本番前の団欒
時間は掛かったが精霊柱は全て作り上げ、儀式に使う陣幕も補修と設営が完了した。
普段野っ原部分の幽荘前が賑やかになっている。
「狐音さん、精霊柱はお焚き上げって聞いたんですけどどこでやるんですか?」
「その辺でブワーっと燃やすんじゃ」
割とその辺りはアバウトなのか、田舎の民家も無い私有地だからこそか。
「縁よ、トラメはお主の部屋で寝る場所あるんかの?」
「子供一人くらいなら大丈夫ですよ、と言うか僕のとこに泊めろって狐音さんが言ったんじゃないですか」
「そうじゃったの、さーて準備はあらかた出来たし日も暮れてきた。縁よ二つ三つ精霊柱灯してみるか?」
狐音は足元からランダムに取り縁に渡してきた。
「おーい、ネコメとトラメもおいで」
呼ばれた二人も揃い精霊柱に火を灯す事に。
「……じゃいくよ」
中の蝋燭の先に火を点ける、すぐに火のゆらめきが生まれ内側から精霊柱外箱部分に書かれた言葉や絵が浮き出てくる。
「わぁ……」
ネコメとトラメは綺麗な物を見る顔で精霊柱を見つめる。
「狐音お姉ちゃん、明日は全部点けるんでしょ?凄いね!」
「おお、トラメ達が作った精霊柱が全て灯れば圧巻じゃろうて」
確かに二百個近い精霊柱が広範囲に灯るのは凄そうだ、一つ灯るだけで優しい雰囲気を辺りに振り撒いている。
カシャ!
「うふふ、綺麗ですわね〜」
スマホのシャッター音と共にユウメが現れた。
「皆さんご飯の準備ができましたわよ、スズメちゃん特製の野菜天ぷらたっぷり素麺ですわよ〜」
時間も夕食時、ユウメが呼びに来てくれたのだろう。
「トラメ君、いこ!」
「うん!」
ネコメはトラメの手を取り調理場へ走って行く。
今日の準備通じて仲良くなったようでなによりだ。
「それじゃあ私は狐音姐さんと管理人さんの手を繋ぎましょう〜」
ユウメは間に入り縁と狐音の手を取り上機嫌に引いて行く、狐音と目を見合わせて「まあ良いか」と笑いあった。
今日はトラメを加えて皆で食卓を囲む、何気無いその集まりが楽しみだと縁は最近思っている。
「縁兄ちゃんも皆とご飯食べてるんだね」
素麺を綺麗に啜りながらトラメは言った。
毎日では無いが幽荘で何かある時なんかは恒例となっている事に気付く。
(ありがたい事だな)
ワイワイと今日泊まりのトラメを主役に幽荘の面々が可愛がっている、少し取られた気がするなと苦笑した縁も混ざり楽しんでいく。
「さて、それじゃあトラちゃんお風呂一緒に入りますわよ〜」
「ほっほ、洗ってやるぞ〜」
ユウメと狐音がとんでも無い事を言い出した、いつの間にか酒瓶が空いている。入浴前に呑むなと言っているのに……
ポカンとしたトラメは言う。
「え?俺男だよ?」
正直な反応だ、それが普通だと思う。幽荘の女性陣、特に狐音とユウメは壁が無さすぎるのだ。
「あら?冗談ですわよおほほ」
「うむ、リュウメはちゃんと教えてるんじゃのう」
散々縁入浴中に乱入してきた過去があるのに、とぼけだす二人に溜息を吐いて縁は言う。
「二人共まだ子供だけど男なんだから……あと温泉前に呑み過ぎないで下さいよ」
ムゥと二人して口を尖らす、そんな様子を残りのメンバーが笑いながら見ていた。
「さて、こっちだよ」
縁はトラメを連れて温泉に向かった、夜に外を歩く新鮮さと幽荘温泉に入ると言う事で若干興奮しているようだ。
「すげー!外にお風呂あるんだ!早く行こ!?」
「走ったら危ないよー」
脱衣所で服を脱ぎ、温泉に二人で入る。温泉改修後で男湯に二人は初めてだ、それ以前は混浴であったし縁にお構いなしで女性陣がよく乱入してきたのだ。
「人によっちゃ天国だが、俺はやっぱ恥ずかしいよ」
湯に浸かり身体を伸ばして呟く。
「何言ってんの兄ちゃん?」
「いや、なんでもないさ」
トラメはパシャパシャと広く使える温泉が気に入ったようだ。
「孤児院の兄ちゃんや弟達と取り合いにならないから、すっげー気持ちいいー」
「孤児院のお風呂は皆で入るの?」
「うん、女の子と順番こで入ってるけど狭いんだ」
幽導孤児院の孤児人数からすれば毎日が修学旅行みたいな集団生活、各種設備も大きいだろうが贅沢出来るレベルでも無いだろう。
「トラメ君は早く大きくなって孤児院出たいのかい?」
「うん!ユウメ姉ちゃんみたいに凄くなって恩返しするんだ!」
「そうか……じゃあ勉強もしなくちゃな、あまり俺が言える事じゃないけど」
将来を見据える少年の笑顔が、浪人の縁には眩しく感じられた。
「兄ちゃん、なんか声が聞こえるよ」
「ん?女湯で皆集まってるんじゃないのかな」
「そうなのかな?なんか男の子みたいな声のような……ん?気のせいかな?」
縁も耳を澄ましてみるが特に変わりはない、強いて言えば女湯ではしゃぐ狐音達の声くらいだ。
「長く浸かり過ぎたかな?そろそろ上がろうか、湯冷ましにバルコニーに行こう飲み物もあるぞ」
「やった!行こう!」
バシャバシャと急ぐトラメを微笑ましく見て、縁も上がる。
誰も居なくなった男湯に「良いね」と微かな声が響いた。
着替えてバルコニーに出た縁とトラメは夜風に当たりだらけていた。
「気持ちいいね」
「うん、幽荘って面白い所だね兄ちゃん」
子供からすれば面白い所に見えるのが幽荘なのか、大人になれば周りに何も無い田舎だが視点が違うんだろうなと縁は気持ち良さそうに寝転んだトラメを見る。
そこに女性陣も上がったのか騒がしい声が近くなる。
「おーお主ら上がってたのか、トラメやどうじゃ気持ちええじゃろ」
「うん!最高!」
後ろからゾロゾロ見える面々、皆湯上がりの色気が凄い。トラメが居るから冷静に見てるが、ほぼ毎日こんな美人達に囲まれていれば感覚もおかしくなるよなと縁は久しぶりにドキドキしている。
「なんじゃ縁よ、顔が赤いぞ?」
「いや、その……湯当たりしたかなー」
適当な誤魔化しに不思議な顔を皆にされて恥ずかしい。
「まあええわい、明日の流れじゃがのお主には三人の迎え。朝一に出て昼前には来れるじゃろ、それから鎮魂祭の儀を女性陣で行う、皆よろしく頼むぞ」
「ハイ!」
「明日パパが来るからトラメ君は朝パパと精霊柱の仕上げね」
ヘビメがトラメに指示をして細かな流れ確認を絵で描いている。
「タカさんが来たら私の下へ、調理場に居ると思いますが鎮魂祭の奉納用のお料理手伝ってもらいますので〜」
スズメから特別な指示も受ける。
「わかりました、狐子さんとリュウメさんは何かあります?」
「あのお二人は私とネコメちゃんの下へ、お着替え手伝いますので」
「私、頑張る」
ユウメとネコメも気合いが入っているようだ。
「儂は鎮魂祭の祭壇におるから何かあれば声掛けてくれんかの、少しばかり集中しとるから」
儀式を司る役目だろう、狐音はいつもよりキリッとしている。缶ビールを片手に。
「改めて皆頼むぞ」
狐音の発声に皆頷き、しばらく雑談して解散となった。
縁宅にトラメを招き布団を並べる、トラメ用にとスズメが用意してくれた物だった。
明日が早い為、いつもより早い就寝となる。いきなり一泊の環境でトラメは大丈夫だろうか心配になったが、時間掛からず寝息が聞こえる。
はしゃぎ疲れもあったのだろう、すぐに深い眠りに着けたようで安心した。
(鎮魂祭か……思ったより大きな規模だな)
改めて鎮魂祭と言う儀を行おうとする意思と言うより、使命のようなモノを感じながら眠りに着いた縁であった。




