スズメの襲来
資材を調達した翌日、まずは自分の部屋を直してみるかと縁は腰を上げた。
「えっと上と下で留まってるから…ドライバーで…うおっ!…外れた…」
外したと言うより剥がれたような、ついに壊れたような気もするがドアは簡単に外れた。後は錆びた蝶番を交換するだけだが、よく考えたらこんな物で作られている扉なんていつの時代の物かと思う。
ドア側と支え側をしっかり新しい蝶番とネジで固定してみる。
上下の蝶番入れ替えに時間を費やしたがなんとか完了、汗だくである。一人でやるには少し辛い作業だがボロい扉が軽い分まだマシなんだろう。
とにかく成果を確かめる。
スッと閉まりスッと開く、嫌な音もなくガタ付きも無い。成功だ。
「良かったぁ」
上手く行った事に心底ホッとして隣を見る。
「…あと五箇所?」
住人全部の戸を補修するには労力が要りそうで気が遠くなった。
「と、とりあえず…汗流してこよう」
汗だくになったので温泉へと向かう事にした縁は温泉横を眺める。
「脱衣所作りも要るのかな…」
日曜大工レベルなら出来るが建築となると自信は無い、大人しく業者依頼すべきだろう。浮かんだ脱衣所作り案を振り払い温泉へと入って行く。
石を積んで作られた天然温泉だが、これは誰が作ったのだろうか?よく考えればここだけ人の手で作られている。
「狐音さん達がやるとは思えないしなぁ…」
バシャバシャと顔を洗いながら呟いた。それが縁の気付きを遮っていたのだ。
「何をですかぁ?」
突然真横から声がして盛大にお湯にダイブしてしまった。
お湯から顔を出し見た先には…一糸纏わぬお姉さんが笑顔見せてるお姿。
「ス、スズメさん!」
「はい、スズメですよ〜」
ニコニコしてるがこの状況はまずいのでは?
慌てて縁は後ろを振り向いた。
「あら、恥ずかしがって可愛いですね」
「いや!まずいでしょ!!」
余裕たっぷりのスズメと全く余裕等無い縁、お互い裸で混浴している。
「せっかくの温泉なんだからリラックスしましょうよ〜」
スズメと初めて会った時もだが、少しズレた感覚をお持ちなのだろうか?本人は全く気にしてないようだ…
モジモジしてると痺れを切らしたかのようにスズメはジャブジャブ音をさせている。気のせいか音が大きく近くなってきた気がしたところで…
「えい!」
ザパンと湯が跳ねると同時に物凄く柔らかい物が背中に押し当てられている。間違いなくこれは…
「スズメさん!!」
「せっかくご一緒になれたんですもの、仲良くしましょうね」
耳元で囁かれ、もう縁に考える力は無かった。
「…あれ?ここは?」
意識が戻った時は見知らぬ風景の中だった。ぼんやりした視界がはっきりした時に壁から生首の何かと目が合い悲鳴を上げた。
「あ、気付きましたか良かった〜」
横にいたのはスズメだった。介抱されていたのだろう。
「縁さん逆上せたんで家に運んだんですよ」
ほわほわと言ってるが成人男性運んできたとは一体…
「もう大丈夫そうですね、着替え見つけたんでこれどうぞ〜」
着替え…?そう言われて身体を見る。見事に素っ裸のままである。
「うぅ…すいません」
とりあえずスズメに謝っておいた、何に対して謝ったのか自分でもわからないまま。
すると、今度は玄関の扉が開く音がする。
「スズメ、今の声何?」
あのギャルは…ヘビメだ。
「あら、さっきの悲鳴聞こえました?縁さんが鹿の頭見てびっくりしちゃって」
鹿の頭と聞いて壁を見る、これはアレだ狩りをした獲物の剥製だ。コイツと目が合い悲鳴を上げ、隣のヘビメが様子を見に来たのか。
「なんだそんな事か…うーん」
ヘビメが身体を見ている、まだ着替えてなく裸である。あまり見ないで欲しい。
「スズメ達、何してた?」
あらぬ誤解を招いてる気しかしない!慌てて服を着て経緯を説明した。
「…と言うわけで」
「縁さん可愛いのよ」
スズメはやはり何かズレている。
「ふーん、まあ良いや」
大した興味も無さそうなヘビメだったが縁はまた見つめられて言われる。
「あんたまだまだよ、胸筋が足りない」
「へ?」
「スズメ、狩りに連れて行くのはどう?」
「あら、良いですね〜一石二鳥ってやつですね」
何かわからないまま話が付いている。怖すぎる。
「一ヶ月で仕上げて、良い物描いてあげるから」
「し、仕上げる?」
「身体を締めてモデルやって貰うから」
「モデルって…俺がですか?」
「幽荘に男は貴重、この機を逃せない」
ヘビメの目が本気過ぎて反論が許されない空気だ。アーティストってこんな感じなのか?
「ちょうど狩りに行きますから行きましょう」
いつの間にか大きな荷物を担いで手を掴まれている。しかも女性とは思えない力を感じる。
引き摺られながらスズメ宅を後にした。




