模湾の深海に、巨大な水中プラントと研究所を建設すること。


日本の未来を支える、新たな研究開発拠点。


江口は、静かにうなずいた。


「……始めるか」


---


その後、江口は真田との通信をつないだ。


「真田。西郷君の水中プラント計画を、本格的に始動しようと思っている」


[ほう! いよいよか!]


真田の明るい声が返ってきた。


[いいじゃないか! そろそろ、あらゆる可能性を考える時期に来ているからな!]


「そうだろう?」


[ところで江口。西郷の奴、俺には秘密だって詳しいことを教えてくれないんだよ!]


「はっはっは!」


江口が笑った。


「お前、いつも西郷君をいじってるだろ? だからだよ!」


[おいおい! 江口は西郷をいじらないのか?]


「俺がいじってもなぁ……」


江口は苦笑した。


「あの男は天然だから、笑いの向かう方向が違うんだよ!」


[わっはっは! 分かる!]


「お前と俺は、笑う場所が同じなんだけどな!」


[そうそう! 西郷のあのいじりやすさは天下一品だよ!]


二人の笑い声が響いた。


国の中枢を担う男と、世界を相手に動き回る男。


それでも、昔からの関係は何も変わっていなかった。


---


「ところで真田」


江口が声を落とした。


「東京の地下施設について、アメリカに気づかれていないか?」


[今のところ大丈夫だ]


「そうか」


[向こうは、東京跡地の汚染数値が下がるまで、あと四、五年はかかると思っている]


江口は静かにうなずいた。


「その間に、こちらの計画を進められるな」


[ああ。時間は十分に活用しないとな!]


「それで……発充電循環システムは完成したのか?」


[完成した!]


真田の声が力強く響いた。


[ただし、大規模な核融合炉については、まだ研究を重ねる必要がある]


「なるほど」


[真大和と真武蔵には、すでに実用化した核融合技術がある。だが、それを国家全体を支える規模にまで発展させるには、もう少し時間が必要だ]


「焦る必要はないさ」


江口が答えた。


「確実に進めよう」


[ああ!]


江口は画面を切り替えた。


そこには、東京湾の海底を貫く巨大な地下トンネルの建設図が映し出されていた。


「今、東京湾の地下では巨大トンネルの掘削を進めている」


[ほう!]


「真大和と真武蔵。その能力を最大限に活かせる日も、そう遠くない」


真田は笑った。


[楽しみだな!]


「そして、核融合技術と発充電循環システム」


江口は続けた。


「この二つが本格的に国家のエネルギー基盤を支えるようになれば、日本のエネルギー事情は大きく変わる」


[ああ。石油をはじめとする限りある資源も、無駄に消費せずに済む]


「そういうことだ」


江口は静かに笑った。


「資源を持たない国が、資源に振り回されない国へ変わる」


真田はしばらく黙っていた。


そして――。


[……いい言葉だな、江口]


---


「だが、まだ外には明かせん」


江口が言った。


[ああ。アメリカには、もうしばらく資源の乏しい日本を演じておこう]


「向こうは、こちらの技術を何でも知りたがるからな」


[はっはっは! まったくだ!]


「真大和と真武蔵についても、まだ正体は知られていない」


[そうなのか?]


「ああ。日本が原子力潜水艦を保有していることまでは把握しているらしい」


江口は笑った。


「だが、うちのAIは賢いぞ!」


[ほう?]


「アメリカが探りを入れてくると、誰かさんみたいに、すっとぼけるのが上手いんだ!」


[おいおい! 誰のことだよ!]


「さあな!」


[分かった! アイリだろ!]


真田は豪快に笑った。


[あいつ、いつも俺をいじめるからな! はっはっは!]


「まったく、お前という奴は!」


江口も笑った。


---


しばらくして、真田の声が少し真剣になった。


[江口]


「ん?」


[お前のおかげで、俺たちは本当に助かってる]


「……」


[ありがとうな!]


江口は、少しだけ目を細めた。


そして笑った。


「礼を言うには、まだ早い!」


[ん?]


「これからお前には、まだまだ働いてもらうことがあるんだ!」


真田が笑う。


[おいおい! まだ働かせる気かよ!]


「ああ!」


江口は力強く答えた。


「真大和と共にな!」


短い沈黙。


そして――。


[……了解してますよ、首相!]


「はっはっは! じゃあ、またな!」


[ああ!]


通信が切れた。


---


江口は、再び相模湾の海底図に目を向けた。


深く、暗い海。


そこには、まだ誰も知らない可能性が眠っている。


資源。


新たなエネルギー。


そして、人類がまだ到達していない技術。


真田は北方で動き、江口は国内の未来を築く。


西郷は、その未来を現実の技術へと変えていく。


それぞれの場所で、同じ志を持つ男たちが動き始めていた。


かつて、日本は資源を求めて世界を見渡していた。


だが、これからは違う。


自分たちの足元に眠る可能性を、自分たちの手で切り拓く。


海底に、新たな研究所を。


地下に、巨大なエネルギー網を。


そして、その先には――。


まだ誰も見たことのない、新しい日本の姿がある。


真大和。


真武蔵。


二隻の潜水戦艦もまた、進化を止めない。


日本の未来を乗せて――。


さらに深く。


さらに高く。


――RISING.


――第2話「北方戦略」完。

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