リニューアル幽荘温泉 後半
「二人程見当たらなくないですか?」
縁は姿の見えないユウメとネコメはどこに居るんだとキョロキョロする、温泉エリアでは見かけない。
「そう言えばそうじゃの、まあ部屋におるんじゃないかの?」
「アタシも知らない」
狐音もヘビメも見てないようだ、スズメは一緒に居たし。
「居ないのら仕方ねぇ、時間も無いし設備使い方教えながら説明してくぞ!」
ジャノメを先頭に温泉と幽荘を繋ぐ入り口からツアーが始まる。
「まず始めの温泉への道だな、今までは夜は明かりを持って温泉に来ていたが脱衣所までの明かりを設置した」
ジャノメの撫でる電灯は等間隔で設置され、奥に見える脱衣所まで連なる道になっている。
「ありがたいですね、夜真っ暗だったし」
「ちなみに電力は幽荘の立地を活かしてソーラーと近い川から水力で賄っている」
意外にも現代的な発電方法である、確かに周りが自然に囲まれた幽荘だから出来るやり方だろう。
「お次は、にいちゃん要望の脱衣所……いや脱衣小屋だな」
縁一番の要望、これの為に改修工事が出来たと言って差し支えない。
外観は丸太で組まれたように見える丸太小屋となるが、細かくみると濡れても大丈夫なように床にコンクリートも使われている。ちゃんと男女別で女子側がもちろん広く取られてる。
女性側脱衣所に入ると銭湯の脱衣所のように棚はもちろん、ベンチも有りスキンケアスペースも複数ある。
「きゃ〜凄いですわジャノメさん〜」
スズメが歓声を上げる、これまで温泉本体しか無かったので皆自宅に着替えに戻りドライヤーやスキンケアをしてたのが一気にこの脱衣所室内で完結するのだ。
「一昔前の銭湯脱衣所イメージだがな、味があるだろう?」
ジャノメ自身も納得できる出来だそうだ。
「パパ、アタシが女目線でリメイクしたの忘れないで」
どうやら女性目線の設備やデザインはヘビメ監修のようだ。
ちなみに男子脱衣所、つまり幽荘では縁専用になるとこは狭く最低限のスペースしかない。
それで良いのだ、女性陣と裸で交差さえしなければ。
「む?なんじゃ?見えにくいが遮られた壁の奥に行けるようじゃが」
狐音が何かに気付き近づいて行く……
「おお!皆来てみろ!」
狐音が声を上げる、何だ何だと行って見ると……
「これは……」
「わあぁ〜」
「パパやるじゃん」
「へへ、脱衣所から繋がるバルコニーだ」
かなり開けたスペースを取り幽荘も側に見えつつ、目の前に山の自然と空が見える語らい空間がある。
照明スイッチはここだと説明するジャノメの側には、大きなガラス戸の冷凍ストッカーと中が見えるボックス型冷蔵庫が設置されている。
「あ、あれって狐音さんとユウメさんが買ってきた冷蔵庫達」
「なるほどのう、ここで儂とユウメの要望に応えたんじゃな」
狐音は酒飲みスペース、ユウメはお風呂上がりのアイスや牛乳が飲みたい。それを温泉上がりに皆で集まれるバルコニーとして叶えてくれたのだ。
「これならにいちゃんも気兼ねなく参加出来るだろ?」
「嬉しいです!いや、ほんと凄いです!」
「やるじゃんパパ、ここは図面に入れてなかった」
「おう!ヘビメから貰ったデザイン案を図面に落としたらスペースが良い感じに空いてな!ま、これも幽荘の土地の広さだから出来た事だ」
まだ脱衣所だけなのに至れり尽くせりだ、しかし冷蔵庫冷凍庫はスイッチ入ってるが中身が無い。特に楽しみにしていたユウメは何処へ……
一行は脱衣所を出て温泉へ。
まだお湯は張ってないが、改修前と随分様変わりしている。
以前は一つ浴槽の温泉だったが、大浴場と小浴場になるよう衝立が設置されている。広い方が女性陣で狭い方が縁だろう、それでも一人にしては充分すぎる広さだ。
「大浴場側だけになるが今回浴場を増設したぞ、一人風呂だがスズメちゃん要望の薬草湯にしてくれ!」
ジャノメが指す所にちょこんと小さな浴槽が出来ている、確かに一人しか入れないだろうが薬湯なら問題無いだろう。
「ジャノメさんありがとうございます〜これで薬草採り過ぎた分を無駄にしなくて済みますね〜」
スズメはどんな薬草湯にしようかウキウキしている。
一つ気になる物が縁にはあった。
「ジャノメさん、あれはなんですか?」
「おう、あれは……滑り台だな」
薬湯用の浴槽横に、明らかに材質が人工物のツルツルした傾斜ある台が大浴場に向けられている。
「一番悩んだ末に採用したのがあれだ」
「ああ……ネコメちゃんのプール」
ネコメはプールが欲しいと言っていたのだ。
「ネコメちゃんの願いが一番難儀しててな……滑り台付けて大浴場で泳いでもらう事にした」
ジャノメは苦笑しながら言う、どうやら純粋なプールは作るには厳しいようだ。
「にいちゃん、上手い事しといてくれや……ネコメちゃんには申し訳ないが」
「ハイ、上手く誘導しておきます」
男同士秘密のやり取りをした後、全体を見る為それぞれがバラけて色々と見て周る。
大きな増設は脱衣所だが、温泉本体のスペースはそんなに変わらない。上手くやりくりしてバージョンアップさせたジャノメ率いる職人達に舌を巻く。
再度皆が一箇所に集まった時に、作業していた職人達が何かテントの設営を始めた。
「アレはなんじゃ?まだ何か作るのか?」
狐音は不思議そうに見つめている
「そうよ狐音さん!ささやかだがアレは俺達からのプレゼントだ!」
「プレゼント?」
幽荘メンバーが首を傾げてる内にテントがどんどん出来上がっていく。キャンプで見るようなテントとは少し違う。
「親方ー!オッケーです!」
「おう!ごくろうさん!さ、皆こっちへ」
ゾロゾロと設営したてのテント前に集まる。近くで見ると材質がやけにしっかりした黒いテントだ。
「にいちゃん、上脱いで入ってみな」
「へ?」
「縁、脱ぎなさい」
ジャノメ親子に服を脱ぐ様指示され、上だけとりあえず脱いだ。皆に見つめられるのが少し恥ずかしい。
テントの入り口は二重構造になっており黒い布地の内側はアルミシートだろうか?
中に入ると二人くらいしか入れない狭さ、テント中央に熱を放つストーブがあり石が積まれている。非常に蒸し暑い。
外から声が聞こえてくる。
「にいちゃん!横にバケツと柄杓あるだろ?中の湯を一掬い石に掛けるんだ!触んなよ!」
縁は言われたまま湯を石に掛けてみた。
シャアアア!ブワワ〜!
「えっ!何!?あつ!熱っ!!」
一気に温度湿度が上がって汗だくになる、堪らず外に逃げ出した。
「ガハハ根性が足りんな〜にいちゃん!」
ジャノメは大笑いしている。
「これは……サウナ、しかもロウリュ付きの。どうしたのですか?」
スズメはテントの中を眺めながら聞く。
「実はウチの職人共が宴を開いてくれたスズメちゃん始め、幽荘へ贈り物がしたいと言い出してな!急遽取り寄せたってわけよ!」
「まあ!そんな気を遣って頂いて……」
「良いんだよ!スズメちゃんには毎日ウチの職人共を気にかけてくれたんだ、お互い様だ!ガハハ!」
気持ち良く笑うジャノメに呼応するように職人達も手を上げたりポーズを決めたり、皆心からの贈り物をしたかったんだろう。
「感激です!」
スズメは感極まって泣きそうだ、憎い演出をしてくれる。
ふと狐音とヘビメが話す姿が見える。
「…まずいぞ、ここに置かれたら」
「うん、予定外」
「どうしたんですか?」
狐音とヘビメはまた揃って目を逸らし「何でも」と言う。さっきもこの場所でコソコソしてたが……
もう少し探ろうと縁は言葉を出そうとした時、幽荘の方でジャリジャリジャリと車が入ってくる音がした。
「ん?車の音?誰だ?」
余程の事が無い限り訪問者皆無のこの幽荘だ、皆が気になりアパート玄関まで見に行くと……
「皆様ただいまですわ〜」
満面の笑みで軽トラから降りてくるユウメとネコメが居る。
「あっ!また勝手に軽トラ乗ったんですか!?」
温泉側で作業や確認していたので、縁は気付けなかった。ユウメとネコメは軽トラで出ていたから居なかったのか。
「ごめんなさいね〜管理人さん忙しそうだったから〜」
大して反省してなさそうなユウメの後ろ、荷台の荷物を解いているネコメ。
「ユウメお姉ちゃん、急がないと」
「あ、そうよ急ぎませんと!皆さん手伝って下さい〜」
何だ何だと皆近くに寄り、理由が判明。
荷台に沢山の段ボール箱、ラベルは種類様々のアイスだ。他ドリンクにお菓子お酒とよりどりみどりである。
「職人さんにお願いして冷凍庫は冷やして貰ってるので、運んで下さいまし〜」
欲望に忠実と言うか行動力の塊と言うか……皆笑って手分けしてアイスを救出していく。
「ネコメちゃん、面白かった?」
「うん!大人買いって初めて見たよ!」
縁はネコメが楽しそうにしてるのを見て、軽トラを勝手に使った事は不問とした。




